表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

誕生日に名前を知ってもらう方法

作者: caco
掲載日:2026/04/01

「さっき、あの近藤くんが川崎さんにホールケーキを2つ買ってきてくれたらしいよ。」

「知ってる!しかも、この前テレビに出てた有名なあのケーキ屋で!」

「えー!?あの近藤さんが!?」


オフィス内がざわついている。

男女問わず、近藤の行動に動揺が隠せないのだ。


ーーー


大手不動産会社の営業事務として働く川崎 未来みく

今日で28歳になる。

もう6年目にもなると後輩への指導や他部署との調整など、

頼りにされることが増える。

この6年で、社内でも信頼も厚く、一目置かれる存在となっている。


一方、今話題の中心にいる近藤は営業部エース。

営業力はピカイチ。

後輩のみならず、先輩の行き届かない業務についても、フォローを怠らない。

だが、彼は他人との馴れ合いをとても嫌がる。

適度な距離をとても大切にしているのだ。

とはいえ、輝かしい見た目のせいで、周りは放っておかない。

未来もその1人だ。


その理由は彼の必殺技(?)にある。


『おはよう』


毎朝、王子様かと見間違えるほどに

キラキラしたオーラを身にまとい、

切れ長の目を細めて笑いかける。

短髪の黒髪が色白の顔によく映える。


毎朝、胸の高鳴りが止まらない。


これが近藤の必殺技『おはよう』だ。



それだけではない。


近藤は毎朝みんなが出勤する1時間前には出勤していて、

事務所内にある全ての加湿器の水を補充したり、みんなの机を拭いたり、

日めくりカレンダーを変えたりと

誰も気づかない、褒めてくれない、そんな仕事すら

彼は当たり前のようにスマートに何事もこなす。


そんな彼に6年間、未来は片思いしている。


::::::


未来の誕生日の朝。


未来が給湯室でコーヒーを入れていると、

後輩の弥生が声をかけてきた。


「今日、川崎さんお誕生日ですよね?

 おめでとうございます!!

 夜、家でケーキとか食べちゃうんですか?」


「ありがとうー!

 ケーキねぇ、食べないね。

 1人でケーキは・・・

 いつか好きな人と食べたいな〜なんて(笑)」


そこへ、近藤がマイマグカップを片手に給湯室へやってきた。

「近藤さん、おはようございます。」

未来と弥生が2人して耳まで赤くなりながら挨拶をする。


「おはよう」

近藤は今日も王子様オーラを振り撒きながら挨拶をする。


幸せを噛み締める未来に、近藤が言った。

「ケーキ、俺、買ってこようか。

 誕生日なんでしょ?」


未来は目を見開き、フリーズしてしまった。

未来の顔を横目で見た弥生がつかさず、代弁した。

「え!?いいんですか?」


すると近藤が 照れくさそうに はははっ と小さく笑って、

「じゃあ、決まりね」

と言って、オフィスに戻っていった。


「先輩!!すごすぎます!!

 あの近藤さんが先輩のためにケーキを!!」


未来の両肩をつかんで興奮する弥生の様子から、

未来はこれが現実なのだと理解した。



未来がコーヒーを片手に席に戻ると、

すでに近藤は外出していた。

社内システムで近藤のスケジュールを見てみると、

今日もぎっしり商談の予定が詰まっていた。

未来はマウスを強く握った。

《近藤さん、私なんかのために大丈夫かな、仕事。》


それから数時間後、

早足で近藤が戻ってきた。


オフィスにはたくさんの人がいたが、

人混みをかき分けて、未来の元へ一直線に向かってきた。

大きな袋を2つ抱えて。


「川崎さん、お誕生日おめでとう!

 俺は次の予定があるからすぐに出ちゃうけど、

 これ、みんなで食べてお祝いしてね^^」


未来は、大好きな人が忙しさの合間を縫って、

自分のために時間を使ってくれたことが嬉しくて、

嬉しさのあまり震える手を押さえながら

「近藤さん、ありがとうございます。

 本当に本当に、ありがとうございます。」

と潤む目を誤魔化すかのように満面の笑みを見せた。


近藤は未来の顔を少し見つめると何も言わず

少し顔を赤らめながら微笑みを返し、

すぐにオフィスを出た。


この近藤の様子に他の女子社員が黙っていない。

「川崎さん、今の何?」

「どういう関係??」

質問攻めにあう未来を横目に、

早速、弥生がケーキを箱から取り出して大皿に移し始めた。


「先輩!ケーキにプレートが添えられていますよ!!」

大声で弥生が未来に報告した。


すると、未来よりも先に女子社員たちがケーキを取り囲む。

「なんて書いてあるの?」

「知りたい!私にも見せてよ!」

ケーキの周りが騒がしい。


1つ目のケーキはチョコレート。

プレートのメッセージは『いつも ありがとう』


女子社員一同は悲鳴に近い黄色い声をあげた。

「きゃーー!」

「感謝の気持ちが一番に出てくるあたりが

 さすが近藤さんよね!!」

「いいチョイス!!!」

大絶賛だ。


一方で、

「近藤さんって、川崎さんのこと、好きなのかしら」

「だとしたら、悲しい・・・」

「近藤さんはみんなの王子様だもんね」

という絶望と悔しさに満ちた眼差しも多く存在した。


次に弥生が取り出した二つ目のケーキはショートケーキだった。

次はどんなメッセージが???!と未来を押しのけ

外野がざわつきながら、ケーキを取り囲む。


そしてプレートを見た。

興奮気味だった女子一同がプレートのメッセージを見て、

言葉なしに落ち着きを取り戻した。


そして、なんとも穏やかで哀れむ眼差しで未来を見た。

「川崎さん、お誕生日、おめでとう」

「川崎先輩、おめでとうございます」

「川崎、いい歳になるよう応援するよ」

同期、後輩、先輩も慰めるかの如く優しい口調で

未来にお祝いの言葉を送った。


最後に未来がショートケーキを覗き込むと、プレートには

『お誕生日おめでとう ミライ』

と書かれてあった。


そう、未来は「ミライ」ではなく「ミク」だ。


「先輩、、、

 近藤さん、急いでましたしね、うっかり、

 そうです、うっかりですね!」

慌てて近藤のフォローをする弥生に

そこにいた全員がドッと笑った。


未来もまさかの展開に、

「そ、そうだね!ミクって読みにくいよね。

 もはや 今日からミライになるよ!!ね!!!

 そう、近藤さんはいつも正しいよ!」

と近藤を必死にフォロー。


なんでもスマートにこなす近藤のうっかりミスを

全力でフォローする2人の慌てぶりに

オフィス全体が笑いの渦となった。


「さぁ、みんなでケーキをいただきましょう!!!」


もちろん、ショートケーキのプレートは

未来のお皿に乗せられた。


《勝手に期待しちゃった私が悪いんだけど、

 なんだか、がっかり感は否めないよ・・・》

この気持ちを表に出さないように

明るく振る舞う未来。


名前を間違えるあたりが『脈なし』と証明しているようで、

行き場のない気持ちでケーキを口に運んだ。



::::::


その日の夜。

退社前に給湯室でマイカップを洗う未来のところに、

近藤がやってきた。


「川崎さん、今日は一緒にケーキ囲んでお祝いできなくて

 すみませんでした。」


「あ!近藤さん!!今オフィスに戻られたんですか?

 お忙しい中、今日はケーキまで用意してくださって、

 本当にありがとうございました。

 素敵な誕生日になりました!!」


「いえ、そんな・・・

 というか、さっき同期のやつから連絡が来て・・・

 あの・・・

 名前を間違えてしまっていたと・・・

 本当に・・・本当に・・・

 本当にすみませんでした。

 次は絶対に間違えません!

 来年は絶対!! あの、本当に、」


いつも冷静沈着な近藤が慌てたように、

口ごもりながらも一生懸命に謝る姿に

未来は堪えきれず笑ってしまった。


ふふふふふっ


その笑顔を見て近藤は少しホッとしてような顔をした。


「近藤さん、来年もお祝いしてくださるんですか?

 それは楽しみです!

 今日みたいにうっかりしてる近藤さんも大好きですよ。」


笑いながら未来がそう言った。


「今日は本当にありがとうございました。ではまた明日。」


そう言って、未来が近藤の顔をみると、

近藤は顔を真っ赤にして、目を丸くして未来の方を見ていた。


「川崎さん、今、

 俺のこと、あの、好きって?!

 大好きって??」


「え??」

未来は慌てて口を押さえた。

すでに無意識に口から出てしまった想いはもう戻せないのに。

自分の迂闊さに後悔する間も無く恥ずかしくなり、

真っ赤になり俯く未来。


「川崎さん、このタイミングで申し訳ないのですが、


 前から、 ずっと前から、

 好きでした。

 僕の彼女になっていただけますか?」


未来は近藤の震える手に気づいた。


近藤の言葉に動揺するより先に体が動いた。


未来は。震える近藤の手に自分の手を添えて、

小さくコクリと頷き、


「 私に『ミライ』を見てくれていたんですね 」


と近藤の顔を覗き込んで、クスっと笑った。



最後まで読んでいただき、

ありがとうございました。


少しでも良いと思っていただけましたら、

ブックマークや評価をいただけると

とても励みになります。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ