【天使】養殖・第二話(10)
「そのうち『牧場主』の中でも最も効率化を求める派閥が、人間を素材化する言語【超準語】の開発にかかりよった。研究を主導してたんが、わての嫁や」
て、【天使長】は言う。
「ちなみに、嫁を『急進派』とすれば、わては『穏健派』の家系に属してて……結婚当初は『【日下】のロミオとジュリエット』とか言われたもんやけど……この話は別にええか」
少女と襟紗鈴の食いつきの悪さに、話頭を戻す。
「開発は難航した。そらそうや。求めてるんは『熱狂』どころの騒ぎやない『自我の消失効果』なんやから。穏健派のわてとしてはずいぶん嫁に思いとどまるよう説得もし、また暗躍もしたもんやが……頭のどっかで『こら心配するほどのこともないわ。無理や』て安心する気持ちもあったんや。……そこに【神女】はんしろしめす国土持たぬ国家【後アトランティス共和帝国】があらわれた」
顔面どころか総身引きつらして、
「わてらもその存在自体は知っとったものの、いざ接触を受けても、最初は『おなごはんがたのかわいい秘密結社ごっこ』、『社交倶楽部の誇大な真似ごと』にしか思えんかった。けど実際は、あのイエズス会やフリーメイソンがかすむほどの強烈な人的財的権力的ネットワーク、まさに『帝国』やったんや」
鼻で深呼吸して、舌でくちびる湿めして、
「世界主要諸国の『最上階』をのきなみ占める『文明操作の天才集団』や。わてらはその浸透傀儡化戦略に気いつかんまま、【神女】はんとその神民たる【仙女】はんがたの『協力』を受けいれてもうた。唯一強硬に反対したんがわての嫁やったちうのも皮肉な話や。【超準語】はまたたく間に完成した。嫁はその成果物を誰よりも早くマスターし、【上位日本】を捨てて一極平野に走った。……自分の意を受けて動く【天使】どもを乱造するために」(『【天使】養殖・第二話(11)』に続)