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最前線遠征

 数日後、魔道連関連の資料作りが難航を極めていた頃合い。

 私達ハイド・アウト第一班は大陸南西の地、エヌスの総指揮塔群ライトハウスの監視塔を訪れていた。


 最前線遠征。自分達が制作した武装の出来を実戦という形で確認し、自身の戦争への寄与を生身で実感するという名目の元で行われる。無論、我々は「作り手」の為、使用者は他にいる訳だが。

 右を見ても、左を見ても、後ろを見ても。見当たるのは、拡がるのは崩壊した村と町と、田畑の焼き跡のみ。枯族が、この地を『生きたまま』での奪還を望んでいないことが手に取るようにわかる。

 どうせ、奴らには人族が築いた文明になど興味はないのだろう。広大な更地を手に入れさえすれば、その後は新たに枯族の枯族による枯族の為の文明が築かれる。そこには人の築いた文明という異物の下地すら、必要が無い。どこまでも人間をコケにしてくれる。


「セクレト少尉、大丈夫かね?」

「は、はい。準備は完了しております」

「ここ数日、寝る間も惜しんで資料作成をしていると聞く。契約金の明細やハイド・アウトの説明資料には目を通したが、出来も良い。一週間も先の魔道連訪問に、何をそこまで焦っているのかね」


 ブリー技術大尉は、前線部隊の配備状況の書かれた資料に目を通しながら会話を続ける。その意を汲み、私も監視塔からできる範囲の安全確認を続ける。


「先日、睡眠と休暇は充分だからと成果を急ぐようご指示がありましたので」

「それが、本意でなく唯の叱咤であったことを知らぬ君では無いはずだが?」

「……正直に具申致します。何も知らぬ技術者達をこの違法組織と地獄に招く為の甘言は私のような青二歳には思い付かないのです」

「甘言……か。状況と命令の意をきちんと汲めているようだな」


 視線を感じ、手を止める。振り向く先にあるのは此方をまっすぐと突き刺す鋭い目線だけだった。

 瞬間、理解した。この人は、私に甘言を教えるつもりも告げるつもりもないのだと。

 姿勢を正し、上官失格の男に向き直る。


「そこまでわかっているのなら、私が言う事など何もあるまい。他の士官の協力を取り下げ、この件を君に一任したのは正解だったと考えざるを得ないな」

「部下の過労死をお望みとは、真意を汲み取れず、申し訳ございません」

「軽口を叩ける余裕はあると見え……いや、違うな。これは私の問題だったか」


 ブリー技術大尉は、ポケットからシガリットのような物を取り出し、口に咥えた。


「此処で煙を上げるような行為は、枯族からの基地発見の恐れから禁止されている筈ですが?」

「枯族から抽出した魔力結晶を使った特製品だ。煙も出なければ、匂いもしない。出るのは極少量の魔力のみだが、この基地ではそれも問題ない……と、また話が逸れたか」


 咥えられたシガリットもどきは、火をつける事なくその身体を縮めていく。なるほど、煙も匂いも出ないというのは本当らしい。

 一吸いを終えた後、ブリー技術大尉は此方を見ずに吐き捨てた。


「こんな汚れ仕事、多くの者が携わる必要もないと考えたのだよ」

「その皺寄せを一心に負う可愛い部下を前にもう一度同じ言葉を吐けますか?」

「だから、今吐いているところだが?」


 出そうになる溜息を抑え、湧いて来る反撃の矢を次々とへし折った。

 だって、解ってしまった……いや、本当は初めからわかっていたのかもしれない。この人が、考えなしに私に苦労を押し付けようとしていないことくらい。

汚れ仕事をさせたくない部下の為。仕事を取り付けた上層部の為。そして何より、私自身の成長の為。様々な『為』を考えての采配だったのだろう。

 この人は、私と同じ「不器用」と「言葉足らず」という不治の病に冒されている。そして、その病の病原菌は、一年間一緒に仕事を続けた私の身体をも蝕み続けている。いや、もしかすると先立って私自身が持ち込んだ物だという可能性もあるが、これ以上は(シキン・バードル)が先か(エギー)が先かの議論に帰結する。

 ともかく、同じ病気の患者にしか解らぬ物言いがあるということだ。

 私は、ブリー技術大尉に対し、密かに仲間意識が芽生えつつあることを自覚していた。そして、それを喜ばしく考えていた。

 だからだろう、次の一言に大きく衝撃を受けたのは。



「──苦労を掛けるな」



 ブリー技術大尉は、小さく呟いた。

 解った気になっていただけだった。この人は私とは違う。伝えるべき事を伝えられる側の人間で、後悔をしない側の人間だ。

 私は、目の前の堅物と同じでありたかった。あってほしかった。

 ブリー技術大尉の言葉は、最も私が欲していた言葉であると同時に、最も私が望んでいなかった言葉だった。

 えもいわれぬ感情に襲われた私は、沈黙の下、頷くことしかできなかった。


「さて、そろそろ時間だ。挨拶回りに行くぞ。私も同行する」

「め、珍しいですね。ブリー技術大尉が直々に挨拶だなんて」

「私が出不精だという風に聞こえる言い草には目を瞑るとして、私も行かねばならぬ時があるという事だ。部下が直接手掛けた武器を振るう英雄への挨拶のようにな」

「あぁ……そんな偉大な人物の命が私のような底辺が作った武器に命を掴まれると考えると今からでも頭が痛みますよ」

「安心しろ。あの方はそういったものの考えをしない。一騎当万の通り名は、装備に依存するものではない。それに、貴官とてあれの製作に手を抜いた訳ではなかろう?」

「できれば、底辺という自虐に突っ込んでもらいたかったところですが、おかげで勇気を持てました。此処まで来たんですから、腹を括ります」

「その意気だ。よし、では向かうとしようか。大陸統一戦争の英雄のもとに」


 しっかりと踏み込んだブリー技術大尉の右足には、貫禄と威厳が表れる。私と同期達は、何も言わずにその後ろを着いて行った。


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