揺れる鉄道
フィーシャ大陸央輝鉄道網。
大陸中央都市と各主要都市とを結ぶ鉄道網のことである。四方八方に光のように放射される為、その名が付いた。
大陸中央部より南部に位置する魔導連フィーシャ支部への移動の往復には、央輝鉄道の南央線を用いる。
整備の行き届かない山道に敷かれたレールの上を高速で移動する。車内は想像も付かぬ勢いで揺動するということで有名なのだが……。
「それにしたって、揺れ過ぎでしょ」
行きでも感じたが、それを遥かに超えて揺れている。上り下りで違うルートを通っている複線鉄道とはいえ、それでは言い尽くせないほどの揺れだった。車輪が浮いているように錯覚するほどの衝撃が波のように訪れる。
流石に異常な揺れだと感じて、腰を上げた瞬間——
——キギィィィイッ! ガタンッ!
金属が擦れる甲高い音と、受けた衝撃による鈍い音が連続で鳴り響き、激甚な衝撃を伴って車体は急停止した。
「痛ッたた……。ったく、なんなのよ。移動中くらいは休ませなさいってのよ!」
椅子の手摺りにしっかりと握って衝撃に備えたものの、余りある衝撃が私の小さな身体に降り注ぐ。
こんな緊急時にも拘らず、頭脳は冷静に機能する。私の身に起こる違和感をはっきりと感じ取ってくれる。
「え?」
止まらない。車体は停止したというのに、体の揺れが。
震えじゃない。長期間電車に乗っていた故の感覚麻痺でもない。確かに、足を置く床が揺れている。
「電車は停まった。大きな音も聞こえないから、外からの衝撃でもない。だとすれば、揺れているのは床でなく……地面?」
急いで窓の外を覗く。見える景色はやはり、険しい山々だけ。避難できる場所は見つからない。だったら——
「地震です! 鞄などの硬いもので頭を守ってください!」
できる限り、声を張る。未整備の山地に駆け出るよりは、車内の方がまたマシだという判断だ。
同じ車両に乗る他の客は言われた通り、鞄や上製本などで頭を抑えている。
私は揺れに気をつけつつ、立ち上がる。そして、車掌の声が届くまでに時間を要する列車後方に向かった。
そして、
「この先の対応は、後で来る車掌の指示に従ってください」
先ほどの指示に、そう加えたものを伝えて回る。途中で、「危ないから」と静止の声も貰ったが、軍属の階級章を見せれば、納得したように頷いてくれた。その際に見えた、少しだけ悲しそうな表情には目を瞑ることにした。
「最近、多いな……」
ここ一ヶ月で既に三回目の地震。数年に一度の頻度だったものが、だ。
フィーシャ大陸は言わずと知れた火山島だ。地震、火山、そして、ここ二ヶ月の枯族の活発的な行動……小さな異変も、積み重なれば不安を生む。
「何も無ければいいんだけど」
混乱する車両の中、安全行動を呼びかけながら、車窓の奥の空を見る。
空は、いつもより穏やかで、静かに雲を流していた。
——
地震は比較的早く収まり、鉄道は運行を再開。予定時刻よりも一時間の遅れで済んだ。
「人助けなんてガラじゃない…‥と思ってたんだけどな」
手に持った赤い花を眺める。
列車を降りる際、列車の後ろに座っていた女の子に貰った花だ。華のない人生を歩んできた私にはその品種も学名もわからないが、これまでに見た花の中で一番綺麗な花だと思った。
もっとも、こうして花を直視する経験が子供の頃以外に無かったという事実も大きいのかもしれないが。
出来るだけ傷つけないよう、ハンカチで茎を包んで手に持つ。小走りで駅からハイド・アウトの本部に向かった。その帰途で、走る軍服を少し見かけたが、私のように地震による影響での遅れが生じた者がいるのだろうと、特に気に留めることはなかった。
まさか、本部であんなことが起こっているなんて思わずに。
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