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ハイド・アウト

久しぶりの新作投稿です。

なろうコンに間に合えばいいですね。

 この世には、解り得ないことがあり、解り合えない者たちがいる。

 それを思い知ったのは、物心が付くのとそう変わりない頃合いだった。

 気付かされたのだ。それまでの人生で関わることの無かった理不尽な暴力と凄惨な殺戮の繰り返しを目の当たりにして。

 その時、私は決意した。この世の不条理に抗えるだけの『強さ』を持つことを。


──


「少尉! セクレト・バイス技術少尉!」


 セクレト・バイス。私の名だ。一度は捨てようとしたバイスの名も、十数年呼ばれ続ければ愛着が湧く……って、今はそんなこと考えている場合じゃない!


「は、はい!」

「本当に聞いておるのかね? 三日三晩働き詰めを強いている私から言うのも心苦しいのだがね。折角の会議なのだから、それ相応の立場で臨んで欲しいものだ」

「も、申し訳ございません!」


 顎下にのみ蓄えられた黒髭を触りながら、深く掘られたシワと隈から覗く鋭い眼光でもってこちらの引き攣っているいるであろう目を突き刺す。

 会議中の居眠りに釘を刺したのは、ブリー・ピエリオド技術大尉。ハイド・アウト第一班を纏める班長であり、私の直属の上司でもある。


「いやぁ、セクレト少尉の気持ちも分かりますよ。終わる、終わると言われ続けたこの人枯戦争も、始まってもう二年。この間、私が妻と娘に会えたのはたったの二回。このハイド・アウトには休暇が必要だと思いますよ」


 か細い右腕に握られたカルフィーを啜りながら軽口を叩くのは、第三班長のフリスク・ガーヴェナー大尉だ。このハイド・アウト唯一の実戦部隊である第三班を束ねる実情とは裏腹に瘦せ細った根菜と見紛うこの身体。筋骨隆々の強者が集うあの第三班を、どうやって纏め上げたのか。何度見ても疑問が絶えない。


「お言葉ですが、フリスク大尉。貴官は先日、故郷への遠征から戻られたばかりと伺いましたが?」

「はは……。先ほど申し上げた二度の内、一度がついこの間だったまでですよ」


 突然歯切れが悪くなるフリスク大尉。確かに、第三班の先日の遠征先は大陸北部の貿易都市ノーセルだと聞いた。枯族が侵攻する南西部とはかなり離れているのに、どうしてだろうと思っていたが、そういう裏があったのか。


「そ、それに、あれは歴とした遠征……つまりはお仕事です。家族と会う時間すら、仕事でしか捻出出来ないこの状況に、文句を言いたいわけですよ」

「それは、仕事の時間ですら家族と会うことの能わぬ我々への挑発ととらえてよろしいか?」


 ブリー技術大尉の眉根が二度上下する。

 あ、これあかんヤツだ。

 『鬼の波風』。ブリー技術大尉の憤慨前の予備動作として俗称されるそれは、見た者全てを震え上がらせる。私も、ここに来た当初はよく拝見したものだ。


「あぁ……いや、そういうわけではなく……」


 言い訳など出来るものか。私だって、何度も目を泣き腫らしながら少尉として成長出来たのだ。理不尽な不利益を嫌う私ですら受け入れざるを得ない圧倒的な恐怖。その圧力には何人たりとも太刀打ちできない。

 この言い争いの火種になった者としては、非常に申し訳が立たないが、フリスク大尉には栄誉ある犠牲になってもらもう。

 諦めて目と耳を塞ごうとしたその時だった。


「こんな、無益な争いは止めましょう。そも、今この場所に我々が争う理由など無いではありませんか」


 ──訂正。一人いた、ブリー技術大尉の波を抑えられそうな人が。

 両手を組み、祈りを捧げながら噴火直前の火山に挑むのは、第五特殊班長エリミ・クルーラー聖務大尉。

 女性班長・修道服・天然美人の三拍子を揃えるアウトサイダーだ。軍事基地であるこのハイド・アウトに宗教という異分子を取り入れなければならないのにも、きちんと理由があるにはあるのだが……。正直、この基地で最も浮いた存在といえば真っ先に指を差されるのは彼女だろう。

 ここでは数少ない同性として仲良くしておくべきなのだろうが、どうもそれも難しい。宗教関係者であるためか、生まれの差か、彼女と私の空気や考えは完全に隔絶し、そこには乗り越えられず、破壊出来ない大きな壁がある。それは認識の齟齬やカルチャーショックなどでは言い尽くせない『何か』なのだ。

 色々言葉を並べてはみたが、難しい。簡潔に纏めるとすれば、『ふわふわ系でちょっと苦手』なのだ。


「そう。全て悪いのは、忌々しき魔樹より生まれ落ちた枯族なのです。あの腐敗の頂に佇む愚者どもとは違い、我々には協力する手も、考える頭もある……。今この場の諍いなど無意味だと思いますが?」


 出た。ふわふわの花園に咲く唯一の毒花。

 エリミ聖務大尉の溢れ出さんばかりの慈愛と情愛は、枯族以外に対してのみ注がれる。彼女の根底に潜む枯族に対する憎悪と遺恨は、私などには計りしれない。だが、明らかな壁が反り立つ私と彼女とを繋ぐ唯一の接点があるとするのならば、『枯族に対する悪意』なのかもしれない。


「そう……ですな、違いない。今我々が敵意を向けるべくは南東に無断で踏み入る礼儀知らずどもでしたな」

 眉間に寄ったブリー技術大尉の皺は段々と伸び、元の状態に戻った。波は勢いを失いやがて凪となったのだ。

「そ、そうですよ、ブリー大尉。ここは会議室だ、口喧嘩をする場所じゃない」

「私は技術大尉ですよ、フリスク大尉。その軍級の省略は、技術者にも兵士にも礼を欠いている」

「それはそれは失礼いたしました、ブリー技術大尉。では、次にすべき事も今話すべきことも話し終えたところですし、我々は訓練と実験に戻らせていただきますよ」


 ブリー技術大尉は反撃を飲み込む素振りを見せ、卓上の書類を纏めた。それによって厚みを持った書類の底で机を二度叩き、立ち上がった。


「そうですな。本日は少し話過ぎたやもしれません。私の部下が卓上で船を漕ぎ始めるくらいには」


 背筋が張り、凍り付く。反射的に伸びた膝は、机を少しだけ蹴り上げ、静かな会議室にゴンという音が響く。

 痛む膝を撫でながら、椅子に座る面々に視線を回し、大きく息を吸った。


「本日は誠に、申し訳ございませんでした!」


 会議は私の大きな謝罪で幕を閉じた。


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