私、平民なのになぜか面識もない王女様が、私の愛犬に会いたいと言ってきました
深夜にやけになって皮肉った話を書こうとしたら笑える話?に落ち着きました。
良かったらそんな長くないので読んでみてください。
つぶらな瞳をうるうるとさせ誰もが”可愛さに何でも許してしまう”、そんな儚げで人びとを虜にしてしまう存在――
それは私の愛犬です
いや、実は1時間前に木箱が公園に捨てられていてその中に入っていたのです。
「ここは割と治安の良い平民街だからって、こんな子犬が捨てられていては可哀想よね」
私はその犬を見る。たぶんチワワと言う種類の犬だと思う。「くぅ」と可愛い鳴き声を出していると、思っていたら抱き上げて連れて来てしまったのだ。
名前がないのでチワワだからちーちゃん(仮)と呼ぶことにする。
残念ながら、私にはネーミングセンスが無さすぎるのだ。さっきからずっと名前を考えているがさっぱり思いつかない。
「くぅ」
私は呼ばれたのかと思いちーちゃん(仮)を見た。お腹が空いているのかもしれない。
そうだ、買い物に行こう。
隣のブロックには肉屋、八百屋、魚屋と何でも揃っている大通りがあるのだ。
私はちーちゃん(仮)を抱っこすると家を出た。
まずは肉屋だ。店主がとにかく縦にも横にも大きい。頭は気持ちの良いくらい綺麗なスキンヘッドだ。店主は私に声をかけてくる。
「おう、メイサ。その⋯⋯つぶらな瞳に可愛らしい天使のような犬はなんだ?」
(この店主、めちゃくちゃ食いついてくるな)
「名前募集中です。何か良い名前ありますか?」
「うむ⋯⋯ちょっと考えさせてくれ」
この肉屋の店主がこんなに真剣な顔になっているのを見たことがなかった。
(すごい眼光だわ。目力だけでも肉が焼けそう)
時間がかかりそうなので肉屋を後にして八百屋へ行く。
「いらっしゃいま⋯⋯ひぇっ! あんらー可愛い!」
ふくよかなおばさんはちーちゃん(仮)を食べそうな勢いで迫ってくる。大きな口を開けた進撃のおばさんがMB5(まじでぶつかる5秒前)だった。
おばさんとの距離は3センチ。
つぶらな瞳がもっとうるうるしている。ちーちゃん(仮)の目玉は出てきそうなほど見開いている。あまりの怖さに声も出ないようだ。
そしてぶるぶるとマッサージ機のように震え始めた。そのうちフリーズして真っ白くなったパソコンのごとく動かなくなるのではないかと心配になる。
(これは助け舟を出すか)
「あの1時間前に拾ったばかりで名前が無いんです。何か良さそうな名前あります?」
「ちょっと待っておくれ⋯⋯うーん、真剣に考えたいから少し時間をおくれ」
「また来ますね」
おばさんは目の前にバニラとチョコといちごのアイスクリームがあってその究極の選択に迫られているかのように、切羽詰まった顔をしているので、魚屋に行くことにした。
「らっしゃい、らっしゃい!⋯⋯かわ⋯⋯」
きりりと太い眉毛にがっしりとした顎を持ち筋肉ムキムキな男らしい魚屋の店主だった。
(なぜか筋肉ムキムキの人ってタンクトップを着たがるわよね⋯⋯? それにしても尊すぎて声が出ないパターンかしら?)
ちーちゃん(仮)は魚屋の店主を見つめている。
魚屋の店主は力強く胸を押さえている。
(このままだと、ちーちゃん(仮)は魚屋の店主を物理的にハートアタックをしてしまいそうね)
「あの名前募集中なんですが、良い案ありますか?」
「⋯⋯⋯⋯」
RPGのぶつかっても何も言葉を発してくれない村人のごとく静けさが漂う。
「また来ます」
私は大通りに出た。私は無双アイテムを手にしているがごとくすれ違う人が声を上げている。その度に「名前募集中」と言って通り過ぎた。
今日は疲れたので家に残っている肉を焼いてあげようと思い帰ってきた。
ちーちゃん(仮)は犬のおもちゃくらいの小柄な身体なので少ししか食べなかった。ベッドの隣に公園から一緒に持ってきた木箱にバスタオルを敷き詰めてその上に寝かせた。
■
平民街では、騒然としている。夜になり人通りがますます増えてきたのだが、その会話には
「つぶらな瞳の可愛すぎる犬の名前かぁ」
「天使のような存在」
「尊すぎる存在にどんなに名前が⋯⋯」
「可愛すぎてつらたん」
など何か共通の話をしているように聞こえる。
お使いに来ていた侍女や執事達もその話を耳にしたようだ。
「何でも可愛すぎて肉屋の親父が劇画タッチになるほどの犬が名前を募集しているらしい」
執事は屋敷に帰ると、雑談として旦那様に伝えた。
「八百屋のおばさんが激やせしてものすごい美人になるほど子犬の名前を考えているらしい。今や未亡人のおばさんに求婚したい男たちが列をなして野菜を買っていて大繁盛している。その発端になった子犬はまだ名前を募集しているらしい」
侍女は屋敷に戻ると、侍女仲間やお伝えしているお嬢様にもその話をした。
「この中にお医者様はいらっしゃいませんか?」と大声で呼びかけると、素敵な紳士が名乗り出て倒れている人の様子を見た。
それは魚屋の店主だった。
一面を取り留めた店主に話を聞くと「尊すぎる天使のような存在と相対して、胸が締め付けられました」と大まじめに言っていた。
その紳士は魚屋の店主の頭も心配になったので「少しでも様子がおかしいと思ったらすぐに医者を呼びなさい」と念を押して言うと行ってしまった。
その紳士は王室のかかりつけ医だった。
ちょうど王城へ行く途中だった。最近、王女様がうつ気味なのか食欲もなくベッドに突っ伏しているらしい。
「あまりしたくはないが、そろそろ薬の服用を始めてもらうか。そうだ、さっき聞いた子犬の話をして差し上げよう。少しは気が晴れるかもしれない」
そう言いながら医者は王室の紋章が入った馬車に乗り込んだ。
■
次の日、朝から知らない男の人が玄関先にやって来た。高そうなスーツを来ている。
(訪問詐欺かしら? これは玄関を突破されるとやばいやつよね)
私は身構えた。すると男がこう尋ねた。
「メイサ・ルイス様でよろしいですか?」
私は目を見開いた。
(あっこれ完全にやばいやつじゃない!
身元バレてるし、住んでるところもバレてるわ)
私は無い知恵を振り絞っていると、封筒を渡しながら男がこう伝えた。
「ナンシー王女様がお会いしたいそうです。3時間後にお迎えにあがります」
「はっはい、かしこまりました」
そう返事をすると、男は帰っていった。私は今何が起こったのか未だに分かっていなかった。
(封筒に多額の請求書とか入ってないわよね?)
封筒の裏には蝋で封されており、王室の人というのは本当の様に感じた。中にはとても高そうな紙の招待状が入っていた。
招待状を見て目を見開くした。
「えっ? ⋯⋯そういうこと??」
■
私は洋服を買いに行っている暇がなかったので、実家に置いてある1番綺麗そうな服を持ってこようと実家に行った。家から30分程の場所だ。
玄関を開けるとお母さんが出てきた。「王城に呼ばれたので一張羅がいる」と伝えたところ、お祭り騒ぎになってしまった。
私はお母さんを何とかリビングまで押し込むと今度はお父さんがいた。お母さんから話を聞いて阿波踊り状態だった。
「さすがはうちの娘だ。でかした!」
「メイサ、すごいわ」
両親は大喜びだった。そこへ私は口を尖らせた。
「呼ばれたのは私じゃないの。こっちの犬」
私はチワワのちーちゃん(仮)の話をした。
すると2人はあからさまに肩を落とした。
「変だと思ったんだよ。うちの娘が王城に呼ばれることなんて無いって思ってたんだ」
「まぁ、そんなことろよね。それにしてもかわいい犬ね。名前はなあに?」
「いや、名前は無いの。今のところチワワだからちーちゃん(仮)って呼んでるの。王女様に名前をつけてもらおうかしら?」
「そうよ、そうしなさい」
私たちは話に盛り上がっている。その会話にチワワが鋭い目をしたことに誰も気が付かなかった。
■
王城で王女様に会うと、たどたどしい挨拶を述べた。だが、王女様はちーちゃん(仮)に興味があるようで私の言葉はほとんど聞いていなかった。
王女様はちーちゃん(仮)を抱き上げた。必殺つぶらな瞳からの「くぅ」のクリーンヒットで王女様も会ったそばからノックアウト寸前だった。
「まぁ、なんて可愛らしいの」
「まだこの子名前が無いんです。王女様が命名していただけませんか?」
「そうね⋯⋯」
ちーちゃん(仮)は王女様が呼ぶ全ての名前を無視した。私は冷や汗を滝のように流している。このままだと観光名所になってしまう。
打つ手のなくなった王女様は私に聞いた。
「あなたはこの子犬を何と呼んでいるの?」
「ほとんど名は呼びませんが、チワワですのでちーちゃん(仮)と呼んでおります」
「わん」
王女様と私はチワワを見た。そして王女様はこう呼んだ。
「ちーちゃん?」
「わん」
それを聞いた私は思わず土下座をした。
「大変申し訳ございません! 仮で付けた名前を自分の名前だと思っているようです! どうか不敬罪だけはお許しください。私まだ生きたいです!!」
「まぁ、良いのよ。ちーちゃん、可愛いわね」
「わん」
ちーちゃんは律儀に名前を呼ばれる度に鳴いている。私はちーちゃんを置いて帰ろうとしたが、後ろをついてくるので仕方がなく定期的に王女様と会うことになった。
何とか話が終わり、王女様の部屋から出ると後は従者の後ろをついて行って馬車に乗るだけだった。
すると向かいからヘンリー王子様がやって来た。
私は壁に近づき頭を下げた。だが王子様は私の目の前で立ち止まった。
「ほぅ、可愛らしい様相をしているな」
「恐れ入ります。ちーちゃんはナンシー王女様にも気に入られております」
「頭を上げることを許可しよう」
私は頭を上げて王子様を見た。
さすがは王家の人間だ。王女様同様、王子様も顔面偏差値が飛び抜けて高い。
「君と話がしたい」
王子様は私に、にこりと笑顔を向けた。
(もしかして王子様と結ばれたらどうしよう)
私は心の内で興奮していた。
■
ぬか喜びだった。
王子様の話は犬のブリーダーをしてみないかという提案だった。王子様の提案は首を縦に振るしかない。
私はがっかりしたが、「かしこまりました」と返事をすると王子様は満足そうな顔をした。
(平民なんだから人生こんなものよね)
すると王子様は話を続けた。
「ブリーダーというのは犬の躾も必要なんだ。⋯⋯私を調教してくれてもかまわないけどね」
王子様は意味ありげな笑みを向けてきた。
(とんだ変態だった。やんわり言葉を濁そう)
「王子様は口がお上手ですこと。ブリーダーとして、しっかりと果たせるようになりましたら、ご報告に上がります」
その後、変態王子と”私の心の中では壮絶な”押し問答があり、なぜか定期的に変態王子とも会うことになったのだ。
平民の女の子が一夜にして王女様に気に入られ、王子様にもまた会いたいと言われた。
この状況はシンデレラストーリーと呼べるのだろうか。
私はげんなりしながら両手で抱っこしているちーちゃんを抱き上げると怖い顔をした。
「まさかあなたまで、実は人間でしたとか言わないでね?」
心なしかちーちゃんは笑っているように見える。元気な声を上げた。
「わん」
さては朝起きたら人間化してたら⋯⋯別のジャンルになりそうですよね(笑)
変態王子とどっちが勝つんでしょうか?(笑)
お読みいただきありがとうございました。
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あー深夜のテンションってこわい