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君がいた  作者: 南十字輝
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波はさざめいて

私は理系出身だ。

今まで男所帯の部署にいたのは出身と受け持っていた仕事内容に由来していた。四月からの部署は管理部門だ。私の仕事内容はマネジメントにシフトした。また元の仲間のいる現場に戻ることはほぼ無いだろう。戻るとしてもマネジメントをする人材としてだ。そこは少し寂しい。

次長は管理部門に長年いる、いわゆる事務系だ。私がもしずっと現場部門にいたなら会うことも話すこともなかっただろう。絶妙な采配で私たちは同じ部屋で同じ方向に向かって走り出したと言える。


休日。今日は妻と外食に行く約束をしている。私は時間が許す限り週末は必ず妻の行きたいところへ行くようにしている。

「今日はどこ行くの?」

「ちょっと遠いけどイタリアン。予約してあるのよ。」

「へえ、楽しみ。」

「あの子も誘ったんだけど二人で行けば?って」

「友達と遊ぶ方が楽しいのかもな。」

今はそういう年頃なのだろう。そう思う。


車を海岸沿いの道路へ走らせる。私の勤めている会社は規模が大きく、全国数か所に拠点がある。私は一定の分野の専門職としてこの地方の拠点に来た。都心にアクセスできる電車が通り、それでいて広大な土地があり、建屋の増減築が容易なことがこの拠点の特徴と言える。つまり環境としては自然が豊富なのだ。出掛けるなら車が必須、電車はあるが人々の生活の細部に利便があるというよりは都会への直行便という位置付けだ。人口密度は低めと言える。

ゆるやかなカーブを時折交えながら一時間強、田舎にしてはやけに駐車場に車の多い店にたどり着いた。


「海を見ながら食事ができるんですって。」

「それはいいね。」

店への階段を上る途中海が見えてきて、それは気持ちがすっと軽くなるような情景だった。日頃みることのないものを見ると、私はちょっと穏やかになれる。

だがそれは好みのものでやさしいものだからだろう。それを私は思い知った。


そこそこ混んでいる店内に入ると、海が見える予約席に案内された。それは窓に向かって横並びで座るスタイルだった。

「この海は好きだな、おだやかで落ち着いた気持ちになる。」

「じゃあよかった。コースを予約しているの、楽しみね。」

私は水の入ったグラスに口を付けて傾けた。その瞬間目の端に映ったもののおかげで私の穏やかな気持ちに激しい波立ちが起きた。それと同時に、何かのコントのように含んだ水を吹き出しそうになった。


右隣にいる妻の、更に向こうの方の席に次長がいる。次長だよなあれ。

次長ほどではないが私もそこそこ身長がある。平均値は軽く超えている。女性が多めの店内では座高が高めだ。というわけでかなりはっきり見えている。勘違いではない。

そうか洒落者としては押さえておきたい店なんだなここは・・・と思うと同時に、一人で来るかね?と思った。そういえば次長は結婚してるんだっけ?確か独身だったような・・・ちょっと首を傾けて、見えた光景に私は時が止まったような感覚になった。

なんで。なんで小早川さんが次長の隣にいるの。


予約席に横並びで二人。二人だよな、普通四人とかで来てその席には案内されないだろう。てか予約席だぞ、てことは前もって二人で来るって確定してたってことだろ。え、どういうこと?

二人ははしゃぐでもなく、かといって落ち着いているでもなく、目の前の景色にどうこう言ってる様子もなく、話に集中している様子だった。会社のことなら会社で話せばいい。それでも足りずに休日にわざわざ時間を作って会っているのか。ん?会社の話をしているとも限らないか。え?それってどういうこと?え?え?え?


私は見てはいけないものを見てしまったのだろうか。月曜から二人にどう接すればよいだろうか。

そんなことを考えながら食事をすることになるなんて。

正直、味がしなかった。今度また穏やかな状態で食べたい。




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