世界征服を目指す悪の組織だが、魔法少女の力を奪うために全員処女を奪ってやる
「マジカルフレアー!」
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
真夏の太陽のような灼熱の炎に包まれ、怪人『タンスの角男』が爆散した。
恐るべき硬さの角を使ってあらゆる人間の足の小指を破壊することができるはずの怪人タンスの角男……奴を倒したのは、ヒラヒラの赤い服を着た高校生くらいの少女である。
「今日も悪の怪人をメラッと焼殺☆ 魔法少女マジカルファイアーちゃんの大勝利―☆」
可愛らしくポーズを決める少女。
その愛らしい姿とは裏腹に、彼女は警察や自衛隊でも勝つことができない悪の組織と戦っている正義の戦士だった。
この世界には『悪』がいる。
そして、『悪』に立ち向かう『正義』がいる。
魔法少女と呼ばれる彼女達こそ、奇跡の力を振るって『悪』を打ち滅ぼす人類の救世主なのである。
☆ ☆ ☆
「グヌヌヌ……魔法少女め! またしてもやられた!」
怒りに歪んだ形相をマスクで隠して、マントを羽織った若い男……悪の総帥・マスターダークが拳でテーブルを叩きつけた。
悪の秘密結社『ブラックシュバルツ団』のリーダーであるマスターダークは何度となく怪人を生み出し、魔法少女に戦いを挑んでいる。
しかし、その結果はいずれも惨敗。
タンスの角男を倒したマジカルファイアーを含めた魔法少女らによって怪人はことごとく倒され、今日も連敗記録を伸ばしていた。
「まさかタンスの角男までやられてしまうとは……許さんぞ、魔法少女め! どうにかして奴らに一泡吹かせる手段はないのか!?」
「イーッ!」
マスターダークの怒鳴り声に応えて、傍に控えていた戦闘員……全身タイツの怪し過ぎる男が首を振る。
正攻法から奇策まで……これまであらゆる手段で魔法少女に攻撃を仕掛けてきたが、それらの作戦は全て失敗していた。
どれだけ強い怪人を生み出して襲わせても。
大勢の戦闘員で囲んで数の暴力に訴えても。
町の住民を人質にとって盾にしても。
毒ガスで満たした部屋の中に閉じこめても。
巨大なロボットで町ごと踏み潰そうとしても。
年賀状で偽のアジトに呼び出して罠に嵌めても。
最後には必ず魔法少女が勝利して作戦は失敗。怪人も戦闘員も倒されていた。
「このままでは、魔法少女らによって我らブラックシュバルツ団が倒されるのは時間の問題……どうにかして、手を打たなければ!」
「総帥! 魔法少女の弱点がわかりました!」
「何だと!?」
マスターダークの部屋に飛び込んできたのは白衣を着たメガネの男性である。
元々は有名大学の教授だったが、女子生徒にセクハラをしたことがきっかけで大学を追い出され、紆余曲折を経て悪の組織の研究員になった人物である。
「運よく採取した魔法少女の細胞を解析したところ、奴らの魔法の源が『乙女パワー』であることがわかりました!」
「『乙女パワー』だと? それはつまり……」
「はい、そうです!」
白衣の研究者は堂々と胸を叩き、大声で宣言する。
「魔法少女は処女を失えば魔法が使えなくなります! つまり、男に抱かれた瞬間に彼女達は『魔法少女』である資格を失うのです!」
「おお……そういうことか!」
マスターダークはパチリと指を鳴らす。
これまで幾人もの魔法少女の相手をしてきたが……突如として引退する者もいれば、二十歳を過ぎてもまだ魔法『少女』を名乗って活動している者もいた。
いったい、この差はどこで出るのかと思っていたが……彼女達が魔法少女でいられる資格は処女であるかどうかであったらしい。
「クックック……そうとわかれば話が早い! 新たな作戦を始動させる!」
マスターダークはマスクを付けた顔で不気味に笑い、マントを翻して言い放つ。
「これより、我らは作戦名『フラワーロスト』を実行する! 全ての魔法少女から処女を奪い、奴らを無力化するのだ!」
かくして、恐るべき作戦が始動した。
作戦『フラワーロスト』……魔法少女らにかつてない危機が迫っていたのである。
☆ ☆ ☆
「ずっと好きでした! 俺と付き合ってください!」
「え……」
とある学園の校舎裏にて。
突然の告白を受けて、少女が頬を朱色に染めた。
告白をしているのは短髪の爽やかな顔立ちの少年である。
少年に手を差し伸べられ、愛を囁かれているのは同年代の少女だった。
セーラー服を着て恥ずかしそうに赤くなっている少女……彼女の名前は赤井愛子。
世界を守護している魔法少女の一人であり、魔法少女としての活動中は『マジカルファイアー』と名乗っている。
「あ、あの……私はその……」
「赤井さん、好きなんだ。君のことを愛しているんだ! お願いだから、この手を取ってくれ!」
「あうっ……」
少年がなおも言い募ると、赤井愛子はさらに顔を染めてあうあうと彼の手を見つめる。
かなり長い間迷っていた様子だが……やがて赤井愛子は恐る恐るといったふうに少年の手を握った。
「わ、私で良ければ……よろしくお願いします」
「やった! ありがとう!」
「ひゃんっ!」
感極まった少年が赤井愛子に抱き着いた。
「絶対に幸せにするから……一生大切にする!」
「は、はふうううううううううう~~~」
少年の抱擁を受けて、赤井愛子はヘナヘナと脱力してされるがままになっている。
そんな二人の様子を茂みから眺め……その男は愉快そうに笑った。
「クックック……どうやら、作戦は成功のようだな! あの二人は恋人になった。魔法少女マジカルファイアーが処女を失うのは時間の問題だ!」
「イー……」
「綿密なリサーチの結果、魔法少女マジカルファイアーが爽やかなスポーツマン風、ちょっと強引だけど無邪気な心を残している男が好みだとはわかっていた。ストライクゾーンど真ん中の相手から熱烈な告白されて袖にできるものか! 私の考えは的中したな!」
「イー、イー」
「ああもうっ! 『イー』じゃわからぬ! 日本語をしゃべらんか!」
「イー……それじゃあ、話しますね。マスターダーク」
茂みに隠れているのは黒衣にマスクの怪しい男……マスターダーク。そして、黒い全身タイツの戦闘員だった。
「えっと……コレって何してるんすか? 何か恋愛のサポートしているみたいに見えるんすけど?」
「無論、魔法少女の処女を奪うための作戦だ。奴らと好みの男性をくっつけてやり、カップルにすることで処女を失くすように仕向けているのだ!」
戦闘員の説明にマスターダークが答える。
その回答に戦闘員が「えー」と意外そうな顔をした。
「魔法少女の処女を奪うとか言っていたんで、てっきり襲って無理やり犯してやるもんだと思ってたんすけど……え? こういうやり方っすか?」
「当然だろう。無理やり犯すなんて無理に決まっているからな」
「無理なんすか?」
「無理だろう。そもそも、魔法少女に勝てないから処女を奪って魔法の力を消そうとしているんだ。無理やり犯すとかできている時点で勝ってるではないか」
「あ……そっか」
「ちなみに、あそこで告白している男はウチの組織とは無関係の善良な一般市民だ。組織のメンバーをあてがおうとしてもバレる可能性があるからな。十分なリサーチをして好みの男を見つけて、偶然を装って二人が出会うように仕向けた。その後も不自然にならない程度のアクシデントを起こして距離が近づくようにして……ようやく、その苦労が結実した。あとは男が彼女をホテルに連れ込めば処女を奪ってやったも同じだ!」
「…………」
戦闘員は黙り込む。
彼はてっきり、魔法少女を襲って無理やりに抱くのではないかと期待していた。
あわよくば、おこぼれを頂こうとポケットに趣味の『おもちゃ』を忍ばせてきたのだが・……無駄になってしまったようである。
「男には格安でホテルのチケットが手に入るように仕向けている。女の方には、友人を経由してエッチな週刊誌が渡るようにした。『女子高生の経験値チェック。75%の女子高生が男の子と経験済み!?』特集を見れば、焦って恋人と関係を持つに違いない!」
「……そっすか」
「クックック……この調子で魔法少女の恋愛を手助けして処女を奪っていき、奴らを根絶やしにしてくれる! 覚悟するがいいぞ!」
悪の総帥マスターダークは野望を胸に高々と笑う。
彼の計画は無事に成功して、魔法少女達は次々と処女を卒業していった。
悪の秘密結社ブラックシュバルツ団は大きく勢力を伸ばすことになり、マスターダークの思惑は結実することになる。
だが……彼らは知らなかった。
マスターダークの作戦によってゴールインした魔法少女と相手の男性はその後、結婚して夫婦になり、大勢の子供に恵まれることになる。
その子供達が新たな魔法少女となり、結果的にブラックシュバルツ団の前に立ちふさがる敵が増えてしまうのだが……マスターダークがそれを知るのは、まだまだ遠い未来の話だった。
おしまい
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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