7. 義姉様が・・・飛び降りた?!
皆様、お読み下さりありがとうございます!
ブクマや評価も嬉しいです!本日はあと1話何処かで公開します!!
レオンは義理の姉、フィリスの部屋の前で右に左に、行ったり来たりしていた。
『ねえ、あの光景、先日も見なかった?』
『ああ、あれは公爵様の方よ!』
『ええ?ノアルファス様が?』
『なんか子供のやるオマジナイみたいに「入る、入らない」とかやっていたわ』
『まあ!あの方がそんなことをするのね?!』
廊下の奥で息を潜めながら、そんな世間話をしている公爵家の使用人たち。けれど、彼らの会話はいまのレオンには聞こえていない。
彼は真剣にフィリスの事を考え、支えになってあげたいという思いで頭がいっぱいだったからだ。
「きっと、こんな公爵家なんかに居たくないって思ったかな······?嫌われた······かな?」
そして彼は再び床を見ながら、右に五歩、左に五歩と往復をし始めた。
「入る、入らない、入る、入らない······」
彼が足を前に出す度に聞こえるその呪文に使用人達はまたひそひそ話を始める。
『ねえ、見て!レオン様も同じなのね!』
『この公爵家、大丈夫かしら?』
『ちなみに、ノアルファス様は無理矢理”入る”で止めてらしたわ』
『まあ、それは不正では?!』
『ではレオン様もかしら······?』
ピタリと彼の動きが止まり、使用人立達は背中をピンッと伸ばした。皆で一列にゆっくりと後退し、壁にまっすぐ貼り付けるようにして目は前の壁の一点を見つめる。
『ば、バレたかしら······?!』
誰かがそう呟いた直後、レオンの大きな声が響き渡る。
「入るッ!」
そして彼は数回扉をノックして入室の確認をした後、返事がない事に首を傾げながらドアノブに手をかけた。ドアを開ければ、部屋の中で感じるはずのない風を顔に感じ、レオンは直ぐに全開になった大きな窓を見た。
心臓がどくどくと鳴り、レオンは最悪の事態を想定する。
やはり、親身になってあげなかったから、孤立してしまったのだろうか?
だれも彼女を気遣ってあげず、彼女はやはり傷ついていたのだ。
僕は年齢も2つしか変わらないんだから、僕がしっかり彼女を見て、傍で守ってあげられれば良かったのに!
レオンは罪悪感に苛まれ、居たたまれず、声を上げた。
「フィリス義姉さま!!?た、たいへんだ······義姉さまがいない!もしかして······義姉様がッ!!!」
ゆっくりとバルコニーの方に向かって歩き、脱ぎ散らかされた二つの靴を見て憶測は確信へと変わる。レオンの心が絶望で真っ黒に染まり、目の前の現実を受け入れたくなくて心臓が握りつぶされそうになった。瞳から涙が浮かび、床に水滴が落ちて絨毯に染み込んでいくのをレオンは歯を噛みしめて見つめた。
喪失感で崩れ落ちそうになった、その時。
フィリスの声がバルコニーから響いて、レオンは顔をあげた。
「ちょっと、いるわ!!いるわよッ!身を投げたりなんかしないんだってばあぁぁ!」
「えっ······?!」
脚早にバルコニーに近づけば、ほぼ夜着姿で素足のフィリスが、バルコニーの柵の目の前に立ってヒラヒラと手を振っている。
「っちょ、ちょっと義姉さま!その恰好は······!!?」
レオンは赤面する。この国の貴族女性は当然、素足を人前に醸すことなどないし、夜着姿なんて以ての外だ。
少し年上、と言っても二歳しか変わらないし、フィリスは年頃のそれもかなり美しい女性。
そんな彼女の身体のラインが分かる夜着······それに、太陽の後援もあり、透けているような······?とレオンはもう一度目線をフィリスに向けようとして、強い意思を持って自分を戒めた。
そして理性という名の細い糸を必死に手繰り寄せる。
『違う違う!違うだろ、僕!あんな恰好だとやはり身体が冷えてしまうし、妊娠している女性の身体には絶対に良くない。だから僕がやらなくてはいけないのは······、何か上着を持っていく事だ!』
レオンはソファに乱雑に放り投げられていた少し薄手の羽織を手に取ると、下を見ながらフィリスのいたバルコニーの柵の方へと歩いていく。
フィリスの程良い肉付きの、すらりと伸びた脚と素足が見えて、レオンは視線を下に向けたまま持っていた羽織を彼女に突き出した。
「と、とりあえず、コレ、着て!ください!」
「まあ、ありがとう?」
彼女がそれを羽織った事を確認し、レオンは顔をあげる。
そして乱雑に羽織られたその身だしなみを見て、赤面した。
「ちょっと!前もしっかり締めて下さい!義姉様?本当に貴女はハチャメチャすぎます」
「っふふ!それ、旦那様にも言われたわね!」
「······兄様に?」
「ええ、”じゃじゃ馬”ですって」
「はは、違いないや」
「ちょっと!」
「ちょっとやそっとじゃ乗りこなせない。懐ついてすらくれない。目を離したら、直ぐにどこかに走り去ってしまいそうだ······。それこそ、境界線の無い草原を走り続けた方が貴女にはあうのかもしれないけれど······」
レオンは小さな声で呟きながら、バルコニーから空を見上げるフィリスを見つめる。
フィリスがその言葉を全て聞き取ったのか分からない。だが、彼女はレオンの方を振り向くと両手を後ろで組みながら、レオンの顔を覗き込んだ。
彼女の赤茶色の美しい髪が光に照らされて、力強く輝きながらふわりと舞う。
その時、レオンは彼女の優しい笑顔の瞳の中に、寂しく儚げな色が混じっているを見つけ息を飲んだ。
「ふふふっ、そんなことができたら、どんなに楽しいのでしょうね?まだ見ぬ世界は私に、どんなに色を見せてくれるのかしら?」
レオンにはその答えに対する回答を持ち合わせてはいなかった。
その彼女の言葉は、風に乗って、大空へと羽ばたいて行った。
もし続きが気になりましたら、いいね、ブクマ、★評価などで応援頂けますと幸いです!
感想も随時受けつけておりますのでお気軽にどうぞ。