43. これからもよろしくね?
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本格的に陣痛の感覚が短くなってきた頃。
フィリスは定期的に訪れるその痛みが過ぎ去った間に、ふと思い出した事をノアに頼んだ。
「ところで、ノア様。離縁をしないのは、分かりましたが······、当初の契約内容が達成した暁には、一度時間を頂きたいのです。
私、離縁をしたら、自由に旅行にいってみたいとずっと思っていましたので······」
「一人で?」
「はい······ッ、う"ぅ······」
再び痛みに苦しみだしたフィリスの手を握りながら、ノアは首を横に振った。
「いや、フィリス、今はそんな事よりも「い、いえっ······!大切な事なのです······!お願いします!
······ずっと、夢だったの。世界を旅したいの······少しでも良いんです。一人が駄目なら、エレイン様と一緒でも良いから······!それを初期契約を達成できたご褒美として私に許して下さいませんか?」
「ん······旅行が出来るようにはしよう」
「約束······ですよ?出産が終われば、次の新しい契約として契約書にしてくださいねっ、う"ぅ······」
ライラはそんな二人のやり取りを遠目で見ていた。
二人が想いを通じ合わせる事ができたのは良かった。
けれど、きっとこの男は契約の事と同様に、その約束の事だって何か企んで躱すつもりに違いない。
ぱっと見ただけでも独占欲の強そうなノアルファスが、気持ちを通い合わせたばかりのフィリスを一人で旅に出すなど······ありえないだろうから。
それに、性別を未だにフィリスに言っていない事も気にかかるし。
そんな中、扉が叩かれ、外にいる人物を確認したライラは、二人に向かって声をかけた。
「旦那様、奥様、レオン様がいらっしゃいました」
ライラの呼びかけに一瞬驚いた様子のノアだったが、すぐに頷いた。
「早いな。では、通してく······「義姉様ああああああ!!!」······れ」
扉が開くや否や汗と涙、鼻水を垂らしながら、部屋に飛び込んできたレオンを見て、ノアとフィリスは二人で顔を見合わせ苦笑する。
その様子を見たレオンは、一瞬目を細めた。
ライラはすぐに彼の横に立つと情報を耳打ちして補足する。
「ノア様は、フィリス様に愛の告白をして、成功された様子ですよ?さて、レオン様はどうするのです?」
「わあ······本当だね。もうすっかり夫婦だな。それに君も吹っ切れたようで良かったよ。
そうかそうか······でもまあ、義姉様が幸せなら僕は良いんだよっ」
レオンは直ぐに満面の笑みを浮かべると、寝台の傍に近づいて、フィリスの手を取った。
「義姉様あああ!もうすぐですね!僕も隣にいますから安心してくださいねっ!」
そして、チュッと音を立てて手の甲に口づけを落とす。それを見たノアは勢いよく立ち上がった。
「レオン!お前、誰が人の妻に口づけをして良いといった!!」
「もう、兄上は大げさだなあ。ギプロスでは手の甲へのキスは普通に挨拶ですよ。
”あ・い・さ・つ”!」
ノアは悪気の無い様子でヘラヘラと笑った弟を、睨みつけ声を荒げる。
「おまえ······ロザリアでは違うと分かっていてやっているのだろう!この······「御二方!今日ばかりはこのボルマンもはっきりと言いますよ!······御子が産まれて”父親”と”叔父”になるのにみっともない!いい加減兄弟喧嘩もそれくらいにして下さいッ!」
その荒ぶるノアの言葉を遮ったのは、温厚な性格で有名なボルマン医師だった。
「へへっ、叔父上······と言われるのか」
「ふっ······父上······いや、お父様、か」
今度は、怒られている事も忘れ、フィリスの子供にそう呼ばれる事を想像してニンマリと笑い合った二人を見て、ボルマンは溜め息をついた。
「はぁ······本当に昔から御二人は······。さて、そろそろ本格的に陣痛が始まりますから、レオン様、魔法を使い、共に最終の診察をお願いできますか?」
◆
ボルマン医師が最終の診察を行い、レオンも魔法を使い診察の補佐していく。
実際、レオンの魔法はフィリスの出産にはかなり役立った。痛覚を緩和させる魔法などを施してもらい痛みも軽減され、フィリスはホッと胸を撫でおろす。
まあ、魔法が効いているとはいっても、出産の準備が本格的に始まっている事は大きくなる痛みと共に感じ取れるのだけれど······。
「奥様、出産に向けて場所を整えていきますね?」
男性陣が一旦部屋から退出して部屋の最終調整が行われる事になり、フィリスは部屋でせっせと配置変えを行っているボインメイドを見た。
「本当に色々やらせて······ごめんなさいね······本来は私のメイドではないのに······う"ぅ」
陣痛の波が来て痛みに顔を歪めるフィリスの手を、ライラは握りしめる。
「奥様、無理をなさらないで下さい。それに、私、その件で奥様にお願いしたい事がありまして······出産後でも構いませんのでお時間頂きたく」
頭を下げた彼女を見てフィリスは首を傾げる。
「?今でも、大丈夫よ?」
「······で、では······。奥様、御許可頂けるのでしたら、今後は私、奥様のメイドになりたいと思っているのです」
「······え?私は良いけど······貴女、ノア様のメイドではなかったの?」
「宜しければ今後はライラ、と。ノア様とは幼馴染であり、私は公爵家のメイドなので主人をノア様としておりましたが······本来は、亡き母の様に公爵夫人の専属メイドになる事をずっと夢見ておりまして」
その申し出にフィリスはじっと彼女の顔を見つめた。
「ええと······貴女は······ライラは、私で······良いの?」
彼女の気持ちがノアにあった事はなんとなく分かっていたから。だから、本当に自分のメイドで良いのか、フィリスは凄く迷った。
「私は、公爵家のメイドとして誇りをもっているのです。公爵家の当主様と奥様の幸せが私の幸せなのです。それに······私、奥様の事が好きになってしまいましたので。まあ、私だけではなく使用人全員がそうだと思いますけれど」
ふふっと笑ったライラは、フィリスを真っすぐ見つめて言葉を続ける。
「私、奥様に仕えたいと、心からそう思うのです。それが今の私の夢、なのです。ご許可、頂けないでしょうか?」
彼女の真剣な表情に、フィリスは頷く。
「そんな······皆に好かれるような事はできていないと思うわ?でも······そう言ってくれるなら、貴女に専属メイドを頼んでもいいかしら?
これからもよろしくね、ライラ。私の事はフィリスと呼んで?それと、今後は是非子供の事もよろしく頼みたいのだけど······」
「······っ、はい!勿論です。フィリス様!」
ライラはこの日、夢の一つを叶えた。
漸く、長年夢見てきた、『仕えたいと思う人に仕えなさい』という母の言葉を実現する事ができたのだ。
『お母様、やっと、心から仕えたいと思える方に出会えて······仕える事が叶いました!』
そう心の中で母に報告したライラは、公爵家の未来を想像してフィリスに微笑む。
ノアとフィリス、そして二人の子供の成長を見守りながら、この生まれ育った邸で生涯生きていく事ができるなんて······なんて幸せなのだろう······と。
この後は若干コメディ要素のある1話、記念閑話、そしてエピローグで完結となります。今週末もしくは、月曜朝に完結になる予定です。また御礼を書きますが、長い間、いいね、ブクマ、★評価などで応援下さりありがとうございます。
※フィリスが”ライラ”と呼んだのは初めてです。もし前に呼んでいたら私のミスです!笑




