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PV3万記念閑話:白の”エクラン・ドゥー”

 こちらは週末に達成しましたPV3万記念として、皆様に感謝の気持ちを込めての閑話回です。

 ですが、今回はコメディよりもシリアスな二人の気持ちにフォーカスを当てています。

※時系列はギプロス観光で宿に入った32話の後から始まり、ロザリアに帰国の日に変わります。


 ギプロスの初デートを予期せぬ形で終え、ノアの滞在している高級宿の浴室でフィリスは瞳を閉じる。ちゃぷんっと湯がゆれて、水面に波紋が広がった。


「っ、な······なにが温まって欲しいの!よ······変態ムッツリスケベのくせに······」


 フィリスの言葉がぽつりと零れ落ちて、浴室に消えていく。

 湯に浸かりながら思い出すのは、先程夕飯を食べようと入ったレストランで起こった出来事だ。


「あのムッツリ、ボインメイドに飽き足らず、この国の伯爵令嬢とも関係を持っていたなんて······」


 そう。ノアと関係を持っていたらしい伯爵令嬢に暴言を浴びせられ、フィリスはご飯も食べずに店を出た。そしてノアはそんな自分を追って······。


「なによ······別に否定しなくたっていいじゃない。どうして隠すのよ······」


 ノアはボインメイドとはただの幼馴染だと言っていた。あの意地悪そうな女性には、薬を盛られたなんて言っていたし。

 でも······。


「嘘ばっかり。そんな有り得ないような嘘をつくくらいなら、もっと正々堂々として欲しいわよね」


 しかし直後、ノアが正々堂々としている様子を想像し、フィリスは苦虫を噛みつぶしたような表情をした。

 『ああ、そうだ!貴女と離縁したら彼女は俺の正妻にと考えている!彼女は隣国の伯爵令嬢。見目も俺の妻には相応しいな!はっはっはっ!(※フィリスのノアのイメージに偏っています)』


「いや······それも、結構ダメージ強いわね······」


 え?ダメージ?······なんで私、ダメージがあるなんて思うのかしら?

 次の夫人が、あんな意地悪な御令嬢だから?

 それとも、彼があんな意地悪な御令嬢を選んだのが意外だったから?

 それとも、それとも······、彼女が自分の子供の母親になるかもしれないから、かしら?


「ああ、もうっ!なんでこんな気持ちになるの?!全然分からないわ!」


 フィリスは、先程の真っ赤なドレスに身を包んだ女性を想い出した。

 可愛らしい大きな瞳に、くるくると巻かれた綺麗な髪。

 伯爵家のご令嬢だとしても、自分よりは遥かに良い暮らしをしてきたに違いない。

 こんな自分みたいな没落寸前の侯爵家出身の風変わり令嬢なんかより、少し意地悪でも可愛らしくて育ちの良い女性に行くのは当然かも······。

 

 子供が産まれれば、彼は彼女を娶りギプロスでの公爵としての位置を強固なものにして······。

 ロザリアとしては隣国との繋がりもできるわけだし······ね。


 そこまで考えて、フィリスは彼女の言っていた言葉を思い出した。


「彼女、純潔の”エクラン・ドゥー”を送ってくれたのに······って言ってたわよね?確か、ギプロスのみにある、女性への最上級の贈り物かなにかではなかったかしら?」


 実物は見たことがないけれど、()()()()()()()()贈り物だという話を噂で聞いた事がある。

 あまりに高額で貴族でも一握りしか買う事が出来ないとか。


 フィリスも最近隣国に嫁いだ友人の姉の話を一度耳にした程度だった。


「ロザリアにはないんですものね。帰ったら実際に何なのかエレイン様に聞いてみるのも良いかもしれないわ」


 考える必要はないと分かっていても、考えてしまう。

 ライラや、あの伯爵令嬢には贈り物を贈っていて······自分は何かを貰った事なんてないのに。


「まあ、服は買って下さったわけだし、感謝しないといけないわね。でも······契約結婚とはいえ、一応は妻なのよね······?まあ、でも、きっとこんなものなのでしょうね」


 でも······分かるのは一つ······。

 自分は彼の女性関係にあまり良い印象を抱いていない。どうしてそんなに色んな女性に手をだそうとするのか分からないし、凄く······嫌。


「······私が嫌なんて······思うのが間違っているのにっ······」


 フィリスの噛み殺した声は、湯気に包まれて消えていった。






「ッ、くそ······あの女!」


 ノアは椅子に座り、机を叩く。


「あいつがいなければ今頃は······」


 あの伯爵令嬢が居なければ、今頃はフィリスと二人でディナーを取って、この間ウィルに教えて貰った”チョコレート”の店にフィリスを連れていって······。何か買ってあげようと思っていたのに!


「きっと楽しいデートになっていた······んだよな?」


 フィリスは笑っていたし、一緒に居て嬉しいとまでは行かなくても、きっと楽しいとは思っていてくれていたはず。


 なのに······。


 またカルロス伯爵の娘に邪魔をされた。

 それも、フィリスに最悪な誤解を生んで、だ。


「俺は······貴女に信じて欲しいだけなのに······な」


 ライラの事もただの幼馴染で、伯爵令嬢に限っては自分は被害者だというのに。


「やはり、あの伯爵令嬢に贈ってはいけない物を贈ってしまったのだろうか?あの女、()()()”エクラン・ドゥー”とか言っていたな。まさか······アレにも何か意味があるのか?帰ったら一度ウィルに聞くか」


 女性への贈り物は今後一切しない方が良いかも知れない。

 贈り物には時として様々な意味があり、意図していないような誤解を生むこともあるからだ。

 ノアは今後の教訓として、二回目にして漸くそれを学んだ。


「フィリス······俺は貴女に何かを贈ってもいいのだろうか?貴女は、受け取ってくれるのだろうか?」




 二人がロザリア王国の公爵邸に帰る日。


 ノアとウィリアム、フィリスとエレインは其々二人で話す機会を得た。

 迷惑をかけた御礼や今後の予定など、お互いゆっくり話すことのできる最後の機会だ。


 そこで、ノアとフィリスはお互いそれぞれ違う場所で、”エクラン・ドゥー”について聞いていた。


「ノア君······本当にごめん。僕が言葉足らずなばっかりに······。あれは本当に特別な人に特別な日に贈るような希少な物で······僕もエレインには未だ贈れていないような特別な品でね······」


 今知った衝撃の事実に愕然とするノア。

 その目の前でひたすら申し訳なさそうに頭を下げるウィリアム。


「えぇと、フィリスちゃん······その”エクラン・ドゥー”が何かは知っているのかしら?」

「へ?それは······宝石箱と聞きましたが?とっても甘い贈り物で、友人の姉がプロポーズに貰ったとも」

「······そ、それはそうなのだけど······ええと、そう!あれは実は甘味なのよ!とっても高価で希少価値の高い甘味なの!」

「甘味······ですか?」

「そうよ!宝石箱に入れられた、宝石の様に美しい甘味なの!だからそんな気にするような物では「()()()()()······ってあのイジワル令嬢は言っていましたが」


「え······?純潔の······って言っていた······?それは······、そうだわ!それは、白い箱に入っているから、”純潔の~”とか”白の~”と呼ばれているのかも······っね?!」


「な、なるほど~そうなんですね?」

「え、ええ!」


「それにしても······」

「えッ?······まだナニカキニナルコトガ······あるのかしら?!」


「······?いえ、その甘味が食べてみたいなって!私、食べるの好きなのでっ!」


 ホッと胸を撫でおろしたエレインの目の前で、ふふふっと嬉しそうに微笑んだフィリス。

 

 問題の令嬢も捕らえられているようだし、今後フィリスが会う事もないだろう。

 せっかく一件落着した現在(いま)、これ以上妊娠中の身体に負担をかけるべきではないし、知らなくても問題にはならないはず。 

 

 『落ち着いたらノア君からしっかりフィリスちゃんに謝罪してもらいましょう……』

 

 嘘にならない程度に、情報を知るべき所だけ掻い摘んで今の二人の関係がこれ以上拗れないように立ち回ったエレイン。


 エレインとウィリアムに関しては飛び火した形ではあったとはいえ。

 四人は、この白の”エクラン・ドゥー”に翻弄(ほんろう)された同志でもあった。


 ノアとフィリス、二人は(ようや)く心を通い合わせたばかりなのだ。

 少しズレている気はするけれど、同じ方向に向かって一歩を踏み出したのは間違いないだろう。

 そんな二人の関係に亀裂の入るような爆弾を投下するべきではないから。


 フィリスがこの”エクラン・ドゥー”の本当の意味をノアから知らされるのは、もう少し先の話。


読者の皆様、約1か月間と長い間お付き合い頂きありがとうございます。フィリスとノアのじれったい両片想いなすれ違いはもう少し続きます。お互いに想いつつも、契約結婚で始まったため信じられないフィリスと、言葉たらずなノア。もうあと10話程度でハピエン完結でございます!!

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