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34. 旦那様、一緒に帰りましょう?

 3万PV閑話を明日の朝に投下予定でおります。ただの二人の気持ちを補足する記念閑話ですので飛ばして頂いても構いません。

 ※また、本日は本文最後に1話目同様フィリス画像が入ります。

 世界観を壊したくない、画像を見たくない等嫌な方は本文最後のスクロールにはお気をつけくださいませ。ご協力よろしくお願い致します。



 エレインはダイニングテーブルの一点を見たまま、ぼうっとして座るノアの前に紅茶をだした。


「そうだノア君、レオナを見てみない?」

「レオナ······ですか?」


「そうよ、レオンの妹。だから······血は繋がっていないけど、貴方の妹でもあるのよね!」


 うふふふ、とエレインは笑いながら、メイドが連れてきた赤子を指さした。


「えっ?レオンの、妹······?」

「フィリスちゃんから聞いたのでしょう?レオンは私の妊娠中よく来てくれたの。だから、きっとフィリスちゃんを気遣ってあげたくて仕方がなかったのね。あの子すぐ実践に移す、お世話焼きたいタイプですもんねぇ」


 ふふっ、と笑うエレインを見て、ノアはフィリスの身の回りの世話をしていたレオンを思い出した。


「······なるほど、それは分かりますね」

「でしょう?もうレオンはこの子を抱っこしたのよ?ほら、貴方も”妹”を抱く気になったかしら?」


 血は繋がっていなくても、貴方は私の息子なのだから、妹も同然よね!とエレインは楽しそうに頬杖をつく。


「いや······そうですけれど······妹ではないですね。だって俺は歳が父親のそれですから」

「まあまあ。それなら父親になった気持ちで抱いてみる?」

「え?!いや、俺は······」


 直後、赤子をメイドに押し付けられて、ノアはレオナを仕方なく抱っこした。


 柔らかく小さな体。

 まだ何も完成されていない異次元の存在。

 落としたら壊れてしまいそうな······純粋無垢な命。


「······」

「どう?()()()()?」

「ッ、俺はお父さんではありません!」

「え?でももう直ぐにそうなるでしょう?()()~!()()()~!って呼ばれるのではなくて?」


 うふふっと悪戯っぽく笑うエレインを、ノアは苦手だ、と思った。


 苦手。だけど······嫌ではない。

 自分が与えて貰えなかった母親からの愛情を、彼女は全力でくれるから。

 こんなコミュニケーションも、彼女だから、できる事だ。


継母上ははうえ······俺は、良い父親になれるでしょうか?」

「う~ん、まずは何をもって良い父親、なのかよね?公爵として家を担う事、なら貴方は良い父親になれるのじゃないかしら?もう現当主として一人で家を支えていけるようになっているのだから、貴方は素晴らしいと思うわ」


「俺は······俺は。家族を愛せるような、温かい家庭を築けるような、父親になりたいんです」


 ノアはウィリアムやテッド、そして国王アレクサンドラを思い出した。彼らの様に、家庭を、妻を、子供を大切にできるような、そんな父親になりたい。

 それが最近ノアが気づいた新しい目標とするような”父親像”だった。


「そうね······それは、まず、フィリスちゃんと想いを通じ合わせないといけないのではないかしら?でも焦ってはだめよ。ゆっくりとじっくりと時間をかけていけばいいの。夫婦なのだから」

「想いを······じっくりと······」


「あとはフィリスちゃんの不安を取り除いてあげなさい?あまり浮気がすぎるのはよろしくないわよ?女の子は浮気にはウルサイものなんだから!」


「俺は浮気などしませんッ!」


「浮気は()()()、と貴方が言っても、相手が()()()()と感じれば成立してしまうのよねぇ。悲しい事に、ね。貴方もフィリスちゃんにそう思った事があるのではなくて?」

「フィリスに······?」


 その時、ノアは思い出した。

 確かに、レオンと親しくしていた時や、他の男に話かけられた時に平然と話しをしていたフィリスを見て”不貞だ”とか”嫌だ”と思った事はある。現に少し前に「レオンの子なんだろう!」などと言ってしまったのだから······。フィリスも自分の気持ちが浮ついていると考えるのは自然かもしれない。


 そんな時、扉があいて、ウィリアムが一人で帰ってきた。


「あっ!あれぇ、僕のレオナをノアが抱いているのかい?あぁぁ、やっぱり可愛いぃなぁああ!レオナたんっ!パパだよお~?」


 ノアは急に変わったウィリアムの態度にぎょっとした。

 そして、その表情を見たエレインが堪えきれずに笑い出す。


「っふふふ!!そのノア君の表情!最高だわ~!」

「なにさ~、ノア君だって子供が産まれたらきっとこうなるよ?」


「俺はそんな事には······」


 ”なりません”とは言えなかった。

 ただ、一瞬赤子を抱っこさせてもらっていただけ。だけど、ノアの心には父親としての自覚が芽生えた。

 そして、初恋であろうフィリスとの子供を抱く事を想像して、嬉しいと、そう思ったから。





 ノアは”離れ”の湖の畔に座るフィリスの隣に腰を下した。

 隣で揺れる、綺麗な赤茶色の髪を見てから、湖に視線を移す。


「フィリス、俺、本当に女性関係には疎くて······」

「ウィリアム様から聞きました。あの御令嬢は本当に貴方のストーカーだったのですね?信じなかったのは私です。申し訳ありませんでした」

「いや、フィリスは悪くない。気付かない俺が悪いんだ。そういう事が良くわからなくて」


「”贈り物”をあげたから······でしょうかね?」

「······あれは、やはりいけなかったんだな?はぁ······。あの”贈り物”はウィルと相談してギプロスの定番なら無難だろうと買ったものだったんだ。それに”贈り物”の種類も店員の決めたものだったんだが······もうそれは、言い訳にしかならないな。やはり、これからは女性に贈り物をするのはやめよう」


 ノアは後悔の念でいっぱいになって、顔を俯けた。


「······でも、良いのではないですか?そこが旦那様の良い所な気がします。何をするにも全力で」


 ふっと笑ったフィリスを見て、ノアは彼女の手に触れようとして······───

 ───······それをやめた。


 宙ぶらりんになった手を隠すように、自分の髪をぐしゃぐしゃと搔きむしる。


「これからは、フィリス、貴女が教えてくれないか?俺は本当に無知で、分からないから······貴女にとって嫌な事とか、気になった事とかがあれば言ってほしいんだ。その······俺達は······”()()”、なのだから」


 その言葉にフィリスは軽くあしらう様に笑った。

 ノアはまた曖昧にされる気がして言葉を続ける。


「俺は······フィリス、貴女に認められるような父親になりたいんだ······」

「でも、旦那様。あと······多分もう半年もないかもしれませんよ?」


「半年だとしても!半年で、フィリスに認めて貰えるように頑張るから······その間だけでもっ」


「なるほど······分かりました。”夫婦ごっこ”、ですね?」

「夫婦······ごっこ······?······まあ、そうなのか?」

「今後に生かす為に、経験として、夫婦の真似事をして経験値を積もう!って事ですよね?」

「······まあ。なにかズレている気もするが······それで夫婦になるための経験値が詰めるという事ならそうなのだろうか······」


 ふにゃふにゃと、笑ったノアにフィリスは目が釘付けになった。

 いつも公爵として見る彼は威厳に満ちていて、その歳も相まって大人でクールな印象。

 けれど、フィリスの前で笑う彼はただの青年のようで。


 フィリスは不覚にも自然体の彼の横顔に見惚れた。


「フィリス?」


 心配そうに覗き込んだノアの顔が目の前に見えて、フィリスは一気に赤面する。


「もう!本当に、そういう所なのですわ!!」


「え?何?俺なにかしたのか?」

「もう、分からないなら良いです!」

「え!?教えてくれると、言ったじゃないか!夫婦······ごっこ、だったか?」

「もう知りません!!」


「フィ、フィリス!ちょっと······待ってくれ!今の怒るタイミングはどこにッ!?教えてくれ!お願いだ!」



 この日、私フィリスは、旦那様と共にロザリアの公爵家へと帰りました。

 少し変わってきた旦那様との関係性。

 それに伴って自分の感情にも変化がでてきたのかも知れません。


 でもこの気持ちの名前は······まだ知らなくていいような······知りたくないような気がするのです。


 だって私は、契約結婚で身籠っただけなのですから。

 

 でも一先ず、旦那様、一緒に帰りましょう?

  


 

挿絵(By みてみん)

 あまりにも本文に合っていた為載せましたが、今後画像を出すことはないと思います。ご協力いただいた読者の皆様、ありがとうございました。

 尚、フィリス以外のキャラクターデザイン画は活動報告以外には載せておりません。興味のある方は活動報告にてご確認下さい。世界観を壊されたくない方はそのまま引き続きお楽しみいただけたらと思います。

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