27. もう、どうしようね、コレ。
ウィリアムは大通りへ足早に歩いて行ったノアを見送って、騎士団の詰め所へ向かった。
中に入れば、団員達がすぐに立ち上がって一斉にお辞儀をする。
「「「「ウィリアム団長、お疲れ様ですっ!!」」」
「お疲れさま~、さて、今日は皆に質問があるんだけどね」
「な、なんでしょうか······?」
騎士団の団員達が訝し気な顔をしたのを見て、ウィルは笑った。
「大丈夫だよ、答えられなくても仕事を増やしたりしないから」
あからさまにホッとした様子の団員達に、彼は口を開く。
「カルロス伯爵のご令嬢って知ってる?」
「カルロス伯爵の······ご令嬢?アメリア嬢かな······」
「ああ、あのすぐに恋に落ちるっていう?」
「なんかモノ好きで、オジサン好きなんだっけか?」
“オジサン好き”という言葉に敏感に反応したウィルは、片眉を吊り上げる。
「っちょ、ちょっと待って、ルイ君!今のは聞き捨てならないな」
”ルイ君”と呼ばれた団員は身体をびくりと震わせた。
「は······はい?」
「オジサンって君らまだ、20歳にもなっていないだろ?一体何歳からオジサン枠なんだい?」
「そ、それは······」
ウィルは疾うに30歳半ばを超えている。団員達が黙っていると彼は言葉を続けた。
「僕から言わせればね、君たちはまだ子供。大人にもなっていないよ?あの彼だって大きな子供みたいなんだからねえ······」
ウィルは酒場であったノアを想い出して遠い目をする。
「それに、男は30歳を超えてから味が出るんだよ。分かる?君たちは沢山経験を詰まないと」
「それは······自分を立てているだけでは······?!」
一人の団員の呟きが聞こえて、ウィルはジロりとその声の方を見た。
「た、確かに団長はあのお美しい元王女様を射抜いたのだし、そうなのかも知れないな!」
「お、おう!違いない!!」
「おっまえ、馬鹿!余計な事いうんじゃねえ······!」
直ぐに焦ったような団員達からそんな声が溢れ、彼は溜息まじりに口を開く。
「······それで、そのアメリア嬢は男関係では良い噂はないんだね?」
「は······はい。なんでも、直ぐに規制事実を作ろうとしてくるとか。伯爵がかなり強い酒を進めてくるとか言ってた奴もいましたね。あれを飲むと体調が悪くなって意識を失うとか」
ウィルはその情報収集が満足にでき、大きく頷いた。
「よし、なるほどね。大体分かった気がするな。皆ありがとう!」
外にでたウィルはすぐに王城近辺の貴族が使うレストランや大きな会場を探す。
そして今日誕生日会として使われているという、一つの場所にたどり着き、その目の前の喫茶店に腰を下ろした。
「ん~、でも、まだ確証がもてないんだよね」
ウィリアムは妻エレインの前の夫の事をあまり知らない。
王女だったエレインのただの護衛だった彼にはそれを知る必要もなかったし、知らされる事もなかったからだ。
その元夫が亡くなり、エレインと想いを通じ合わせて結婚してからも、彼女の口からロザリアでの暮らしを聞く事は無かった。
ただ知っているのは、エレインと前の夫にはレオンという息子と、もう一人、正妻との間の長男がいるという事だ。
その正妻が子供と触れ合う事がなかった為、エレインが二人を同じ様に可愛がっていたという話は聞いた事があったのだけど。
エレインの息子、レオンには勿論何度も会っているから知っている。なんなら、自分の実の息子のように可愛がっている。
けれど、現公爵である長男の方とは面識はなかった。
「ロザリア出身で仕事のために······。外見的には20代後半くらいかな?······名前はノア、か」
ウィルが分かる範囲での情報はこの辺りまで。ただ、あの見た目、貴族でもかなり高位であるようだし、現在各国から城に外交関係の要人が来ている事を考えると······。
「······やっぱりあれが、現バルモント公爵なのかな?」
要するに、あのノアという男が、エレインの嫁いだ元夫と正妻との間の嫡子。
レオンの兄という事になる······のかもしれない。
「あれがフィリスちゃんの夫か~。ちょっと······聞いていた以上に、駄目だな······」
憶測であり、違う可能性もあるのだから、これ以上は考えるのをやめよう。とウィルは目の前の紅茶に手をつけた。
◆
「お、あれは······やっぱり黒だなあ······」
辺りが暗くなり、店員が店の終わりをウィリアムに告げた頃。
会場となっている大きな建物の入口から、様子のおかしいノアと黒髪のご令嬢が出てきて、ウィルは席を立つ。
速やかに会計を済ませると、尾行を開始した。
風魔法を使い会話の内容を盗み聞けば、大体の概要が掴めて、彼は状況の整理をする。
『要するに、ノアが何かを飲んで、それに盛られた薬か何かで体調に変化が起こっているのか。団員達の言う通りだな。隣で介抱するフリをしている女が、噂のカルロス伯爵の娘、アメリア嬢か······』
そんな時、ノアの滞在しているらしい最高級の貴族向け宿の目の前で、突然彼が蹲り、その苦し気な表情にウィルは緊張感を高める。
抵抗の出来る状態ではないノアをアメリアが大通りから死角になる路地裏に誘導し、キスを無理矢理せがんでいるのを見て、ウィルはゆっくりと近づいていった。
アメリアに指示され周囲の監視を行っていたらしい護衛は、騎士団長であるウィルを認識し、動きを止める。
彼はその護衛を無視して、路地裏に蹲るノアの方へ足を進めた。
『やめろッ!離れてくれ······』
『ノア様っ!私はノア様の第二夫人でも良いですから!このまま既成事実ができればっ』
ノアの苦しそうな息遣いが聞こえ、必死の抵抗が伺える。
そして次に発せられた言葉でウィルの憶測は確証に変わった。
『やめてくれッ······貴女との子など欲しくはないっ······俺は、俺の愛する人と、その人との子が······いればいいとっ······思っているんだ』
ウィリアムは、上からアメリアを見下ろす。
「ねえ、君、何してるの?」
カタカタと震え出す彼女を見て、ウィルは言葉を続けた。
「カルロス伯爵のアメリア嬢。こんな事をして問題にならないとでも?悪いけど、明日には事件として騎士団で挙げさせてもらうよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!ノア様は私が介抱しようと······」
「いや、その必要はない。僕がしっかり面倒を見るよ。君は一旦護衛と共に帰って、明日以降伯爵と共に知らせが来るのを待つと良い。他国の外交官、それも高位貴族に手を出すなんて······一体どうなるんだろうね」
「ひっ······」
腰を抜かしたアメリアが護衛に抱えられて、いなくなった事を確認し、ウィルは意識を失ったノアを見下ろした。
「はあ、もう······どうしようね、?コレ、」
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皆様も気温の変化による体調不良にはお気を付けくださいませ~・・・。
 




