20. 愛は万能薬なのだろう?!
まあ、そうなんだけど、でもノアさん・・・落ち着いて下さい?!
「要するに、義姉上が貴方の跡継ぎを産めば、もう彼女が家出しようが、誰かに攫われようが、どうでもいいという事ですよね?」
レオンのあまりに真剣な瞳に射抜かれて、ノアは視線を逸らした。
ノア自身その答えが分からなかったからだ。
確かにこの間までは、そのつもりだった······んだよな?
契約結婚で、跡継ぎができれば自由にしていいと言ったのは自分なのだし······。
でも、本当にそれで良いのか?いや、むしろ最初からそのつもりではなかった······?
「······そんなことは······」
「では仮にそうだとしましょう。義姉上が跡継ぎを産んだ事で兄上との契約は達成されます。でもそれで、兄上にとって用が無くなりどうでもいいと思う様なら。
······僕は彼女と将来を共にして夢を叶えてあげたいと、そう思います。貴方が最終的に彼女を捨てるつもりなら、僕が責任を持って彼女を大切にしたい」
その言葉に、ノアは顔を上げた。
少しばかりの悲壮感と怒りを孕んだ兄の瞳にレオンは歯を食いしばる。
でも······ここで引くわけにはいかない。
自分だって、フィリスを幸せにすると心に決めていたんだから。
ここで引いたら、誰も幸せになんてなれないだろう!
自分の気持ちに鞭を打って、レオンは敢えて挑発的な目を向ける。
「な······!レオン!お前、自分の言っている事が分かっているのか?!」
「はい、僕は本気です。僕は、フィリスを幸せにしたい」
「レオンッ!!お前が感じている感情は、家族愛だろう!それは継母上がお前に向ける感情と同じものだ!家族愛や友情愛で、結婚など······到底できるものではないッ!」
「······では、兄上はどうしてフィリスと結婚しているのですか?”愛”すら、ないのですよね?なら、僕もフィリスと契約をすれば良いのでしょうか?」
「······そういう事を言っているのではない······それに······俺はこれから彼女を知っていこうと思って······」
「であれば、僕もこれからフィリスの事を沢山知って、この気持ちがどんな”愛”なのか探していく事にします」
「探す必要などないし、人の妻の名を気安く呼ぶな!!」
レオンが”フィリス”と呼んだことで、ノアの怒りは頂点に達した。
ノアが威圧的な声を出し、レオンはナプキンで口元を拭くと、さっと席を立つ。
レオンのアイスブルーの冷ややかな瞳がノアを見据え、彼は普段の性格とは似ても似つかないような感情の籠らない声で言葉を紡ぐ。
「兄上······。兄上が僕に怒るのは構いませんが、僕も明日から隣国ギプロスの魔法学園に入学する事になりました。短期ですので長くはありませんが、当分顔を合わせることもないでしょう。この学園生活で僕は”大切な人”を守れるだけの力を付けたいと思っています。だから······」
レオンはそこで言葉を一旦区切ると、ノアを見下ろした。
「もし、僕がこの邸に帰ってきたときに、お二人がまだ離縁するつもりでいるのであれば。僕はフィリスに僕との将来を考えてもらえるように、話をしようと思います」
「待て!レオン!継母上の場所を教えろ!オイッ!!」
レオンはノアルファスの言葉を無視し身体の向きを変えると、ツカツカと歩いてダイニングの扉を片手で押し開けた。
あまりに反抗的な態度で出て行ったレオンを見て、ノアは皿を床に投げつける。
「く!くそっ!どうして······弟がフィリスと名を呼んだくらいでこんなにイライラするんだ······。どうして契約が達成されなければいいなんて······思うんだッ!!」
どうして、こんなにフィリスを他の人に渡したくないと思うんだ······。
ノアはじっと割れた皿を見つめた。
割れてしまったものは、直すことが絶対にできないのだろうか?
もし一つ一つのピースを集めて、丁寧につなぎ合わせたら元通りには······ならないのだろうか?
レオンのように魔法が使えれば······綺麗に直るのだろうか。
ではフィリスとの間にできた亀裂、いやもう割れてしまっているかもしれない彼女の心はどうやって直したらいい?
魔法も使えない無力な俺には何ができる?
その時、ノアは継母であるエレインが絵本を読んでくれた昔の事を思い出した。
『”愛”は二人の心をくっつけてくれるとっても凄い万能薬なの!』
「”愛”······か」
この”愛”という名の万能薬は、物語の中では、お互いを想い合う二人(物語では王子様とお姫様)に有効であった。
だが、奥手で色恋に疎いノアは、フィリスを愛すれば、彼女もまた自分を愛し、二人の夫婦関係が確固なものになると、単純にそう信じていたのだ。
親友テッドや国王アレクに会い、彼らのような夫婦関係を育みたいと感じたこと······。そして今日のレオンの荒治療的な後押しもあり、彼に少し芽生えていた不明瞭だった感情は、彼の心の中で明瞭なものとなり、その心情の変化は急速に加速していく事となる。
「フィリス、すぐに貴女を迎えにいく!」
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