12. その気持ちは恋・・・なのか?
本日こちら2話目の投稿です。
レオンに寄り添います・・・。
レオンは公爵家の自室でぼうっと窓から外を眺めていた。
母エレインの家を訪れてから4日程が経ったこの日は、彼女がフィリアの為に公爵家にくる予定となっている。
最近、兄のノアルファスは護衛を最低一人、監視として自分につけているらしい。自分とフィリスが一緒にいることのないように見張っているのだろう。
だから、今日なのだ。
レオンは騎士服に身を包むと、部屋を出た。
すぐに後ろから護衛がぴったりとつきレオンは舌打ちをする。
監視がついていると分かっていても、鬱陶しいものは鬱陶しい。
「別にいつもいつも、ついて来なくてもいいよ!」
「いえ、これも公爵閣下の命ですので。それに本日は隣国の魔法学園の面接にいかれるとか?」
魔法学園の面接の日程まで調べられているとは。本当に面倒な事だ······。
レオンは無表情で控えるその護衛を一瞥した。
「ああ、そうだよ」
「では、私もギプロスまで御供いたします」
レオンはもう拒否しなかった。するだけ無駄だと分かっているからだ。
自分の愛馬に跨ると横腹を軽く蹴る。彼の愛馬は直ぐに彼の意を汲んでゆっくりと駆け出した。
◆
隣国ギプロスでは魔法を使える者が多く、特に王族はその魔力量が高い事で知られている。だから、元王女という肩書の母を持つ、レオンも魔法適正が高かった。
そのため、彼はギプロスにある魔法学園に短期留学を考えていたのだ。
今日、母がフィリスの味方になってくれれば、きっと母はフィリスを自らの家に呼び、留めてくれるだろう。そうすればフィリスを心配する事はなくなる。
それに、同じタイミングで魔法学園に入学出来れば、兄とも顔を合わせなくて済むし、時間が合えば、母の家に滞在するフィリスに会いに行くことだってできるんだから。
そう思ってから、直ぐに、レオンの脳裏にはあの母の言葉が思い出された。
”自分の気持ちとしっかり向き合った方がいいわ?”
自分の気持ち······。
僕はフィリスの事が······好きなのだろうか?
漠然とそう考えても、まだ恋愛などというものをしたことがないレオンにはあまりその感覚が分からない。
特に、母と義父のような “燃えるような愛” を目の前にしては、自分の感情などちっぽけなものだから。
確かに彼女には他の女性には感じない特別な感情を持っている。
だけど、それは歳が近いからだろうか?
それとも兄上の契約結婚の相手とされていて可哀相だったから?
それが、分からない······。
レオンは馬に乗りながら、その感情について考えを巡らせた。
フィリスの事は過去にも公爵家で行われる社交の場で耳にした事はある。
侯爵家のご令嬢でありながら、田舎の領地で伸び伸びと育った彼女は、お転婆で自由奔放。あんなどうしようもない女性は誰とも結婚できない。芋くさい。と散々囁かれていた女性だった。
だが、彼女のイメージは王城で開催された、デビュタントで覆されたらしい。
レオンはまだ成人していないのでその場にいる事は叶わなかったが、彼女は強烈なインパクトを残したと各方面から聞いていた。
美しい赤茶色の髪に、赤い瞳の彼女は情熱的で大人の魅力を孕んでいて。
デビュタントした同年代の女性たちよりも明らかに異なる次元の美しさに、周りにいた未婚の貴族令息達はすぐに婚約の打診をしたそうだ。
しかし、国王アレクサンダーが彼女を側室候補とした事で、他の男達が婚約できない様に囲ってしまった。
だが、直ぐに明らかになったのは、彼女が国王の側室なんかではなく、バルモント公爵の妻になったという話だったのだ。
『どうせ、仕組んだんだろう?』
レオンは心の中で悪態をついた。
国王は兄ノアルファスと仲がいい。デビュタントで見かけた彼女を側室候補に入れることで彼女が誰かの手に落ちる事のないようにして、兄にあてがった。
どう考えても、それしか考えられない。
『あの色ボケ国王、王妃にデレデレで側室なんてとる気ないだろうが』
レオンは兄の妻としてフィリスが邸に来た時の事を思い出して、堪えきれずに笑う。
「っふははは!あれは最高だったな······」
最初は噂通りのあまりの美しさに二度見をしたほどだったが、周りに人がいなくなるや否や、素を見せた彼女。
誰にも見られていないだろうと、お茶菓子をいくつも口の中に頬張ったリスのような姿を見て、レオンはその時、堪らず盛大に吹いてしまったのだ。
『ふ、ふひません······ひ、ひはへへひふほはほもはふ······』
笑いの止まらないレオンの顔を見て、赤髪の美しいそのリスのような女性は頬っぺたを膨らませたまま、口の中のお茶菓子を紅茶で流し込もうとしていて。
それを見たとき、やはり、聞いていた通りの性格だ!とレオンは安心した。
むしろ、そんな性格の女性が好ましい。とそう思ったのだ。
もし、兄がいつものように婚姻の打診を蹴るようなら、自分に紹介してもらおうと考えていたのも確かだった。
けれど······兄はその婚姻を受け入れた。
今まで何百通もの結婚の打診を断ってきた兄が、今回に限っては、二つ返事で受け入れたのだ。
最初はやっと兄上が本気で愛する女性を得られたのか······と応援しようとしたこの気持ちも、後々聞いた話にレオンは怒りを覚えた。
急に決まった婚姻のため結婚式は挙げない。そして、契約結婚であり、跡継ぎができれば彼女を自由にするという身勝手極まりない結婚。
『いつも公爵家たるもの論を掲げて、体裁を気にするのに。なんでフィリスにはあんな態度なんだよ!』
僕なら、幸せにできるのに。僕が成人していれば······。
そんな風に自分を責めても、現状は何も変わらなかった。
蜜月中も兄は自室で過ごしていたようだし、あまり詳しくは知らないが、二人が母の様な”燃えるような愛”を育んでいる様子は見られなかったから。
それから一週間あまりで兄はすぐに仕事の為に邸を離れた。
一人になってしまった彼女のために、レオンは時間をとって色々な事を教えた。
けれど、話せば話すほど彼女の美しい淑女の見目と破天荒な性格のギャップに彼女に対する好感度は上がっていくばかりで。
「この感情はなんなんだ······」
そう思うのに時間はかからなかった。
自分が彼女を笑顔にしている。自分が彼女との距離をつめて仲良くなれれば、公爵家にずっといてくれるんじゃないかと、そう感じていたのは事実。
「僕は······フィリスが好き、なのか?これが······恋?」
馬上からみる草原が朝焼けに照らされてキラキラと輝いている。
赤、真っ赤な情熱、太陽のような明るさ、どれもそれらはフィリスを彷彿とさせてレオンは胸の苦しさに顔を歪めた。
愛情。人を愛おしいと思い、慈しむ気持ち。
母が教えてくれた大切な感情だ。
これが、その感情なのかは分からない。恋だ愛だと言われてもレオンにはその区別すらついていないのだから。
ただ、フィリスに幸せになってほしい。兄も尊敬しているし好きだけど、できればフィリスには笑っていてほしい。もしそれを兄が壊すならどんなに敬愛する兄でも真向勝負を挑むまでだ。
レオンは手綱を離し、手のひらをじっと見つめた。
彼女の辛い気持ちを分かってあげたい。兄上がしないのなら、僕くらいは隣にいてあげたい。
彼女のやりたい事を沢山やらせてあげて、いろんな所に連れていってあげたい。
だから、そのためにも魔法学園を最短主席で卒業し、ロザリア王国の騎士団に入って何があっても彼女を守れるように強くなろう。
大切な女性の力になれるように。
皆さま、いいね、ブクマ、★評価などの応援ありがとうございます。
誤字脱字かなりあると思います・・・申し訳ございません。
明日からは一旦夜、1話投稿に切り替えながら、週末など余裕あれば2話投稿致します。




