11. 早とちりはやめて下さい、母上!
皆さま、本日も少し長めで公開しておりますため、お昼休憩等の隙間時間にお読みくださいませ。
また、凄まじいキャラが出てまいりまして……。
ある晴れた日の朝、レオンは早朝に馬を走らせた。
目的地は隣国キ゚ブロスとの国境だ。
王都に邸を構える公爵家から最も近い国境までは馬で大体三時間程だろうか。
遠くもないが、近くもない距離。
途中の街で小休憩をはさみ、レオンは長閑な緑に囲まれた煉瓦作りの美しい家の前で立ち止まる。
そして、玄関の前でもう一度立ち止まると、深呼吸をし、ノックをしようと片手を当てた。
直後、ドアがもの凄い勢いで開いてレオンは咄嗟に後ろに飛び退く。それから両手で両耳を覆った。
「レオンハルトォォォッ!来てくれたのね?そんな気がしていたのよ!ああ、本当にうれしいわ!またイケメンになったかしら?!彼女はできた?もう子供がいたっておかしくないのだもの!ああ、でもレオンハルトはまだ私にとっては赤ちゃんのようなものなのだから駄目ね······。そうだわ、今日は泊まっていくのでしょう?むしろこれからここに一緒に住んでも······「母上!」
レオンはジト目で目の前にいる女性を見据えた。
腰まで伸びた美しい銀髪に、美しい青色の瞳。見た目は学園にいる学生と言ってもおかしくないくらい若々しく美しいが、彼女はレオンの母、その人である。
「母上、落ち着いて「落ち着いているわ?」
「人の言葉に被せてこないで下さい!」
「さきに被せてきたのは貴方よ?」
「っは、ハハウエ!!!」
「え~、怒らないで、レオン!それに少し静かにしないと起きてしまうわ」
しっー、と人差し指を唇に当てた母は、片目を瞑りレオンに悪戯っぽくニコリと微笑む。
「ご、ごめんなさい······。今何ヵ月なんでしたっけ······?」
「二ヵ月よ。まだ、おっぱいを飲んで眠るだけだわ?」
「そうなんだ······」
レオンは、ゆりかごの中で眠る赤子を見た。
燃えるような赤色の髪に、美しい青色の瞳(寝ているので分からないが、そうらしい)の女の子。
「貴方の待望の妹、ね」
「母上、もう僕は成人するのですよ。もう妹というよりは自分の子供のような年齢差ですよ」
「ふふっ、そうね。あ、そうだわ、お茶にしましょう?」
「うん、母上は座っていて。僕が準備します」
レオンが机に紅茶と菓子を並べていくのを見て、レオンの母は感嘆の溜息を洩らした。
「まぁ、本当に貴方は誰に似たのかしらね?優しくて、本当に良い子に育ってくれたわ?」
「それは······、母上が妊娠中は大変そうでしたので、僕ができることはやってあげようとしていただけです。その名残ですね。母上にはお世話になりましたので」
「ふふっ、貴方は私の愛しい子。私がお世話するのは当たりまえですよ?寧ろ、貴方がいてくれて、とても幸せでした」
レオンハルトの母、エレイン。
隣国ギブロスの第三王女として生を受けた、生粋のお姫様だ。当時、外交に来ていたバルモント公爵、今は亡き父に第二夫人として娶られて以来、ずっとロザリア王国の公爵邸に住んでいた。
だが、父亡き今の彼女の家は此処。王女であった時の護衛騎士で、現騎士団長のウィリアムという男に求婚され、結婚した。
現在は二人で仲睦まじく、此処に住んでいる。
「母上、義父上は今どこに?」
「ウィリアムなら、今日は騎士団に行っているはずだわ?」
「乳母はいないのですか?」
「乳母?ああ、レオナちゃんの?」
「レオナ?······ああ、その子か。そうです。赤子の世話をしてくれる方はいないのですか?」
母は首を傾げるとレオンを見つめた。
「何故そんな事を急に聞くの?どうしたの?」
レオンは意を決して母に向き直ると頭を下げた。
「母上、頼みがあるのです」
「頼み······?もちろん貴方の頼みなら叶えてあげたいけれど······」
「仲良くして頂きたい女性がいるのです。彼女、妊娠しているのでとても情緒不安定で塞ぎこんでしまって······。僕では力不足なんです······。公爵家にいるので、来て話だけでもしていただけませんか?どうか、お願いいたします······!」
レオンは頭を下げる。長い沈黙が家の中を包み、レオンは恐る恐る顔を上げた。
目の前の母の目が驚きに見開かれ、大きな衝撃を受けている事は明白だ。
「はは······、うえ······?」
『レオンに······お相手がいたのね······そうよね。こんなに可愛いし、イケメンで。引く手あまたでしょうね?でも、そうなのね。やはり男の子だものね。抑えられない事もあるわ?エレイン、動揺してはだめよ。分かっていたことじゃない······ああ、でもっ』
直後、さっと俯き、ブツブツと何かを呟く母。
内容はあまりにも声量が小さすぎて全く聞こえないが、何か良くない予感がする。そう······小さい頃からそうだった。こんな時はいつだって何か勘違いを······。
何かの結論がついたように母がガバッと顔を上げ、レオンの身体はびくりと飛び跳ねる。
そして母の口は衝撃的な勘違いの言葉を紡いでいった。
「レオン、その女性を妊娠させてしまったのね?それは義理の母として仲良くする事は当然です。
でも、あなた未だ成人していないでしょう?今後の事とか考えているの?!ノア君より先に子供を作れば、跡目争いに巻き込まれることは明白だわ?貴方もこちらに来て住めばと言いたい所だけど······貴方をギプロスで働かせるわけにはいかないものね······。大変だわ······一度ウィリアムに相談を!」
「は・は・う・え!!!」
「え?」
「僕は女性を身籠らせてなどおりませんッ!勘違いをして先走るのはお止めくださいと、何度言ったらいいのですかッ!!!」
「ふぇぇぇ~~~ん」
「あっ······起こしたわね!?」
「っ······、ごめんなさい······ですが僕の所為ではありませんよ······」
母が揺り籠に近づき、赤子を抱っこして戻ってくるとレオンに手渡した。
「ちょ、母上、僕は抱き方も分からないし!」
「大丈夫よ、首の後ろは抑えてあげて」
ぎこちない抱き方で赤子を抱いて、その小さな瞳を覗き込めば、不思議と自然に笑みが零れた。
「······こ、これでいいんですか?」
「ええ、上手よ。妹を抱っこしている気分はどう?それとも貴方も子供が欲しくなったかしら?」
「なにを······仰っているのです?!」
「それで、妊娠した女性は誰?使用人の子かしら?もう良い年齢の子がいたわよね?」
「······いえ、兄上の妻です。だから······兄上の御子ですよ」
「······え?兄上······って······ノア君の?」
「はい。兄上は僕の知る限り、ノアルファス兄様しかいません」
「え······?え?!ちょっと待って······ノア君って······ええぇぇえええ?!」
「ふぇぇぇ~~~ん」
レオンの腕の中で眠りにつこうとしていた赤子が、エレインの声で起き、レオンは母をギロリと睨みつけた。
「母上、起こしましたね。もうすぐ眠りそうだったのにっ!」
「あら、ごめんなさい······?でも、そうなの、あの堅物男子がねえ······!」
「それが······」
レオンはノアとフィリスの契約結婚の事について母にすべて話した。
そして、彼は、フィリスの味方を作るべく母の助けを必要としている事も告げて、それをお願いする。
「僕は今日それをお願いするために来たのです。フィリスが一人なのが心苦しくて。僕は妊娠中の母上に会っていたし手伝ってもいたから多少は分かってあげられるけど······。兄上は、僕をフィリスに近づけるのを警戒しているようですので」
「あらあら、まあまあ」
「引き受けては下さいませんか?」
うーん、と手を顎に当て、何かを考える素振りをしたエレインはレオンに向かって片目を瞑ると含み笑いをした。
「分かったわ。フィリスちゃんの為に行きましょう。で・すが!
レオンハルト、貴方と、ノア君は自分の気持ちとしっかり向き合った方がいいわ?」
”自分の持っている気持ちと今向き合っておかないと、こんがらがって大変な事になるから。その前に、ね?私とウィリアムの様に時間がかかってしまうのは、得策とは言えないから。”
軽くそう言って微笑んだ母のその言葉は、その後、呪文のようにレオンの頭から全く離れなかったのである。
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