1話~異世界で奇妙な相部屋~
なんだか夢を見てるようだった。
自分の境遇に不満を募らせ、自分を甘やかして勝手に自分だけがこの世の不幸を背負っているかのように被害妄想を膨らませて、自分が選択した結果を責任転嫁し続ける日常。
悪夢だった。生産性のない鬱憤を溜めて、誰に対しての言い訳なのか。保身に保身を重ねた言い訳を日々用意する自分が可笑しく思えてくる。
俺は───決して真っ当な人間じゃない。
聖人のような人格者でもなければ、一つの事に熱意を傾けられる程の根性もなかった。人生の負け組なんて、言葉すら俺には過ぎた言葉だ。
自己保身を重ね、勝負すらせずに進むことも退くこともせず、立ち止まり停滞し続けた。
そんな俺が咄嗟に他人を助けるなんて、夢にも思わない。
だからこそ、悪夢だ。
助けたのが他の誰かであったなら素直に称賛出来ただろうが、自分の姿だったからこそ余計に惨めになる。
まだ、俺は何者かになろうと思っている事に。
俺は───何者にもなれない。
「キミはキミじゃないか!ほら。男の子だろ、もう泣くんじゃないよ」
おれは泣いてない。涙一つ流してない。
「いや、泣いているよ。キミの心が泣いている。キミは少し自分に優しくしてあげた方がいい」
おれのことを知らないで無責任な事を言わないでください。
おれは、泣きたくなんかありません。
「もう、強情だなぁ。フフっ、もっと素直になりなさい。心に、感情に素直になって楽しむことを覚えなさい。決して傷つく事を恐れないで」
もう、ほっといてくれよ。
同情してるならいらないから。誰も、誰も助けてくれなかった。だから───
「同情なんかしてあげないよ、バーカ。どんなに辛いことがあっても生きてたらきっと楽しい事が見つかるから。人はそれほど弱くない。だから、目を背けるのはもう辞めなさい。楽しいことも嬉しいことも見逃しちゃうよ」
先輩はそうかもしれない、おれは·····。
おれは身の程をよく知ってます。
「それでも強く生きなさい、辺代勇美くん」
◆◆◆
「おい、起きろ!いつまで寝てんだ!!!」
突然の大声に意識が浮上してくる。
熱を帯びていた全身に冷水を浴びたように感覚が戻っていく。
余程、深い眠りだったのか意識が覚醒するまで起き上がれなかった。
俺は上半身を起こして状況を確認しようと、周りを見渡すが、目が霞んでよく見えない。それに目眩と頭痛が酷い。
なんだよ、これ。
流石に身体の不調に、このままでは仕事に影響すると思い焦る。
「お、おい。大丈夫か?でも、そろそろ起きた方がいいぞ?看守がくる、それまでに起きないともっと酷い目にあうぞ」
え?誰だ?
今更ながらに、自分以外の声に驚きつつも声の主を探す俺の目に映ったのは信じられないモノだった。
「おお、やっと起きたか!あ、オレっちはマッシュ・ポッド。マッシュでいいぜ?」
「··········キ、キノコがしゃっべてる。はぁーっ!?!?」
「おいおい、気合いの入った偏見持ちだな。キノコが話しちゃいけねぇーのかよ。新入り、あまりオレっちを怒らせるなよ、かぶれるぜ?」
「え、あ、悪い。そんなつもりじゃないというか。偏見とかそんな生易しい問題じゃないというか、なんか目が覚めたら知らない場所で。色々あって混乱してて。え?てか、かぶ?なんて?」
なぜか、俺は目を覚ますと牢屋のような場所にいた。
うん。俺も何を言ってるのか分からない。
でも、更に拍車がかかって分からない事がある。
圧迫感を感じる石造りと頑強そうに見える鉄格子がはめられた部屋に奇妙な奴といた。
マッシュ・ポッドと名乗った、どこからどう見てもキノコにしか見えない得体の知れないモノが話している。
しかも、短い手足でシュッシュッとファイティングポーズまでとっている。
パニックになるような現状だが、一周回って少しずつ落ち着いてきた。本当は今すぐにでも叫び出して現実逃避をしたいが、グッと堪える。
目の前にいるキノコは子犬程の大きさで、真っ白な半球形の傘に宝石の如く鮮烈に煌めく紅いイボができていて、ぽっちゃりした白い柄にはイボと同じ紅い瞳とおちょぼ口がある。
短い手足が申し訳程度に付いていて、ピコピコと忙しなく動いている。
「うむ。オレっちは謝罪を受け入れよう。どうやら新入りは余程大変な目に遭ったみたいだ。なら、混乱するのも仕方ねぇーな。新入り、大変だったな!オレっちは同情するぜ。うんうん」
こんな非常識な目にあってもどうにか、パニックにならないのは目の前のキノコのお陰かもしれない。
それはマッシュ・ポッドが敵意を感じさせずに気さくに話してるからなのか、キノコのバケモノのクセにデフォルメされたキャラクターのようで愛嬌があるからなのか、又はその両方か。
「な、なぁ、キノ·····マッシュ・ポッド、さん。改めて、騒いで悪かった。少し質問したいんだが、聞いてもいいか?」
「おいおい、なんだよ。新入り!オレっち達はケンカして仲直りした。それはもう、あれだな。オレっち達は·····」
チラチラっと俺の様子を窺う姿に思わず、笑ってしまう。
「もしかして、友達ですか?」
「そう!オレっち達は共生関係だ!」
「いや、なんかこえーよ!共生って。改めて、ちゃんとキノコなんだなぁ。それより、マッシュ・ポッドさん、質問しても?」
「おう!新入り!特別にマッシュでいいぜ。オレっちに答えられるものなら、なんでも聞いてくれよ」
「ありがとうございます!マッシュさん。先ずは、ここはどこですか?なんで、俺がここに?」
「ああ、ココは───」
妙にフランクな態度のキノコから聞いた話は到底信じられるものではなかった。
どうやら、俺は異世界に転移してしまったようだ。
突然そんな事を言われても信じられないと思うが、目の前にその根拠となるモノがいたら、嫌でも納得するしかないように思う。
それに、横転した大型トラックと衝突したのは夢ではなく現実だった。逆にそっちの方が信じ難い。
でも、その証拠に身に覚えのない小さな傷が所々にあり、マッシュが言うには酷い大怪我を負っていたそうだが、マッシュが治療してくれたらしい。
なんでも、マッシュの傘に生えている宝石のようなイボは生命力が凝固した貴重な素材らしい。異世界クオリティーでいうところのレアな回復アイテムと認識する。
異世界転生や転移モノでベタな展開を一応確認してみるも、マッシュは俺を転移させた神様では無かったし、チートスキルのような超人的な力は一切感じなかった。下心あって人助けをしたつもりはなかったが、異世界に来たからには、やはりチートなスキルや超人的な力には憧れはある。
途中で、マッシュが言うには看守と呼ばれるこの牢屋を管理してる者が食事を運んできたが、その看守は俺と同じ人のように見えた。
まぁ、とんでもなく横柄な態度で、理由もなく数発殴られた程度で、人外認定はしない。
それよりも用意された食事がとても質素だった。いや、用意して貰えるだけ有難いと思うが、カビの生えた堅パンに白湯みたいな具なしスープはきつい。
看守のあの態度を思うに、いつ期限を損ねて食事抜きになるか分からないので無理やり胃袋に詰め込んだ。
そして、俺が今いるこの場所は牢屋は牢屋でも刑罰としての牢屋ではなく、住居としての牢屋らしい。
この辺からマッシュから聞き出すのに苦労した。
いや、マッシュが情報を出し渋った訳ではなく、単純にソレを言い表す言葉を知らなかった。話してみるとマッシュは以外と地頭の良さを感じさせるが、この世界の人の文化にあまり詳しくないとのこと。
この建物の事を聞いても───
「人がいっぱい集ってお祭り騒ぎをするみたいだぜ!余りにも楽し過ぎて、怪我人が必ずでる。オレっちが毎回、治療してるんだけど。正直、頭おかしいよな!」
何度も同じ質問をしても、マッシュは律儀に返してくれる。むしろ、マッシュの方が丁寧に何が知りたいのか、探りながら詳細を話してくれてやっと少しずつ分かってきた。
ここは囚人を入れておく牢獄でも奴隷商の商館でも無かった。もっと最悪で救いのない場所だった。
娯楽として命を削り、奴隷同士殺し合わせる場所。
人殺しがエンターテインメントとして成り立つ野蛮で、人としての尊厳が死んだ場所。
奴隷は奴隷でも剣奴。
剣闘士として、人殺しを正当化された殺戮ショー。
無法地帯だった。
「神様。さすがにハードモード過ぎるって。強くてニューゲームかよ、ハハ───」
現状がどれだけ詰んでいるのかを察して。
自分の乾いた笑いが、やけに耳に残った。
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