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ダウナー彼女に『好き』を言わせたい!

 こんにちは!抹茶風レモンティーです!

 覗いて頂きありがとうございます!楽しんで頂けたら幸いです!

「ねぇ、加織。僕の事、好き?」

「急にどうしたん?」

「…好き?」

「へいへい、好き好き」


 やったー!…ってなんか違うー!!



 こほん。さて、僕こと黒瀬湊人(くろせみなと)が急にこんな事を言い出したのは、自信過剰で痛いやつだからではない。…え?そうだよね?


「ふぅあぁぁ(自信過剰おつ)」


 今も眠そうに欠伸をしている彼女の名前は花宮加織(はなみやかおり)。どこまでも引き込まれそうな澄んだ瞳と、それに反して気怠けな雰囲気が特徴的である。

 いつもやる気なさそうにしていて、全く他人に合わせようとしない、マイペースな彼女だけど、これでも町を歩けば誰もが視線を向けるような美少女だ。

 いわゆるダウナー系美少女ってやつなのかな?


 そして重要なことに、僕の彼女でもある!交際期間は5ヶ月程だ。

 どちらかと言えば僕は加織とは正反対で、誰とでも仲良くなれるタイプ。

 だから馬が合わないかと思ってたんだけど、加織曰く、別に会話が嫌いって訳じゃないらしい。ただ、返答を急かされたり、ハイテンションを求められるのが嫌なんだって。

 それで僕と話している分にはそういう不快感がないらしい。

 自分ではなかなかに騒がしい方だと自覚してるんだけどね。


 そして、加織の家で一緒にのんびりしたり、僕の家でゲームしたりして(加織が外出したがらないからほとんどお家デート)順調に交際を続けて気がついた事がある。



 この5ヶ月間、加織から『好き』って言われたことがない!



 これは由々しき事態である!

 現時点では健全で良好な関係を保てているけど、お互いの気持ちを言葉に出さないカップルはいずれ破局するってネットに書いてあった!



 そして何より、加織に『好き』って言われてみたい!!もっといちゃいちゃしたい!


 そんな訳でさっきの痛いやつになったってことだよ。

 だけどストレートに聞く作戦は失敗である。あれは多分、めんどくさかったから適当に返事をしただけだと思う。

 それも嬉しいけど、僕は欲張りなんだよ!もっと気持ちのこもった『好き』が欲しい!


「よし!切り替えて次だ!」

「なんだか知らんけどがんばー」


 さて次はどうしようかなー。

 なんだかんだ楽しんでいる僕なのだった。



 *



「ん?映画?」

「そう!今、巷で話題なんだよ!」

「巷ってどこだし」

「僕の脳内大都市圏"湊都"で話題なんだよ!」

「ネーミングもっとなんとかならなかったん?」


 なんでさ!分かりやすいじゃん!

 それはさておき、もうお分かりだろう!

 今、加織に見ようと提案しているのは超怖いと少し前に話題になったホラー映画。加織が怖がっている時に男らしさを見せてカッコつける作戦だ!


「ほいほい、また今度ね。出歩くのめんどいし」

「ふっふっふっ」

「…何?そのどや顔」

「なんとここにDVDがありまーす!これでめんどくさくないね!」


 そんな事を言われるのなんてお見通しなんだよ!加織の外出嫌いはもう慣れたものだよね。


「ちっ」

「ひどい!?なんで舌打ちするの!」

「じょーだんじょーだん。てかなんで今話題の映画が既にDVDになってるん?」

「よーし!見るぞー!」

「逃げたな」


 知らない知らなーい!さて、ここでカッコいいところ見せるぞー!


 *


「うぎゃああぁぁぁ」

「ぐえぇぇぇぇ」

「きゃぁぁぁぁぁ」

「うぅ…っぐすっぐす」

「あぁぁぁ」


 *


「―ねぇ、湊人。大丈夫?」

「うぅ、ごわがっだぁ゛ぁ゛」

「あ、ダメだこりゃ」


 うぅ、なんだよあれ。あんなに怖いなんて聞いてないよ!…ひぃっ!今窓の外に何か通った!


「ぐす…ぐす」

「はぁ……しょうがないなぁ」


 そう言って加織は僕のソファーを陣取った。…うぅ、だいたいこんな映画を夜中に見ようとするなんて阿保じゃないか。…っぁ、今なんか寒くなった気がした!!!


「……湊人、アタシ今日いつもより眠いから。1時間くらい寝るわ」

「ぐす…ぐす」

「だから……しばらく胸の中で()()()()が泣いてても気づかないかも。おやすみ」






「ぎゃー!!!おばけー!!いいいいいいい今!!なんか青白い何かががががが通っった!!!!!」

「…人が見ない振りするって言ってるんだから騒ぐなし。しょうがないなぁ」


 うぎゃぁぁぁー!!!おばけが引っ張って来るー!!ひぃぃ!


「くっあぁ…ぁ。真っ暗ぁー!」

「…くすぐったいからアタシの胸の中で騒がない。よしよし、怖くない怖くない」

「うっ、か…おり?」

「そうアタシ。ちゃんと一緒にいるから、安心して一回寝な。そしたらもう大丈夫。バカは1日も経てば何でも忘れるから」









 それからどのくらい経ったのだろうか。加織の胸の中は温かくて、次第に僕は落ち着きを取り戻してきて、重大な事に気がついた。


「加織…ありがとう」

「気にしない気にしない」

「あの、それで。加織?」

「何?」

「…お手洗いに行きたいんだけど」

「?行けば」

「あの…実は腰が抜けちゃって……付いてきて下さいませんでしょうか?」

「一人で行けバカ」


 結局、文句を垂らしながらも肩を貸してくれた加織だったよ。



 *



「ねぇ、加織!今日、家に来ない?」

「…何?トイレ?」

「今日、学校午前で終わりじゃん。お昼ごはんを作ろうと思うんだよね!!」

「無視すんなし」


 はははっ!立ち直りの早さは人生を楽しく生きるコツなんだよ!昨日は失敗失敗。今日こそ良いところ見せるぞー!


「そもそも湊人、料理出来んの?」

「ふっふっふっ!現代には偉大なるインターネット様が存在するんだよ!」

「あっ、これやったことないやつか」


 未経験だと侮るなかれ!今の時代、インターネットに書いてある通りにやったら、大抵の料理はそこそこのクオリティで出来るんだよ!!フラグじゃないよ!

 よーし!がんばるぞー!


「とりあえず出前の準備だけよろー」


 失礼な!!


 *


「ふむふむ…まずは玉ねぎのみじん切りね。あっ、手切っちゃった。痛い」

「こねこね…この後は、叩きながら空気を抜く?何それ?日本語?」

「ぎゃー!!焦げてるーー!!!」

「ちょちょちょ!何とかしないと!!」

「ぎゃー!!崩れたーー!!!」


 *


「お疲れさん、湊人。どう?」

「あははは…。あの、ごめん。すぐに出前とるからもう少し待ってて」

「ちょっと見せてよ」

「いやー、ごめん。失敗しちゃった。…はは」

「良いから見せろし」


 そこにあったのは形の崩れた炭、のような何かだった。


「どれどれ…?ぱくっ」

「ちょっ!加織、ダメだよ!絶対体に良くないって!」

「…うん、不味い。炭の味」

「…あはは、ほんとごめん」




「ぱくぱく…。うん。肉もべちゃべちゃだし、味も薄い。形も崩れてるし良いとこなしだね。…ぱくぱく」

「…ごめん。無理して食べなくて良いよ。すぐ片付けるね」

「うっさい。…ぱくぱく」


「ぱくぱく」


「…ご馳走さま」


 食べきっちゃった。僕も一口味見して挫折したのに。


「…湊人の初めての料理はアタシが食べたから。味はいまいちだったかもだけど、努力の跡が見られたのは好評価。次も期待してる」


 そう言った加織の頬は少しだけ紅潮していた。僕はそんな加織が愛しくて…


「加織…」

「だけど、()()はダメ」


 加織は僕の指に、その温かい手を優しく重ねた。


「この絆創膏。湊人が傷つくのはアタシが悲しい。次は一緒に作ろう?」


 加織の優しい瞳が僕の目を覗き込んでくる。











「…好き」

「…急にどうしたし」

「加織、本当に好き。大好き。愛してる」

「ちょちょ、照れるから止めて」


 加織の顔は夕焼けのような真っ赤に染まっていた。

 さっきはかっこよかったのに、今は恥ずかしがってる加織も可愛くて、好きが増えていくのを感じる。



「結婚してください。一生幸せにする…ようにがんばる」

「ちょ、こっち見んなバカ」

「今度はもっと美味しいカレーライス作って見せるから!」










「…いや、あれハンバーグじゃなかったんかい」


 ほえ?誰がどこから見てもカレーライスじゃん?


「湊人、やっぱ次は絶対一緒に作ろう。急に心配になってきたわ」

「初めての共同作業だね!」

「うっさいバカ」


 加織の顔がさらにぽーっと赤くなったのは内緒だ。

 …っていうかこれ、僕が『好き』って言わされてない?…ダメじゃん。


 それでもなんだかんだ嬉しい僕だった。



 ***


 ―花宮加織視点―



 ―最近…彼氏の様子がおかしい。


「ねぇ、加織。僕の事、好き?」


 なんか急に痛いやつになるし。


 他にも、怖がりなくせにホラー映画見ようと言ってきたり、やったこともないくせにハンバーグもといカレーライスを作ろうとするし。

 前からバカだったのに最近はもっとバカになったみたいだ。

 そして、こういう時に大事な言葉がある。


 ―彼氏の行動がおかしい時は浮気を疑え―


 良く考えたらその兆候なのかもしれない。


 好きかどうか聞いたのは遠回しに湊人がアタシから気持ちが離れているという皮肉?

 いや、湊人はそんな事が出来るほど賢くないか。


 ホラー映画を観たのは?

 浮気相手と一緒に観に行くから苦手克服しようとした?

 でも、だったら普通一人で観るか。…わざわざトイレにも付き合わされたし。まったく。


 じゃあ、料理を始めようとしたのは浮気相手に振る舞うため?

 でも、あの後なんて言うか…あんな感じだったし。


 それはさておき、そんな訳でアタシは今、湊人のすぐ()()にいる。尾行中だ。

 今朝、湊人からこんな連絡が来た。


 *


『今日、ずっと家にいるけど、会えないです』

『なんで連絡してきたん?』

『何でもないよ!偶然!ただ、ずっと家にいるけど昼に来ても出られないかもしれません』


 *


 …怪しい。流石に怪しすぎる。しかもあの分量の返事に10分もかかっている。

 だからわざわざ朝から出待ちして尾行した。はぁ、眠い。けど、我慢。


 現在、対象(湊人)は鼻歌を歌いながら歩いている。どことなく楽しそうだ。…いや、いつもお気楽か。


 そうして、湊人はお店に入っていった。…アクセサリーショップ。しかも女性用の。

 アタシもすぐ後を付けて入った。



 …そして、すぐ出てきた。


 アイツ、店内で女性の店員に大声で相談してた。

 曰く、彼女にサプライズプレゼントを探してるんだと。

 曰く、僕の彼女はとてもかっこいいんだと。

 曰く、それでいて世界で一番可愛いんだと。

 曰く、しかも宇宙で一番優しいんだと。この前も僕の作った下手くそな料理を食べきってくれたんだと。


 その後もずっと惚気(のろけ)ていた。しかも、わらわらと女性店員が集まってきて修学旅行の恋バナみたいになってた。


 居たたまれなくなってすぐに出てきた。…あのバカ。アタシの顔は多分真っ赤だと思う。


 まったく、そんなことは二人っきりの時に言って欲しい。そうしたら、アタシだって…。


 そして曰く、

 ―それでも付き合ってから一回も『好き』って言われてないから、良いところを見せたいんだと。―

 ここだけは小声で話していた。



 …そんな事思ってたんだ。

 一方的に知っちゃって悪い気がするけど、プレゼントをもらう時に目一杯伝えよう。そう思った。






 ***


 ―黒瀬湊人視点―


 うーん。さて、昨日はしてやられた僕、湊人の次なる作戦は王道とも言える人類の知恵の結晶である!きっと誰にも予想がつかないだろう!

 崇高な僕の知能が導きだした完璧な作戦。ふふん!なんと、サプライズプレゼント作戦だ!!


 おっと、僕にサプライズなんて器用な事が出来るのかという話だけど、はっきり言おう。―完璧である!

 まず、僕はそもそも今までにサプライズというものをしたことがない。なぜならそんな事をしようものなら一瞬にして加織にばれるからである。つまり、加織は僕がサプライズなんてしてくる訳ないと思っているってこと。こんな時もあろうかと、手札を温存しておいた僕が賢いって訳だよ!


 そして、しかもなんと!最大の難関であるプレゼント購入は既に終わっているのだ!

 万が一にもばれないように連絡まで入れて念入りに計画したんだよ!

 ふっふっふっ!加織、喜んでくれるといいなー!


「ねぇ、加織!」

「う、うん。どうしたん、湊人?」

「いつも情けない僕に付き合ってくれてありがとう!感謝しています!大好きだよ!!」


 そう言って僕は背中の後ろで両手に隠していたプレゼントを見せる。

 日頃の感謝を不意打ちで伝える。古典的な手ではあるけど、逆にそれが良い!多分ね。

 こそっと加織の顔を盗み見る。動揺しているのか、喜んでくれているのか、あわあわと落ち着かない様子だ。いつも冷静な加織にしては珍しい。この時点で僕はサプライズの成功を確信した!


「あ、その、うん?湊人。ありがとう、湊人。それで、そう、うん…ん」


 うん?加織にしては歯切れの悪い様子だ。


「ふー、湊人。ア、アタシも、湊人の事が―好き―だ!」

「????!!!!!」

「ふぅ……アタシって結構引っ込み思案なところがあるからさ、いつも騒がしい湊人が好きだよ」


 加織の澄みきった瞳が僕の体を覗いてくる。引き込まれていきそうな、綺麗な瞳。


「他にも、純粋なところとか、優しいところとか、ちょっとドジなところとか、可愛いとことかも、全部好きだよ…」


 加織の端整な顔が近づいてくる。

 僕はというと嬉しさと喜びと幸福感と―大好き―って気持ち、後その他諸々で一杯だった。

 加織の儚げな声が耳の奥でぞくぞくと木霊(こだま)する。


「だからさ…アタシが湊人の事好きじゃないとか、心配しなくていいから。………ちゃんと好きだよ………」

「え?それは心配してないよ?」


 加織の顔が更に近づいてくる。もう少しで触れ合いそうで、加織の息づかいがはっきりと伝わる。

 そっと肩を抱き合って、加織の瞳を見つめる。


「嘘じゃないから…。証拠に――え?」


 ん?目と鼻の先まで来ていた加織の顔が固まった。おや?


「…別に強がんなくていいよ。湊人を不安にさせた責任はアタシにもあるからさ」

「いや?だって加織っていつでも僕のミスを笑って許してくれるし、僕の下らない冗談にも付き合ってくれる。そもそも僕は加織と一緒にいたら楽しいし、加織だってそうでしょ?ほら、結構分かりやすいよ?」


 今までだって、一度たりとも加織は僕の悪ふざけを本気で拒絶したことはなかった。

 僕はそんな加織に引かれたんだよ。どうしようもなくね。


「…でも、『好き』って言われたことないの気にしてるって店員の人に相談してたじゃん…」

「うぇ?なんで知ってるの?」

「…風の噂」


 へー。最近の風は凄い噂するんだね。知らなかったよ。


「確かに言ったけど、加織のことをそう言う風に勘違いしたことはないよ?だってそんなの加織に失礼じゃん」

「うぐっ」

「加織に愛されてる自覚はあるけど、それはそれとしてやっぱり言葉にはしてほしいなぁ、って思ったんだよ!」


 ――だから、ね?――


 それだけ口にして、僕はすっと顔を前に出した。

 甘い味がして、すぐに加織の顔はりんごみたいに真っ赤に染まった。


「好きって言われて暴走しちゃったぁ」

「っバ…」


 ――ねぇ加織、大好き――


「っバカ。…………アタシも好きだよ。これからはもっと伝えてくから…」


 今度はどちらからともなく、僕たちの距離がなくなる。

 さっきより甘い味がした。









 ***




「ところで湊人、プレゼント開けてもいい?」

「もちろん!」

「んじゃ遠慮なく。そらっ――手鏡?」

「うん!せっかくだし実用品が良いかなって。ねぇ加織、こっち来て?」

「?いいけど」

 ――ぱくっ――

「っ!」

「加織、可愛い真っ赤な顔がよく見えるね!」

「っバカぁ…!調子のんな!」


 めでたしめでたし、だよ!

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