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Felons  作者: 苔玉
2/2

気を紛らわせるために家を出た。


やけに空が青かった。

雲なんて一つもなくて、なぜか不気味に感じていた。


自転車に乗って、すくそばのコンビニへ行く。


タイヤの空気が多少抜けていて、「後で空気入れないとなぁ」と思いながら漕ぐ。風がなまぬるく感じた。


自転車を駐輪スペースに停め、鍵をかけて入店。


コンビニの扉をくぐった途端に、なぜか購買欲が萎えた。

毎度入店時に、何かを買いたかったんだよなぁと思いながら、雑誌コーナーの前を通って、店内奥の飲料売り場へ行く。


500mlのレモンティーを透明のドアを開けて取り出す。

冷えてなくて、さらに購買欲が萎える。


100円均一のお菓子を見る。

軽くつまめるスナックを期待していたのに、酒のツマミしかない。

もっと購買欲が萎える。


結局キャラメル味のチョコボールを買う。


レジで精算。

店員の目が死んでいる。


また自転車に乗って帰宅。

玄関の前に、スーツの男がいた。

ガタイがいい。大柄の男だ。

めんどくせえ……と思いながら、喋りかける。


「えっと……なにか御用でしょうか」


男はペテン師のような笑みで名刺を差し出す。


「私、東果軍のスカウトをしてます、大北乾と申します」


「おおきた、いぬい……さんですか……ちょっと待ってくださいね、先に自転車駐めて良いですか?」


「ああ、すみません。どうぞ」


自転車を自宅の自転車置き場に駐めて、また玄関へ戻る。


「えーっと……それで……東果軍の方が一体何用でしょうか」


「まず、加藤宗也さんでお間違いないでしょうか?」


「はい、私がそうですけど」


「それはそうと、先に名刺受け取って頂いていいですか?」


「ああ、どうもすみません」


名刺を受け取って履いていたジャージのポケットに入れる。


「いえ、それで、先程申したように、私スカウトをしていまして……」


「はぁ……えっ?僕が東果軍に?いやいや、残念ですけどそれは無理ですよ?僕は自分で言うのも何ですけど、根性ないですし……力も当然無いですし……」


「まあそうだと思いますが」


「まあまあ失礼ですね」


「失敬、で、ですね。まあ加藤さんにやっていただきたいのはですね、『リアルFelons』とでもいいましょうか」


「はあ……ひょっとして何かのジョークですか?ドッキリか何かですか?どう考えてもニートの僕にスカウトは道理が通らないでしょう」


「まあまあ、聞いてくださいよ。それで、えーっと……そうだ、それでFelonsをですね、リアルでやるとでもいいましょうか」


「はあ?」


「まあ、そうなるのも分からなくもないんでしょうけど……」


大北が苦笑する。


「いや、ありえないでしょう。Felonsを現実でやる?4月1日は4ヶ月先ですよ」


「加藤さん、Felonsのランクいくつでしたっけ?」


「エンペラーの5でした」


「そうですよね?プレイヤー人口150万人のプレイヤー中の最上位プレイヤーなわけですよね?」


「だった。っていうかチーターにやられてさっき落ちたので4ですよ」


「まあ細かいことはいいんですよ。それでその腕を見込んでですね」


「いやいや待ってくださいよ。僕、自分で言うのも何ですけど、滅茶苦茶ピーキーですよ」


「ええ、存じておりますとも」


「えぇ……」


「それで、パンフレットをお持ちしました」


「準備いいですね」


「というわけで、三日、三日差し上げますので、明々後日までに連絡ください。ちなみにこの話は極秘なので他言することはないようにお願いしますね」


三日をやたら強調する大北。

大北は黒のビジネスバッグから、白がかった半透明のビニールに包まれたパンフレットを差し出す。大きく極秘と赤字でビニールに書かれている。


俺が受け取るやいなや、踵を返して路肩に止めた黒のクラウンに乗って帰ってしまった。


「なるほど、だから名刺渡すのを先に優先してたんだな……」


俺の呟きは、風に溶けて消えた。




「いやーどうすっかなぁ……」


パンフレットを家に持ち込んで考える。

とりあえず、リビングの机の上に名刺とビニールから出したパンフレットを置いてソファに座る。


「めんどくせえなぁ……」


Felonsがリアルでできるというような事を言っていたのが、ひどく気がかりだった。


あれだけは気になる。



しばらくパンフレットを読んでいると、母親が帰ってくる。


「おかえり」


「いやー大変だったのよー加藤さんちの奥さんがね、これ親戚からもらったからおすそ分けって、このみかんもらったのよーほら見て宗ちゃん、ダンボールいっぱい。お宅の息子さんいっぱい食べそうだからって言っていっぱいもらったのよー今度会ったらお礼言っときなさいよ!」


「うん、言っとくよ」


玄関からリビングに入った母親は、


「それで、みかんここ置いとくわよ!宗ちゃん好きに食べてね!よかったら毎日箱ひっくり返してくれる?」


「うん」


「あらー宗ちゃん何読んでるの?また就活するの?」


「まだ決めてない、あとこれ極秘らしいから見ないでね」


「ふーん、まぁ、好きなだけ家に居てもいいわよー」


「うん、ありがと」


「ふふ、宗ちゃん朝ごはんは?」


「まだ」


時計を見ると、11時だった。


「もうすぐお昼の時間だし、朝ごはん食べずにお昼になったらお昼ご飯食べなさいよ!」


「そうする」


「食べたいものある?」


「天津飯」


「食欲あるわねー」


「まあね」


母親がソファの隣に座ってテレビをつける。


「あらーこの人老けたわねーあら、つけ麺ですって!」


「うん」


スマホを取り出しtwitterを開く。

タイムラインは足が9本のタコだとか、赤ちゃんパンダだの平和だった。


書き込みボタンを押して、「俺がFelons辞めるって言ったらどうする?」と書き込む。


しばらくすると返信があって、

「何すか兄さん、マグロの泳ぎみたいに止まったら死ぬ兄さんが何いってんスカ!?

え!?死ぬんスカ!?冗談は辞めてくださいよ!死ぬときは俺と一緒って言ってたじゃないスカ!?」


名前がメカメカという仲間からリプライが届く。


「そんなこと言ってねーよ!マジで辞めるかも知んないからそんときはよろしくな」


「マジっすか!?いやいや待ってくださいよ!そんな馬鹿な!他のゲームに移住とかそういう話っすか!?お供しますよ!」


「いや、就職」


「そんな馬鹿な!!!兄さんが就職!?寝言は寝て言ってくださいよ!!」



また、他の仲間であるカチャトーラからも返信があった。


「辞めるって本当ですか?しかも就職で?」


「マジ」


「ひきこもり仲間じゃないですか!裏切ったんですね!見損ないました!」


「むしろ俺の引きこもりへの信頼感が高すぎる」


そういった仲間たちと冗談を言い合いながらTwitterをする。






━━━━━━━━そうして3日が経った。


俺は、東果軍総司令部にいた。



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