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憂鬱な朝だった。
冬なのに、暑かった。
目を覚ますと、暑さからか毛布を蹴飛ばしていて、「地球温暖化が刻一刻と迫っているのかもしれない」なんて事を考えていた。
変な夢だった。
直下型地震が自分の家を襲う夢だった。
大きく地面が横に揺れて、命の危険を感じた夢だった。
変な夢だった。
目を覚ますと杞憂だった事に気付き、えも言われぬ安心感と、取越苦労だった苛立ちが同時に襲ってきた。
ベッドから下り、まっすぐPCへ向かう。
中古で買ったゲーミングPCだが、いい買い物をしたと我ながら思っている逸品だ。
画面を付けて目当てのゲームのアイコンをクリックしてゲームを開いた。
しばらくしてロード画面に入る。
ロードが終わると、躊躇なくスタートボタンをクリックした。
━━━━マッチングが始まった。
このゲーム、Felonsは「重罪人達で殺し合いをさせる」というコンセプトのゲームだった。
だったというのは、今では違うのだ。
ある時、大型アップデートでロボットスーツが追加されたのだ。
高さ2.5m程の大きさのロボットスーツは、大きな武器となった。
そしていつしか、ロボットスーツが最大の持ち味となり、その流れではじめから全員がロボットスーツに乗ったままバトルが開始するようになったのだ。
そういう訳で、俺もロボットスーツに乗ったアバターを操作するわけで。
基本的にスリーマンセルで1チーム。
最後まで残った1チームが勝者となる。
俺の初期装備は速さを活かせるショットガン。
森の中のステージなので、最大限に活かせるはずだ。
ゴングの音と共に始まる。
右を見ると味方が二人。
片方はアサルトライフル、もう片方がサブマシンガン。
俺のショットガンは速さに補正がかかるので、俺が先行することになる。
ピンを指して近くの里に向かう。
ミニマップを見ると、しっかりついてきているようだ。
森が開けて、廃屋が5軒ある里についた。
限界集落とでも言おうか、荒れ果てた家は瓦がところどころ落ち、雑草が生い茂っている。
小さな、荒れて雑草が生い茂る田んぼが家を囲っているため、見晴らしは幾分か良い。
近くの廃屋の縁側の板戸を蹴破ってから踏み入る。
落ちていた修理キットを2つ拾う。
タンスを開けて、アタッチメントのホロサイトを装着して屋根裏へ向かう。
ここでは救急キットを拾う。
屋根裏の窓からこちらへ来る敵が見えた。
素早く階段を降りて、回り道をして背面を叩く。
アタッチメントを呑気に拾っている敵目がけてショットガンを放つ。
食らった敵が俺の方を向き応戦するが、俺が次弾を放つ方が早かった。
ダウンを取った敵の頭をサッカーボールのように蹴飛ばしてキル。
援護しに来てくれた味方も、俺が殺した敵の味方と接敵したようで、2対2で戦っていた。
直ぐにリロードしながら援護に向かう。
廃屋の壁を遮蔽物にしている敵を側面から叩く。
回復中だろうか。
索敵しながらもしゃがみこんでいる敵は横から丸見えだった。
大きく半円を描くように、遮蔽物を使いながら突貫する。
反対側の敵の側面に味方も向かう。
ショットガンを打ち込む。
相手がこちらに向かって撃ってきたので慌てて石塀を遮蔽物にして隠れる。
直ぐに味方が反対側から来てくれたので、もう一度突貫する。
なすすべもなく相手は挟撃され殲滅された。
しばらく廃屋を散策してそこから少し離れた神樹に向かう。
獣道が神樹まで続いているので、わりかしわかりやすく移動できる。
味方が撃たれたようだ。
直ぐに後ろを向いてカバーに入る。
なるほど、丈の高い草むらの先に敵の姿が見える。
木を遮蔽物に使って攻める。
木の後ろから木の後ろへ移動する際はスライディングを上手く使って当たる面積を減らしながら進む。
遮蔽物に使っている木に次々と銃痕が刻まれる。
大きめの石があったので、そこを遮蔽物として隠れる。
確実に敵の狙いはこちらを向いている。
味方も俺の後を追って敵に銃弾を浴びせていく。
たまらず敵が俺の方から味方の方へ狙いをつけていく。
俺は石の背後から飛び出して近づきショットガンを撃った。
味方の銃撃が当たっていたのか、一発でダウン。
他の敵が見当たらない。
逃げていったのか、あるいはすでに脱落したのか。
そうしてまた新樹を目指す。
神樹は直径が10mを超える大きな木だ。
神樹のそばには古ぼけた桐箱がいくつも散乱していて、そこからお目当てのアイテムを探す。
胸部分の追加アーマーを発見して装備。
アーマーは頭、胸、腕、脛の4部位がある。
ダメージを軽減できる装備で、それぞれ追加ダメージに応じてどんどんレベルアップさせることができる。
序盤で手に入るのは嬉しい事だ。
神樹に架かった梯子を上っていく。
神樹は同マップ上に複数個あるわけだが、それぞれ微小の回復能力が備わっている。
神樹の幹の上に立って、索敵をしていく。
うーん...敵の姿は見当たらず、敵はこの周辺にはいないのかもしれない。
とりあえず、ここでしばらく待って━━━━。
脱落!という文字が画面に出てくる。
「はぁ!?」
思わず立ち上がる。
キルカメラといって、俺を殺したやつがどうやって俺を殺したのかリプレイで見る。
「ほう……スナイパーか……構えて……はぁ!?チーターじゃねぇか!」
通報した後で、萎えてPCの電源を落とす。
立て続けに俺を含めた三人を見えていないにもかかわらずヘッドショットで殺すのはどう考えてもおかしかった。
「ッチ……ふざけんじゃねえよ……」