ヒロインざまぁの悪役令嬢モノの小説の世界に異世界転生しちゃったので全力で逃げます
五股かけるって普通に考えて凄い
私、ヒロイン!今、土下座してまわっているの!
はじめまして、こんにちは。私、ミランダ・サントです。聖女やってます。親はいません。聖王都の教会で毎日お祈り、信者達一人一人への祝福、魔獣達が国内に入り込まないように結界も張り、亡くなった者には次の生での幸せを祈り、生まれてきた者には今世での幸せを祈り。毎日、それを一人でこなしています。自由な時間すら、ほとんどありません。そんな私の唯一の楽しみは。
…たまに通える学園で、貴公子達を誑し込み貢ぎ物を貰うこと。
はい、自分で言ってて恥ずかしいです。でも本当に貴公子達との恋愛ごっこくらいしか楽しみがなかったんです。今は五股くらいかけてます。
はい、ですが近頃取り巻きというか逆ハーレムのみんなの様子がおかしいのです。理由はわかっています。
…悪役令嬢さんが!みんなの目を!覚まそうと陰日向に努力しているからです!
ええ、ええ、このピンチになってようやく思い出しました!前世の記憶!ここはヒロインざまぁの悪役令嬢モノの小説の世界!そして私はヒロイン!つまりざまぁされる運命なのです!学園は退学、聖女なのに聖王都の教会を追い出されて、最果ての修道院で一人寂しくお祈りを捧げる毎日になるのです!
絶対嫌ー!最果ての修道院だけは嫌ー!あそこ寒いのよ!何の娯楽もないのよ!男もいないのよ!お願い許してなんでもしますからー!
ということで、私、決めました。
学園から、逃げます。
で、早速この朝っぱらから学園内を走りまわり、迷惑をかけた人、誘惑するだけしてなんの見返りもあげなかった人達に謝罪というか所謂土下座をしてまわっています。もちろん迷惑料と慰謝料も一人一人に渡して。一応聖女なのでお金はあるのです。どうせ使い道もないし。
そして逆ハーレムメンバーにも華麗な土下座を披露し、迷惑料と慰謝料を渡して、悪役令嬢さんにもスライディング土下座をして迷惑料と慰謝料を渡しました。ええ、なんとしてでも聖王都の教会にしがみつくために。
みんなぽかーんとしていましたがちゃんと謝罪と慰謝料を受け取ってくれたのでまだ間に合う…と思いたい!
そしてそのままの足で校長室に向かい、校長先生に反省文と退学届けを叩きつけ「ごめん寝」をします。校長先生は慌てて私の身体を起こし、なんとか説得しようとしてきますが私の決意は固い。結局校長先生は根負けして退学届けを受理してくれました。
「…ということで、私、まだ聖王都にいられるわよね!?」
「っ!はははははははは!なんだそりゃ!お前バカかよ!バカだったな!」
私が必死になって掴みかかっているのに大爆笑しているこいつはエトワール・スリールドンジュ。これでも聖王陛下だ。
「あんたがそう育てたんでしょうが!」
「俺よりも先代に文句言えよー。俺が聖王になった時にはもうお前性根捻じ曲がってたもん」
そう。聖王は聖女を育て上げる役目がある。のだがこいつは基本的に放任主義だ。このやろう。
「んじゃあ責任取って結婚してやろうか?さすがに公爵令嬢でも聖王の妻には手は出せないぜ?」
「…っ!いいこと考えるじゃない!」
「…は?」
「決めたわ!エトワール、私と結婚しなさい!」
エトワールは人としてはバカでアホでどうしようもないクズだけど一応聖王としては立派な奴だ。…聖女に対して放任主義はいただけないけども。それに私には結構甘いところもあるし、見た目もいいし、なんなら数年前に即位したばかりで年も近い。優良物件じゃないの!
「ね、エトワール、結婚しましょう?」
「おっ前…っ!〜っ!」
エトワールは頭をがしがしとすると私を抱きしめてきた。いきなりなに?
「俺、お前のこと、好きなのわかって言ってるんだよな?」
「え?」
「もう我慢してやんないから、覚悟しろよ」
そこには見たことない、男の顔をした狼がいました。
結局最果ての修道院行きは免れたけど、もっと厄介なのに捕まったかもしれません。
これからは教会内に閉じ込められて浮気も出来ませんが破れ鍋に綴じ蓋ではないでしょうか