02 柳橋美湖 著 世代 『北ノ町の物語 69』
【あらすじ】
東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。
……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。
季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。
異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。
挿図/Ⓒ 奄美剣星 「手乗り炎龍」
69 第七階層の青い海
皆様こんにちは、クロエです。前回のお便りでは、第六階層ショッピングモールで、MP節約アイテム「エコショール」をゲットと喜んでいるのもつかの間。第七階層に行こうとしたら、お外で待たせていた炎龍のピーちゃんが、ビームでダンジョンに風穴をあけちゃいました。審判三人娘の皆さんは大怒り、私たちはまたも罰ゲームで、第一階層から第六階層までやり直しを命じられてしまったのです。そして、ようやく第七階層へ……。
◇
私たちは青い海原のただ中を航行するクルージングボートにいました。
デッキに佇む私の横に、船室から出てきたマダムが来て肩の上を覗き込みました。
「これがあの炎龍ピーちゃん? こんなに可愛くなっちゃって、まあ」
「審判三人娘の皆さんに叱られたとき、申し訳ないな、ピーちゃん、小さくなってってお願いしたら本当にちっちゃくなっちゃいまして」
今、ピーちゃんは手乗りサイズになって、私の肩にとまって羽繕いしています。
従兄の浩さんと顧問弁護士の瀬名さんは、よくお爺様のお供をして、釣り船で沖合に出ていました。その都合で、お二人はお爺様から二級船舶免許を取らされていたため、クルージングボートの操縦を交代ですることができました。
クルーズボートの屋根の上に立った白鳥さんがこんなことを言いました。
「浮遊ダンジョン第七階層が、全十三階層のうちいくらフロア面積最大とはいっても尋常じゃない広さだ。というか、今までのフロアから割り出した面積計算からして、尋常じゃない広さになる。さっき、浩君と瀬名さんがボートをダンジョンの壁があると推定される水域にまで寄せてみたけど、“圏外”はまだまだ先にあるらしい。もしかすると、各フロアはそれぞれ別個の異世界なんじゃなかろうか」
「けど、ピーちゃんは第六階層の外部からビームを撃ち込んじゃいましたよね」
「そうだ。そこが悩ましい矛盾なんだ」
白鳥さんは頭を抱え込みました。
審判三人娘さんの話によると、第七階層の海にはスタート地点からA・B・C・D・E、五つの島があるとのことで、すでに私たちはD島に到着しようとしていました。スタート地点のA島は無人島だったため筏をつくり、ケルベロスさんに泳いでもらい、村のあるB島まで曳航してもらいました。B島ではカヤックをレンタルしてC島に渡り、港町のあるC島ではこのクルージングボートをレンタルできました。
そして、D島の島影を白鳥さんが見つけたとき、ボートが止まったのです。浩さんに言わせると、何者かがボートのエンジンを破壊したというのです。
この船は密室のはず。私とマダム、浩さん、瀬名さん、白鳥さん、審判三人娘の皆さん以外には誰もいない。あるいは密航者の仕業? だとしたら何のために?
そこへです、
髑髏の海賊旗を掲げたガレー船が姿を現しました。
北洋海賊!
あれ、北洋海賊って私たちがこの大陸に渡る途中で出会ったけど、お爺様に壊滅されたはずなんですけど……、それになんでこのダンジョンの中にまで出没してくるわけ?
◇
それでは皆様、また。
by Kuroe
【主要登場人物】
●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。
●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。
●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。
●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。
●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。
●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。第五階層で出会ったモンスター・ケルベロスを手名付け、ご婦人方を乗せるための「馬」にした。
●審判三人娘/金の鯉、銀の鯉、未必の鯉の三姉妹で、浮遊ダンジョンの各階層の審判員たち。