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自作小説倶楽部 第20冊/2020年上半期(第115-120集)  作者: 自作小説倶楽部
第115集(2020年1月)/「抱負(野望)」&「衣装(着物)」
3/26

02 紅之蘭 著  衣装 『ガリア戦記 07』

【あらすじ】


出世に出遅れたローマ共和国キャリア官僚カエサルは、人妻にモテるということ以外さして取り柄がなかった。おまけに派手好きで家は破産寸前。だがそんな彼も四十を超えたところで転機を迎え、イベリア半島西部にある属州総督に抜擢された。財を得て帰国したカエサルは、実力者のポンペイオスやクラッススと組んで三頭政治を開始し、元老院派に対抗した。



挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「イミリケとウェル」

    第7話 ローマ軍の休日


 前回第6話の末行に、カエサル麾下ローマ軍六個軍団三万が、民族移動中であるスイス人ヘルヴェルディー族がアラル河畔の丘陵地で反攻してきたのを返り討ちにし、三日間の休息を与え、四日目に出撃したと書いた。……それで歯切れよく、一気にエピソードを収束させようと考えていた作者・紅だが、今回のサークルお題は「衣装」である。勇ましく物語を進ませる予定だったが、武士ではないところの紅は「二言」しちゃって、閑話余談的に往時のファッションを観望してみることにした。       


 休暇第三日目。

 ローマ兵が戦友の埋葬をほぼ終えた。

 彼らのいる宿営地・陣城に、ヘドウゥイ族の首都ビブクテの北東十八ローマ・マイル(二十七キロ)から買い付けた食料を続々と搬入させていた。午後、最後の運び屋がやって来た。

 城柵の中で、髪を青く染めた若い女が風を切って歩くたびに、ワンピースの貫頭衣トゥニカ一の裾がはためき、ローマ兵は太腿で結ばれた宝石つきリボンに釘付となった。

(上玉だ!)

 ヨダレを拭きながら言い寄ってくる男どもを無視し、なおもまとわりついて触れようとする男どもには平手を食らわす若い女に、後からやってくる少年は苦笑した。

「姐御も罪な人だ。辺境宿営地にあって、男臭い兵隊のただ中を娼婦の格好で歩き回ったら鼻血ブーものじゃないか。……それにしてもローマ軍兵士は宿営地設営用の杭を持って行軍し、敵勢力圏に〈一夜城〉を築いてしまう。大したもんだ」

 姐御と呼ばれたのはイミリケという女で、そう言ったのはウェルという少年だ。

 話しかけられたのだが、当のイミリケの眼差しは陣城の内側に設けられた柵囲いの中に向けられていた。その捕虜というのは、すこし前に、ローマ軍が渡河中に奇襲したスイス人ヘルヴェルディー族で、大部分はその場で斬殺されたが、足手まといにならない程度の数が捕虜にされていた。捕虜のほとんどは女子供で、戦いが一段落して兵士が故郷に帰ると、奴隷市場で売られてしまう運命だ。それまでの間は、兵士の慰み者にされる。

 イミリケとウェルに先導され、穀物袋を満載した荷馬車十両が会計係の前に停まると、会計係は早速手続きに入り、ほどなくローマ兵士たちが穀物袋を自軍の荷馬車に移し出した。

「負け戦になったらこうなる。知ってはいるけどやるせない」

 古代世界はシンプルにできている。

 イミリケの姐御が舎弟ウェルの肩に手を置いた。

「よーく見ておいで、ウェル。これがローマ軍だよ」       


   共和制ローマ軍装          


 兵士の衣類は上から、兜の端で怪我しないようにするスカーフ〈フォカレ〉を首に巻き、チェニックの語源となっているコート服〈チェニカ〉を上半身に羽織り、パンツ〈トロウセルス〉を下半身にはき、革紐サンダル〈カリガ〉を足に履く。また、コート服〈チェニカ〉の裾はパンツ〈トロウセルス〉の上にきているのだが、剣帯〈バルテウス〉は〈チェニカ〉の上から締めることになる。そして後に示す甲冑を装着した上から、深紅の外套〈サガム〉、を肩にかける。これが寒冷地になると防寒用外套〈パエヌラ〉に置き換わる。


 防具は、兜、鎧、盾がある。


 兜のことを〈ガレア〉あるいは〈カッシウス〉と言い、共和制初期は頬当てがなかったが、後期あたりから頬当てが付くようになる。また末端兵士には羽飾りはないが、百人隊長は馬の毛でできた扇飾りが頂部に付く。

 鎧は小札鎧ロリカ・スクアマタ、板金鎧〈ロリカ・ハマタ〉、鎖帷子ロリカ・ハマタがある。小札鎧や板金鎧は、百人隊長、旗手、騎兵、儀礼兵といった将校クラスが装備していた。小札鎧は皮鎧の上に薄く伸ばした小さな金属片を鱗状に貼り付けたもので、板金鎧は金属板だ。前者は共和制初期に、後者は後期から帝政期に用いられた。対して鎖帷子ロリカ・ハマタは一般兵士が装備したチェーンメイルの一種だ。後は必要に応じて、腕部防具の手甲〈マニカ〉、脚部防具の脛当〈グレアウェ〉が用いられた。


 盾は、大盾〈スクトゥム〉、小盾〈パルマ〉、騎兵用盾〈ケトラトゥス〉がある。大盾〈スクトゥム〉は重装歩兵用で、敵弓矢・投石対応の密集盾陣形(亀陣形・テストゥド)に向いている。小盾〈パルマ〉は芯部以外木製で、共和制初期から中期にかけての下級兵士用の官給品だったが、後期あたりから大盾に移行した。騎兵用盾〈ケトラトゥス〉は騎兵が持ちやすいように細長くなっている。


 武器は、剣、槍、弓矢がある。


 このうち剣は三十センチ未満の短剣〈ブギオ〉とそれよりも長い片手剣〈グラディウス〉とがある。もともとはカルタゴ支配下のイベリア半島で生産されていたものだが、ハンニバル戦争のときローマのスキピオがカルタゴ軍を真似て生産するようになって以来、ローマの主力兵器になった。


 槍は、長槍〈ハスタ〉、投槍〈ピルム〉、投槍〈ウェルトゥム〉がある。長槍〈ハスタ〉は王政期に密集槍陣形〈ファランクス〉に用いていたが、共和制後期では柄の長さが短くなり、一部の古参兵が用いるのみになっていた。投槍〈ピルム〉はローマ軍最大威力を誇る兵器で、敵を殺傷することよりも敵の盾を使用不能にすることに主眼が置かれた短い槍だが、ときには白兵戦にも用いられた。投槍〈ウェルトゥム〉は〈ピルム〉よりもさらに短い投擲特化の槍だ。


 弓矢は、練習用の丸木弓〈サジッタ〉と実戦用の合弓〈複合弓・アルクス〉がある。


 他方で、共和制末期ローマ軍には〈サルキナ〉という装備携行様式〈サルキナ〉があった。それは兵士が、荷物袋に、革製鞄〈ロクルス〉、革製水筒袋、携帯食料用革袋、食器パテラ、つるはし、陣地設営用杭〈スディス〉を入れた荷物袋を、フルカ(という名の棒)の先に結んで肩にかけ運搬する方式だ。共和制末期になるとさらに鎧兜も加わり、荷物袋は〈サルキナ〉と呼ばれる。〈サルキナ〉方式の導入によってローマ軍の行軍速度は飛躍的に向上する。〈サルキナ〉方式は、発案者である将軍の名をとって〈マリウスのロバ〉と呼ばれている。


 なお行軍や攻撃合図をするラッパ兵の前身として、奏兵が金管楽器〈ブッキナ〉を装備していた。

          つづく

【登場人物】


カエサル……後にローマの独裁官となる男。民衆に支持される。

クラッスス……カエサルの盟友。資産家。騎士階級に支持される。

ポンペイウス……カエサルの盟友。軍人に支持される。

ユリア……カエサルの愛娘。ポンペイウスに嫁ぐ。

オクタビアヌス……カエサルの姪アティアの長子で姉にはオクタビアがいる。

ブルータス……カエサルの腹心 

イミリケ姐御と舎弟ウェル……謎のガリア人

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