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自作小説倶楽部 第20冊/2020年上半期(第115-120集)  作者: 自作小説倶楽部
第119集(2020年5月)/「風物詩(五月蠅 春キャベツ 田植え 五月病 菖蒲)」&「スリリング(ハーレム・切り札)」
19/26

03 紅之蘭 著  風物詩(キャベツ) 『ガリア戦記 11』

【あらすじ】

 

出世に出遅れたローマ共和国キャリア官僚カエサルは、人妻にモテるということ以外さして取り柄がなかった。おまけに派手好きで家は破産寸前。だがそんな彼も四十を超えたところで転機を迎え、イベリア半島西部にある属州総督に抜擢された。財を得て帰国したカエサルは、実力者のポンペイオスやクラッススと組んで三頭政治を開始し、元老院派に対抗した。




挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「青年クラッスス」


    第10話 キャベツ

 

 前回、ウェソンティオ(現プザンソン)にカエサル麾下ローマ軍団が駐留していたときの話だ。

 カエサルは幕舎に腹心たちを呼ぶと、料理でもてなした。

 腹心たちは、「おお、キャベツの炒め物ですか。久しぶりです」と言って喜んだ。

 キャベツは古代イベリアにいたケルト系住民が栽培していたもので、これがヨーロッパ中へと広まり、古代ギリシャやローマに伝わった。始めは小ぶりでブロッコリーのような形で、ギリシャでは薬草として扱われたが、ローマでは胃腸にいい健康食として需要が増え、品種改良が進んで大きくなり、この時代からボール状になった。

 さてこの腹心たちの中にある若者がいた。

 歴史上の人物の長者番付で、ローマの重鎮マルクス・リキニウス・クラッススは第八位に格付けされている大富豪だ。総資産は日本円に換算して二十兆円にものぼる。カエサルが文無しのころは全借金を肩代わりすらしていた。息子プブリウス・リキニウス・クラッススは、大富豪御曹司ではあったが、ただのボンボンではなく、カエサル麾下の将校として、騎兵隊を任されていた。カエサルの『ガリア戦記』でブリウスは、父マルクスと区別することと、好ましく思われていたことから、青年クラッススと呼ばれている。

 その青年クラッススが、小隊規模の騎兵を率いて、敵対するゲルマン人王アリオウィトゥスのもとを訪ね、上司であるカエサルに託された親書を読み上げた。

「ガリア人ハェドゥー族はわがローマの友邦である。そのハェドゥー族をアリオウィトゥス王は隷属させている。事はローマへの挑戦と受け取れる。近々、上司カエサルは王との会見を望んでいる。

 アリオウィトゥスが王都とするところは、洗練されたローマとは違い、土塁と木柵で囲んだだけの田舎臭い木造集落に過ぎない。その奥にある宮殿でゲルマン人の王は、玉座にもたれながら横柄に答えた。

「ガリア人どもは我らゲルマン人に負けた。勝者が敗者を隷属させるのは当然というもの。……それにおよそ会見というものは、頼み事のある側が馳せ参じるものだ。われらゲルマン側にはローマに頼み事はない。用があるのならカエサル殿がこちらへこられよ」

 王はそう答えると、ゲルマン人がいかに勇猛であるか、そしてガリア人諸部族相手に自分が上げた武勲を延々と話しだした。

 青年クラッススは閉口し話は中断となった。

 立ち去る前、青年が謁見の広間を見渡した。

 アリオウィトゥス王には二人の妃と二人王女とがいた。若い王女たちは二人とも猪首である父親には似ずに、ほっそりとした母親に似ていた。

 その四人が王の左右に控えていた。

 ――ローマ騎士クラスス家嫡男である自分が、ゲルマン娘に心奪われてなんとする。第一、市民が外国人と結婚すれば、子孫は元老院議員にはなれなくなるではないか。

 

 クラッススがカエサルが待つウェソンティオ(現プザンソン)へ帰還した直後、「ガリア人アリオウィトゥス王の軍勢が、ウェソンティオに迫っている」と、斥候がカエサルに知らせた。

 このときカエサルが青年クラッススに敵の狙いを聞くと、青年はこう答えた。

「ここセークァーニー族の王都ウェソンティオは、中部ガリア最大の都市です。ゲルマン人アリオウィトゥス王は、ここを落として中部ガリアを支配するとともに、ローマの権威を失墜させ、いずれはガリア全土を手中に収める腹です。そうなれば南仏属領、ひいてはイタリアにとっても脅威となりましょう」

 ――そうだな、クラッスス。

 カエサルは、そこで、先のエピソードで述べたように、ゲルマン人間諜により士気を下げたローマ軍六個軍団を、名演説で励まして士気回復し、軍勢を東に向けて進撃させることになるのだ。

 

 そこでゲルマン人アリオウィトゥス王は、カエサルに使者を送って、両軍の中間地点にある平原の丘で会談にこぎつけたものの、結局のところ話は平行線に終わり、それが事実上の宣戦布告となった。

 

 ゲルマン戦士たちは妻子を伴って戦場に赴く。

 戦闘になる直前、荷車に乗った妻子は自分たちが、「敵に捕まって奴隷にならないように頑張ってね」と哀願し、そして戦闘になると、後方で鳴り物を鳴らしたり、声援を送ったりした。いわばチアリーダーだ。……そしてゲルマン戦士の妻子たちは、王を裏切らないための人質でもあったのだ。

 王の陣地の眼前には荷馬車に乗った妻子たちがいて、戦士たちを見送っていた。

          つづく

【登場人物】


カエサル……後にローマの独裁官となる男。民衆に支持される。

クラッスス……カエサルの盟友。資産家。騎士階級に支持される。

ポンペイウス……カエサルの盟友。軍人に支持される。

ユリア……カエサルの愛娘。ポンペイウスに嫁ぐ。

オクタビアヌス……カエサルの姪アティアの長子で姉にはオクタビアがいる。

ブルータス……カエサルの腹心 

ウェルとイミリケ……ガリア人アルウェルニ族王子と一門出自の養育係。


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