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自作小説倶楽部 第20冊/2020年上半期(第115-120集)  作者: 自作小説倶楽部
第118集(2020年4月)/「イベント(四月馬鹿・新入学・遠足・家庭訪問)」&「感情(純愛・不倫・過酷)」
16/26

04 らてぃあ 著  イベント 『エイプリルフールの殺人』

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「教唆犯」


本当です。菜々花さん本人がそう言って自慢したんですよ。ハルトと偶然会ってデートしたって。そんなに人気があるのかって? やだわ、刑事さん。ハルトは東風市の名誉市民ですよ。イースター監督の新作映画にも重要な出演するんです。ハリウッドデビューですよ。彼はもう、世界的スターですよ。


そんな男がどうしてこの町をうろついているのかって? そこがハルトのいいところですよ。売れても地元愛を失わない。原点を大切にしているんです。道で会っても友達として挨拶するのが東風市民としての常識です。


ハルトが建てた家にお母さんが住んでいるんです。母子家庭ですごく苦労したって。学生時代にバイトした喫茶店を今も手伝いに来ることがあるそうです。それで頻繁に東京と東風市を行き来しているみたいですね。


夜の街で遊ぶ話は聞いたことないですね。真面目なんでしょう。だから彼がバーでお酒を飲んでいたなんて初めて聞いたから、菜々花さんの話も嘘だろうと思ったんです。ちょうど4月1日だったし。でも、ハルト本人もそう証言しているんですよね。


ああもう、くやしいなあ。


デートだけじゃなくて無実の証言者ですよ。ハルトの芸能生命を救ったんです。


こんな言い方をするものじゃないとわかっています。でも、あの女社長はファンにとって万死に値する女狐ですよ。ネットの書き込みを見てください。天罰だって。ハルトを契約で縛るだけじゃなくて自分のものにしようとしたんでしょう。


          *


酔って他人様に迷惑を掛けるのは酒をたしなむ者としては最低の行為だ。加えて記憶を失うなんて人間辞めたほうがいいと常々思っている。ならば酔って他人様を助けたのに記憶が無い人間はどうだろう。目の前の酔っ払い女をよく知る人間としてはとても賞賛する気にもなれない。


「香澄、あたしどうしたらいいと思う」


愚痴る菜々花から徳利を取り上げて自分のお猪口に注ぐ。熱い酒は美味しいが事態は最悪だ。ネットを確認すると菜々花への賞賛と羨望、妬みが渦巻いている。個人情報流出も秒読みだ。


「いいから。まず、3月29日、あんたがハルトとか言う色男にあった日のことを教えてよ」


「覚えてないよ。ああ、美形と楽しく飲んだのに覚えてないなんて一生の不覚」


「覚えていることからでいいのよ。一軒目はどこ」


「まず、カフェポラリス。新作カクテルを飲みに行ったのが7時。お腹がすいたから居酒屋朧月に移ったのが8時過ぎ、11時くらいに家に帰ったつもりだったのに。違うのかなあ」


「そんなに長く一人で飲食していたの?」


「いえ、葵さんに会って一緒にお話した。会社の先輩よ。地味だけど美人なの。彼女コーヒーを入れるのが上手でね。話したのもコーヒーのこと、葵さんのお祖母ちゃんが喫茶店を経営していていつかお店を継ぐのが夢だって」


酒を飲みながらコーヒーの話ってどうなんだと思ったが、夢を語る葵さんの表情が幸せそうで、つい聞き入ってしまったらしい。そして菜々花は葵さんと10時前に店を出て別れた『ことになっている』。


「店員さんと防犯カメラは」


「どちらも駄目みたい。ハルトと行ったお店もよ。あるのは証言だけ」


証言をしたのはハルトと葵さん、そして菜々花。ただし菜々花だけは覚えていない。


「そして、菜々花は4月1日の会社の飲み会でハルトとのデートを面白可笑しく話した」


「そう」


「どのくらい脚色した?」


「わからない。こんなことがなければ、嘘でしたーって言いたいよ」


「あんた、まさか、また、エイプリルフールの嘘を真面目に考えていたんじゃないの?」


「そういえば、そうだ。昼に葵さんにも相談したな」


「その後の葵さんは? 酒の席にはいた?」


「そう言えばいた。あれ? 葵さんと何か面白いことを話したような」


「ねえ、葵さんってハルトのファン?」


「さあ、芸能の話はさっぱりしないよ」


「年齢、出身地は?」


「ええ? 知らないよ」


「調べるのよ。例えばハルトと同じ町の出身なら、昔からの友達ってこともあるよね」


「あるかも? でも聞いたことないよ」


「すごく親しかったら、隠すこともあるのよ」


「? なんで?」


きょとんとする菜々花を前に私は頭を抱えた。


嫌な想像が頭を駆け巡る。ハルトと葵さんがごく親しい間柄だとしたら、29日の夜に彼が殺人を犯したとすると、葵さんは彼のアリバイを作ろうとするだろう。東京ではなく東風市にいたことにすればいい。ただし、警察が調べれば二人が親しい関係だとすぐばれる。だから、酔ってしばしば記憶を失くす女に証言させるように画策する。例えば酔ったタイミングで嘘をつくように誘導するとか。


          了

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