02 柳橋美湖 著 イベント 『北ノ町の物語 71』
【あらすじ】
東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていたのだが、実は祖父一郎がいた。手紙を書くと、祖父の顧問弁護士・瀬名が夜行列車で迎えにきた。そうして北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。お爺様の住む北ノ町は不思議な世界で、さまざまなイベントがある。
……最初、お爺様は怖く思えたのだけれども、実は孫娘デレ。そして大人の魅力をもつ弁護士の瀬名、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩の二人から好意を寄せられる。さらには、魔界の貴紳・白鳥まで花婿に立候補してきた。
季節は巡り、クロエは、お爺様の取引先である画廊のマダムに気に入られ、そこの秘書になった。その後、クロエは、マダムと、北ノ町へ行く夜行列車の中で、少女が死神に連れ去れて行くのを目撃。神隠しの少女と知る。そして、異世界行きの列車に乗って、少女救出作戦を始めた。
異世界では、列車、鉄道連絡船、また列車と乗り継ぎ、ついに竜骨の町へとたどり着く。一行は、少女の正体が母・ミドリで、死神の正体が祖父一郎であることを知る。その世界は、ダイヤモンド形をした巨大な浮遊体トロイに制御されていた。そのトロイを制御するものこそ女神である。第一の女神は祖母である紅子、第二の女神は母ミドリ、そして第三の女神となるべくクロエが〝試練〟に受けて立つ。
挿図/Ⓒ 奄美剣星 「クロエのパパ」
71 フェィク、第七階層にて
皆様こんにちは、クロエです。浮遊ダンジョン最大のフロアである第七階層の海をクルージングボートで航海をしていた私たちは、北洋海賊船と交戦中に、船底から軟体動物系動物の触手が這い上がってきました。
◇
船室の軟体動物が複数の触手を甲板に這い上がらせてきました。審判三人娘のうちの密室の鯉さんのくるぶしに触手が絡みつこうとしましたので、彼女は飛びのいて、審査対象者である私を盾にしました。もうお二方・金の鯉さん、銀の鯉さんも続きます。審判三たちが悲鳴を上げていましたけど、私だってニョロニョロが嫌いですよお!
求婚者の皆さん――瀬名さん、浩さん、白鳥さん――が甲板に這い上がってきた軟体動物が伸ばす複数の触手にそれぞれの得物を手にし、さらに護法童子くん、伝の執事さん、使い魔ちゃんを召喚して応戦しています。
他方、洋上では。
ガレオン船から出撃してきたジェットスキーに乗った海賊たちがサブマシンガンで撃ってきますので、マダムが私の前に飛び出してきて、魔法障壁をつくって私を守りました。
スクリュー代わりに泳いでボートを推していた三頭犬ケルベロスさんがポンと甲板に飛び上がり、また私の肩にとまっていた手乗り炎龍のピイちゃんが、シャリシャリと音をたてて触手を食べだしました。
「気持ち悪い、夢に出てきそう。……ケルベロスさん、悪食してお腹壊さないかな?」
私が言うと、横にいた吸血鬼の白鳥さんが言葉を返します。
「今はケルベロスとピイちゃんの厚意に感謝だ」
軟体動物はケルベロスさんとピイちゃんが押しているので、任せておけばよさそうです。
残る私たちは、ジェットスキーから鍵縄を放り投げて上がってきた海賊たちに応戦することにしました。海賊斬り込み隊長は縦縞の白いスーツに帽子を被った男性で、余裕な態度で被り物の南瓜を外しました。それは久々に登場した父でした。
その父が手にしていたのは対人用麻酔銃。それを私に向けて撃ったのです。
意識が薄れていき身体が床に崩れる。
「クロエ、しっかりして……」
マダムの声が途切れたところで私の頭の中は真っ白に。
◇
それでは皆様、また。
by Kuroe
【主要登場人物】
●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。母は故ミドリ、父は公安庁所属の寺崎明。女神として覚醒後は四大精霊精霊を使神とし、大陸に棲む炎竜ピイちゃんをペット化することに成功した。なお、母ミドリは異世界で若返り、神隠しの少女として転生し、死神お爺様と一緒に、クロエたちを異世界にいざなった。
●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。妻は故・紅子。異世界の勇者にして死神でもある。
●鈴木浩/クロエに好意を寄せるクロエの従兄。洋館近くに住み小さなIT企業を経営する。式神のような電脳執事メフィストを従えている。ピアノはプロ級。
●瀬名武史/クロエに好意を寄せる鈴木家顧問弁護士。守護天使・護法童子くんを従えている。
●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。魔法を使う瞬間、老女から少女に若返る。
●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。一つ目コウモリの使い魔ちゃんを従えている。第五階層で出会ったモンスター・ケルベロスを手名付け、ご婦人方を乗せるための「馬」にした。
●審判三人娘/金の鯉、銀の鯉、未必の鯉の三姉妹で、浮遊ダンジョンの各階層の審判員たち。




