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自作小説倶楽部 第20冊/2020年上半期(第115-120集)  作者: 自作小説倶楽部
オープニング
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00 オープニング/ 奄美剣星 著  『百年戦争英雄譚 ジャンヌ・ダルク』

挿絵(By みてみん)

 挿図/Ⓒ奄美剣星「ジャンヌ・ダルク」

 淑女ならびに紳士の皆様、今宵も当劇場に足をお運び戴き誠にありがとう存じます。私は当一座の座長。今宵当一座の名優たちが演じますのは、誰もが知る、彼のジャンヌ・ダルク(1412-1431)。多くを語れば野暮となりますが、語らねば忘れられるというものですので、あえて語りましょう。

 事の発端は1328年に、フランス・カペー朝男子直系が断絶し、王室典範サリカ法によって、家督が分家筋であるヴァロワ家に移ったことにあります。このことに異議を唱えたのが、カペー朝最後の国王の王女のご子息エドワード三世陛下(1312-1377)。彼の方のフランス遠征以降、戦いは長きに渡り、ずるずると1453年まで続けられたので、後世「百年戦争」と呼ばれるようになりました。

 1415年、イギリス国王ヘンリー五世陛下の軍勢によって、フランス北岸カレー市郊外のアジャンクール村での戦いで、シャルル六世陛下のフランス軍は大敗を喫します。その後、フランスの分家筋にあたるブルゴーニュ公家との同盟もあり、以降はイギリスの猛攻で、フランスは首都パリを落とされ、南部に落ち延びて臨時政府を置き、なおも抵抗するものの、滅亡寸前に追い込まれたのでありました。そんななか、国境のオルレアンで、救国の乙女が現れるという予言が流布され、やがて、「ラピュッツェル(嬢ちゃん)」の異名を持つ我らがヒロイン、ジャンヌ・ダルクが、登場したのでありました。

 彼女が登場するのは、1428年10月12日から1429年5月8日にかけて行われた「オルレアン包囲戦」の最中のことです。

          *

 1428年3月9日、王太子シャルル(後のシャルル七世)とシノンで会見し、22日に、騎士待遇の臣下となります。ジャンヌ・ダルクの初任務は、イギリス軍に包囲され陥落寸前だったオルレアンの救援です。

 まずはフランス軍の前線基地ブロワに赴き、そこに集結していた輜重隊に合流。物資をオルレアンに届けるというものでした。部隊は4百人からなっていて、兵員は2人の指揮官に預けられていました。ところが、任務の途中、2人いた指揮官の1人と、麾下の兵員2百が、4月28日、敵に寝返ってしまいます。このとき残ってジャンヌと行動をともにした指揮官がジル・ド・レ男爵で、ジャンヌの恋人ではなかったかとも囁かれる人です。

 29日、フランス輜重隊がブロワの町から、ロワール川を北東へ遡って行くとき、ブロワ‐オルレアンの中間地点にあるサン=ルー砦の守備兵が、ジャンヌ達輜重隊に気づき、奇襲をかけてきました。危機に際して、途中まで同行した友軍が敵を揺動してくれたこと、そして隊伍を乗せた帆船の背中を押すように、上流へ向かって風が吹くという奇跡が起こり、夜になって無事オルレアン入城に成功したのでした。

 以降、町の士気を鼓舞するため、定期的にパレードをしたり、オルレアン市を包囲するイギリス軍側が設けたいくつかの付城を偵察して回ったりします。

 轡ともにしていたジル男爵にジャンヌは言います。

「ジル・ド・レ、この戦いはもらったわ」

「お嬢、なんでそう言い切れる? 友軍のデュノワ将軍が救援隊を率いてかけつけてくるものの、兵員数は、フランス軍もイギリス軍も2千。ガチンコじゃ五分五分で、勝負はどっちに転がるか判らない」

「ジル、私はオルレアンを囲む付城をすべて見た。どこの砦も詰めている兵士は5百ばかり。これを1個ずつ潰していったとすれば?」

 こうして、ジャンヌの献策を入れたフランス軍は、5月4日から8日にかけて、オルレアンを囲んでいた、すべてのイギリス軍付城サン・ルー砦、オーガスティン砦、トゥーレル砦を各個撃破し、ロワール川南岸エリアを奪還。補給線を分断され、敵地に取り残されていたオルレアン市の窮地を救ったのでありました。――結果、イギリス軍は同戦線を放棄し、撤退するに至ります。

 ジャンヌの戦い方は、女ゆえにか、敵付城への「各個撃破」、さらには大砲砲弾を敵城の城門に集中砲火を浴びせてぶち破るといった、従来の「戦場作法」を無視した新戦法でした。ゆえにフランス軍は破竹の勢いで国土を回復していき、イギリスの顔色うかがって即位をためらっていた王太子シャルルを、ランスで戴冠させることに成功します。

          *

 ジャンヌ・ダルクの最後は、皆様がご存じの通り、パリ攻略中にブルゴーニュ公国軍に捕縛され、同盟国イギリス軍に保釈金を前借りする形で引き渡され、弾劾裁判となり、火炙りの刑に。――これに対し、当時の欧州人達は、当事者イギリス人、ブルゴーニュ人、はたまた現地の処刑執行人に至るまで、神の使徒を火炙りにしたとビビりまくり、神罰を受けるに違いないと恐怖したのであります。――ほどなく、イギリス・ヨーク朝はテューダー朝に打倒され、ブルゴーニュ公爵家は男系断絶により、オーストリア・ハプスブルク家に併とんされたことで、「やっぱり神罰が下った」と当時の人は囁きあったといいます。

 19歳で処刑されたジャンヌ・ダルクは、百年戦争が終わるころ、復権裁判で名誉が回復され、さらにしばらくして聖女に列聖することになります。

          *               

 淑女ならびに紳士の皆様、今宵の舞台はここまで。長々と当劇場にお越し頂き誠にありがとう存じます。それではまたいずれ……。


          ノート20210218

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