表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

第七話『決意』



「なんなんだよその未来を見る能力って…。魔法かなんかか?」


「魔法というか呪いの一種かな。じゃあ、僕の『未来予知』の能力についての話を聞いてほしい。さっきも言ったんだけど、僕の家系は代々未来予知という能力が使える。いつでも使えるとかそんなチート能力じゃない。この能力の持ち主が生きている間に起こる、最も大きな事件とか災害とかを『一度だけ』見ることができるという能力なんだ。」


 『呪い』という言葉に引っかかりつつも、話を進める護。


「それで、ウルズ様が殺される未来を見てしまったと。」


「そういうこと。僕の人生で起こる最も重大な事件がそれらしい。」


 先程見たあの美しい王様が殺されるというのは、接点がない護でも、やはりつらい話であった。


「ガスパー、お前のその能力で見えた未来は100%起こるのか?見えてしまっただけで起こらないって可能性も…。」


「僕の先祖達も同じ能力を持っていたんだけど、その人たちが未来予知で見た事件や災害は、残念ながら100%起こっている。避けることはできなかったんだ。」


「でもお前はさっき俺のことを『彼女を救うファクター』だって言ってたよな。どうしたって避けられないんじゃないのか?」


「そう。今までの先祖たちは、悲しい未来に気付いてそれを避けようとしてきた。でも避けられなかった。」


「じゃあ…」


「でも彼らはこの世界の人たちだけでどうにかしようとしてきた。だから僕は異世界の君を呼んだんだ。この世界にいるはずのない君なら、僕の見た未来を変えられるかもしれない。」


ーーそういうことか。だからさっきガスパーは「この世界に存在しない人なら誰でもいい」って言ったのか。


「この世界に存在するはずなかった俺を異世界から呼んで、文字通り『一石を投じた』ってわけか…。」


「マモル君を石に例えるのもよくないと思うけど、まあそういうこと。僕はこの世界に、不条理な未来に反逆したいんだ。」


 自分が何のために呼ばれたか、この世界でどうすればいいのか、ようやく話が整理できてきた護だが、まだ気になることがあった。


「なあ、もし俺が『協力しない』って言ったら俺はどうなるんだ?」


 護にとってこれは一番気になることだった。協力すると言えばもちろんこの世界で生きていくことになるのだろうけど、協力しない場合は、この世界で生きていくのか、元の世界に戻れるのか、はたまたこのまま死刑執行なのか。


「もし協力しないって君が言ったら、選択肢は二つある。この世界で生きるか、元の世界に戻るか、だ。僕が勝手に呼び出したんだ、協力しなくても命の保証はする。だから死刑執行なんて何があってもさせないよ。それに元の世界に戻せることだってできる。ただ、この世界に異世界の誰かを召喚させることは、二度とできない。そういう魔法なんだ。」


「二度とできないって、じゃあ俺が協力しなかったら、ウルズ様は絶対死ぬってことか?」


「そういうことになってしまうね。魔法もそんな便利なものじゃないんだ。意地悪でごめんよ。」


 協力したくないと思っても、そう答えるのは難しそうだった。しかし護には、元の世界への未練はそこまで無かった。もちろん両親に何も言えなかったのは少し心苦しいが、それ以外のことはなにも思うところはなかったのだ。


「もしウルズ様を救えたら、そのあと俺はどうなるんだ?」


「さっきも言ったけど、戻りたければいつでも戻れる。でももし君がこの世界で住みたいと望んだら、もちろんそのままここに居られるよ。それに、もしウルズ様を救えていたら、そのとき君はこの世界の英雄なんだしね。」


『英雄』という言葉に、男は弱い。それは護も同じであった。それをガスパーがわざと言ったのかは定かではないが。


少しだけ心を揺さぶられた護であった。



 協力してもしなくても、命の保証はされた。ならばあとは、協力するかしないかの判断材料が必要だ。


 護は先程のガスパーとの話で少しだけ気になったことがあった。


「なあ、今までのガスパーの先祖たちは、お前みたいに異世界から誰かを呼ぶってことはしてこなかったのか?」


「ああ、しなかったと言うより『できなかった』と言うのが正しいんだよ。異世界から誰かを召喚するという魔法を考えたのは僕なんだから。」


「お前って怪しそうな見た目してるのに、ほんとはすごいんだな。」


「一言余分だよ!!」


 いじけるガスパーがおかしくて護は「ははっ」と笑みが溢れた。そんな護を見てガスパーが、


「この世界に来て初めて笑ったんじゃない?マモル君。」


 自分でも気付いていなかったことを指摘され、小恥ずかしくなってしまう護。


「いや、知らねーよ、俺だって笑うときは笑うわ。」


「それもそうだね。」と、今度はガスパーが笑う。


 さっき初めて会った二人は、まるで友達のように笑い合っていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 護はその後色々な話をガスパーから聞いた。ガスパーは、エクトル家の中でも魔法の使い手として、とても優秀らしい。「ガスパール」という名前も、「先見者」という意味があるという。未来予知の能力をもつ家系で、そんな意味のついてる名前をつけてもらえるなんて、かなり期待されて産まれたらしい。自慢げに話している姿はそんな雰囲気を微塵も感じさせないが。


 兎にも角にも彼は、この国で魔法では一番に成り上がった。そして異世界から誰かを召喚する魔法を作り上げ、見事成功させた。期待に応えることというのは難しい。護はそのことを知っていた。そのせいか、彼は目の前の男にどこか少し尊敬の念を抱いていた。


 ガスパーと話していて気付けばかなりの時間が経った。まもなくウルズ様と会う時間だろう。異世界の話が興味深かったこともあるが、護はガスパーと話すことに夢中になっていた。二人はどこか馬が合うのかもしれない。


「こんなに喋ったの、久しぶりな気がする。」


 護はふと思ったことを口にしていた。その言葉に続けて、少し真面目な声のトーンでガスパーが言う。


「マモル君が、あっちの世界でどんな生き方をしていたか、僕は知らない。でもこうやって話してて少しはマモル君のことわかってきたよ。」


「そんな俺単純なのかよ。」


「単純とかじゃないけど。」と彼は前置きしてから、


「君は優しいよ。僕にはわかる。」


「どこからそうなるんだよ。」


 急に褒められむず痒くなる護にガスパーは続ける。


「まず王の間のときに、君は僕の言ったことをきいてくれた。そして、牢屋に戻ってきてからも、納得がいかなかったらすぐに話を断てばいいのに、ちゃんと理解しようとしてくれて、会話をしてくれるし、ウルズ様が殺されてしまうかもしれないということを知ったとき、君は悲しそうな顔をした。それだけでもう君が優しくていい人だってわかるよ。異世界から召喚されたのが君のような人でよかった。」


「俺はそんな立派な人間じゃないよ。」


「君がなんて言おうと僕が勝手にそう思ってるからいいんだよ。」


「今日初めて会った異世界の人間に言われてもなあ。」


 そう言いつつも、密かに嬉しく思っていた護であった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ガスパーがポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認する。


「もうそろそろ時間だ。さて、一番大事なことをきかなければいけない。短い時間と少ない情報量で判断してもらわなければいけないのは心苦しいけど、決めて欲しい。僕に協力してウルズ様を救うか、見殺しにして元の世界にもどるのか、このまま平然とこの世界で暮らすか。」


「きき方がずるいんだよ…。」


 しかし、護の中で答えは決まっていた。この世界に召喚されてから、まだ4時間ほどしか経っていないが、これからどうするべきか、護は自分の心に従うことにした。


「協力するよ。」


「えっ。」


「いやだから、協力するって言ってんだろ。」


「いや、協力してくれなきゃ困ったんだけど、してくれるって聞いたら聞いたで、すこしびっくりしちゃって…。でも、何が君に協力しようと思わせたんだい?」


「そんなん簡単だよ。俺は元の世界に未練がそこまでない。それだったらこの世界に残ってもいいかなって思ったんだ。それに、もしなにもせずにただ残っても、ウルズ様が殺されてしまったら、何が起こるかわからないだろ?もしかしたら戦争が起こるかもしれない。そしたら俺の命だって保証できない。それだったら協力したほうがマシと思っただけだよ。」


「君は合理的なんだな…。でもありがとう。これで話が進むよ。ほんとにありがとう。」


「ああ。」


 何度も頭を下げて感謝を述べるガスパーは、やはり悪い奴ではないのだろうと改めて思う護であった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 実はここに残った理由は他にもあった。もちろんさっき言ったことも嘘ではないが、それより大きな決め手があった。


 護はガスパーと話していて、彼と友達になれる気がしたのだ。短い時間だが、久しぶりに誰かと話していて楽しいと思えた。一緒に笑い合えた。それだけで、護の心を動かしていた。


 そして、ガスパーという男が努力してきた話を聞いた時、何もしてこなかった自分を恥ずかしく思った。彼を尊敬し、変わりたいと思った。彼のように生きれたらな、と思った。そしてその気持ちは、今まで特になにもせずに生きてきた彼の心を奮い立たせたのだ。


 彼は、母に言われた言葉を思い出していた。「やればできる子」何度もそう言われていたのに、頑張れなかった。


 今がその時かもしれない。護はそう感じていた。



「俺はやればできるんだ。この国の王様救って、『英雄』になってやるよ!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ