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第14話 冒険者と司祭様は一緒に思い出に浸る

「どうする?」

「……ナタリアのやつもどっかに行っちまったし、適当にブラつくか」


 いつまでも椅子に座っていても仕方がない。

 二人は肉を食べ終えると、再び歩き始めた。


「……人が増えてきたわね」

「そうだな」


 時間経過と共に街は人でごった返し始めた。

 少し歩きにくい。


「……」


 アレクサンデルは少し悩んでから、セリーヌの手を握った。


「え?」

「はぐれると大変だろう」

「……ありがとう」


 お互い手を繋ぎながら歩く。

 二人で歩いていると、アレクサンデルの目に見知った顔の男が映った。

 

 ダニエルだ。


 ダニエルはアレクサンデルに声を掛けようとしたが、すぐにアレクサンデルの隣を歩くセリーヌに視線を移した。

 そしてニヤリと笑みを浮かべる。


 分かっている、とでも言いたげな顔で親指を突き出し、去っていった。


「……何、あの人」

「気にするな」


 後で追及されるかもしれないと思うと、アレクサンデルは少しだけ面倒に思った。

 が、しかし今は祭りの最中。

 アレクサンデルはナタリアとダニエルを脳裏から追いやった。


「まあ、とりあえず楽しもうぜ。小さいころは参加したって言ってたけど、久しぶりなんだろう?」

「ええ」


 セリーヌは頷いてから、少しだけ笑みを浮かべて言った。


「エスコートしてくださらない? 騎士様」

「分かりました、お姫様」


 




「ふぅ……温まるわね」

「そうだな」


 二人は露店で購入したお湯割りのブランデーを並んで飲んでいた。

 体の芯からポカポカと温まる。


「星が綺麗だな」

「そうね……」


 寒いせいか、星が良く見える。

 もっとも今は祭り会場を明るく照らすランプの光で本当は星は見えにくい。

 綺麗に見えるのは、「なんとなく」である。


 それを指摘するような、風情の分からない人間はこの場にはいなかったが。


「そろそろ一時間経つし、公園に向かわない?」

「そうだな」


 アレクサンデルとセリーヌは祭りの中心地でもある公園へと向かった。

 やはり中心に近づけば近づくほど、人は多くなり、バカ騒ぎも激しくなる。

 道には酒を飲んで泥酔している者たちもいた。


「凍死するひとがいないか、心配だわ」

「まあ、その辺は市議会がなんとかするだろ」


 そんな話をしていると、エンデアヴェント市の中心地にある公園へ辿り着いた。

 音声を再生する魔導具によって音楽が鳴っていて、楽器の音も聞こえる。


 公園にある大きな噴水の前はちょっとしたステージになっており、火が焚かれていた。

 その周囲を複数の男女が楽しそうにクルクルと回りながら踊っている。

 

「あれはダンサー? エンデアヴェント市は祭りのために、随分と人を雇うのね」

「いや、あれはエンデアヴェント市の市民だ」

「……確かにそうね」


 ダンサーや踊り子なら、それなりに派手な恰好をしている。

 が、踊っている者たちは全員普通の服を着ていた。


 容姿も平凡で、加えて踊りのステップやリズムも滅茶苦茶。

 さらに踊っている者たちに年齢的な共通点はなく、子供から大人、老人までいる。

 

 唯一共通している点は、みんながみんな楽しそうだということだ。


「あれは何?」

「祭りの恒例行事みたいなもんだ。恋人や友人同士が、ああやって楽しく踊る……それだけだ。ルールはない。飛び入り参加大歓迎って感じだな。もっとも……周囲の迷惑になるようなことをすれば叩きだされるが」

「一応秩序はあるのね」


 確かに言われてみれば、泥酔しているような者たちは噴水の周囲には見られない。

 ちゃんと住み分けはされているようだ。


「踊り……か」

「セリーヌは踊れるのか?」

「まあ、そうね。教養としてダンスは習ったことあるわ」

「そうだよな」


 ちなみにアレクサンデルは“ダンス”なんてものは踊れない。

 平民に社交ダンスを習う余裕などないし、そもそも覚えたところで役には立たない。


 だが……

 踊ったことがないわけではない。

 “ダンス”など踊れなくとも、踊ることはできる。

 適当に、自分の好きなリズムとステップで体を動かし、自分の気持ちを表現すればいい。 

 

 “平民の踊り”なんてのは、そんなものだ。


(……そう言えば、夏至の祭りの時だったな)


 丁度、アレクサンデルが“セリーヌ”の村を訪れてから二日目。

 その日は夏至祭りだった。

 普段は質素な暮らしを営む農奴も、祭りの日は騒ぐし、踊る。

 

 即席の楽器で適当な音楽を鳴らし、焚火の周りで踊り続ける。


 アレクサンデルたちは余所者ではあったが、数は多い方が楽しいということで、彼らと一緒に踊った。

 

 拙い足取りの“セリーヌ”をリードしてやったことを、アレクサンデルは今でも覚えている。

 思えばその時から、一気に距離が縮んだような気がする。


「今は冬至だから、真反対だな」


 降臨祭は預言者イブラヒムの降臨を祝う日でもあるが、同時に冬至の祭りも兼ねている。

 ……歴史的経緯を考えれば、元々存在した冬至の祭りが、イブラヒム教の広がりにより、“降臨祭”にすり替わったというのが正しいが、アレクサンデルにはそこまでの知識はない。


「反対、ね……」


 アレクサンデルの呟きに、セリーヌも何か思うことはあるらしい。

 小さな声で呟き、そして手をギュッと強く握りしめた。


「……あ、雪」


 ちらちらと雪が舞うように落ち始めた。

 大きな炎の中に雪が溶け、幻想的な雰囲気を醸し出している。


「……ねぇ、アレク。少し頼みがあるのだけど」

「奇遇だな、セリーヌ。俺も提案があるんだが」


 二人は顔を見合わせた。

 そして揃って口を開いた。


「「踊らない?」」


 そして笑いあった。


「……良いのか? 俺となんかで」


 アレクサンデルが冗談めかして言うと、セリーヌは小さく頷いた。


「だって、今のあなたは私の騎士様なんでしょう?」

「そうだったな……お姫様のお相手をするのは、騎士の役目だな」


 二人は手を取り合ったまま、火へと近づく。

 そして他の組から邪魔にならない位置で向き合い、両手を握った。


「最初に断っておく。俺は下手だから、足を踏むかもしれん」

「あら? なら、安心しなさい。私は得意だから……今度は(・・・)私がリードしてあげる」


 そう言ってセリーヌはアレクサンデルを軽く引っ張った。

 アレクサンデルはセリーヌの動きに合わせてステップを踏む。


 クルクルと二人は楽しそうに舞う。


「アレク、本当に下手なのね!」

「良いんだよ、こういうのは、適当で」

「あはは、そうね。うん……社交ダンスなんかより、私はこっちの方が好きかもしれないわ」


 二人は雪が舞い落ちる中、疲れ果てるまで踊り続けた。







「雪って、砂糖みたいですよね……」

「そうだなー、しかし、ブラックのはずなのに甘く感じる」

「奇遇ですね」

「そう言えば、ナタリアちゃん。あの二人、ナタリアちゃんとの約束をすっかり忘れていないか?」

「良いんですよ、ダニエルさん。妹と友人なんて、燃え上がる男女の前ではお邪魔虫です」

「違いない。……あー、羨ましい。俺も彼女作りたいなぁー」

「まあ、そう言っているうちはできないかと」

「手厳しいな、ナタリアちゃん。誰か、紹介してくれよ。俺とナタリアちゃんの仲だろう?」

「……私にとっては、ただの兄の友人でしかないのですが。それに、私が紹介できる人なんて、ほとんど十代前半ですよ。あなたは二十歳でしょう?いろいろとダメです」

「だよなー」

恋人同士、一緒に踊るって素敵だと思わない?

という作者の意見に同意する人はブクマ・ptを入れていただけると幸いです

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