side31.初恋
※side20.以降
「でも、よかったぁー」
宣言通り会いにきたニコラウスに、安堵の笑みをみせる。
「何がよ」
「初恋は実らないってゆーじゃないですか。男性として初めて好きになったのニコちゃん様だから、そのジンクスに引っかからないか心配だったんですよね」
占いやおまじないは好きだが、叶わなくなる類いのものはできれば自分には適用されないでほしいとフィリーネは願っていた。理想の男性像が容姿内面ともにできすぎた兄であったために、他の異性に眼中がなく初恋としては遅い方になってしまった。
「お話しするたびに好きなトコロが増えていったんで、上書きできていたんですかね」
だったらいいな、とフィリーネはジンクス無効化の理屈を考える。兄も今の婚約者と再会してまた恋をしたというのだから、上書きは有効といえる。
「……ふぅん、じゃあ叶わないかもね」
「どうしてですか!?」
先日、想いが通じあったから今会いにきてくれてるのでは。優雅にお茶を飲むニコラウスの落ち着きように、両想いはよもや自分の錯覚だったのではと疑ってしまう。
彼は頬杖をつき、意地悪く微笑む。
「フィルがオレの初めての女だからな」
素で明かされた事実に、フィリーネは驚愕する。彼は彼で性別問わず恋愛対象にされ辟易していたため、恋愛感情をもったのはフィリーネが初めてだという。
「あぅ、こ、光栄ですが、叶わないのは嫌だし……うぅっ」
自分が初めてというのは嬉しいが、それが理由で結ばれなかったら困る。頬を熱くしながら、フィリーネは弱りきる。
そんな彼女をみて、ニコラウスは可笑しそうに喉を鳴らす。
「っくく、オレを困らせんだろ。せいぜい惚れ直させてくれよ?」
以前、こちらばかりが胸を高鳴らせてばかりなのが悔しくて、そのような宣言をした。本来の低い声音で挑発され、フィリーネの動悸はさらに増す。
「頑張ります……っ」
恋の成就のためにもっと好きになってもらわなければ、とフィリーネは奮起する。そんな彼女をみつめる藤色の瞳に愛しげな色を孕んでいるとは気付かずに。
「……わたくしの前では控えていただけません? ニコラウス様」
自分の存在を忘れたかのように振る舞われ、リュディアは抗議する。
「あら、ディア嬢、もう帰っていいわよ」
「わたくしの援助でこの場にいることをお忘れですの!?」
しれっとした態度のニコラウスに、リュディアは噛みつく。婚約を取り付ける前に王女が異性と二人きりになれるはずもない。リュディアとの茶会に同伴という口実あってのこの状況だ。
ニコラウスもそれは解っている。単にリュディアを揶揄っただけだ。
いつも通りのやりとりのなかで、憤慨しながらもリュディアは内心で友人の力になれたことを嬉しく思う。彼が自分を頼るなど珍しいのだから。
先ほどの眼差しといい、彼はずいぶんと王女に惚れ込んでいるのだろう。惚れ直すまでもないように見受けられるが、友人は明かされたくないようなので、しばらくは黙しておこうと思うリュディアだった。








