side30.猫
三省長を務める舅の下で働くといっても、基本は雑務で各省へ書類や郵便物を届けるばかりの日々である。それでも体力のある自分がそうした往復をこなしてくれるのは助かると舅はいってくれる。
庭仕事よりも力仕事が少ないので、平気だと思っていたが、慣れ始めの業務にゆるやかに疲労が溜まっていたらしい。
「今日は庭作業禁止ですわ」
休日は何もせず休むように、と妻に叱られた。というか、心配された。
妻が怒るときは基本心配をかけたときだ。いつも自分より先に彼女は気付く。
それが嬉しくて、叱られてるというのに笑ってしまった。すると、笑い事ではないと生真面目な叱責が降る。
怒っていても美人だとぼんやり眺める。それぐらいには疲れているらしい。
「それで何をしてほしいんですの?」
そういえば、疲れているときは甘えるよう厳命されていた。
妻がしていたように、髪を撫でるのはいいかしれない。彼女のやわらかい髪に触れるのは自分も好きだ。
「ん」
自身に向けて両腕をのばされたので、妻は素直に近付いてくる。腕の届く距離になってから、彼女を一瞬持ち上げ膝のうえに座らせた。
「なん……っ」
「ぜんぶ」
髪だけでなく腕のなかに収まるぬくもりをすべて感じていたい。ぎゅっと抱き締めて、頬で髪の感触を堪能する。
愛しい人に手が届き触れられるとは、なんと贅沢なことだろう。
「あー……癒される」
腕のなかで顔を真っ赤にして硬直した妻は、その呟きを耳にして逃れる選択肢を捨てた。
「し、仕方ないですわね……」
そう、仕方ないと言い聞かせて、可能な限り、身体の緊張を解くのだった。
借りてきた猫のように大人しくなる妻が可笑しくも愛らしいと感じて、また笑みが零れた。
小ネタ270.のザクターンが長くなったので。








