side28.春
※side01.以降
出会ってから何年目かの春。
「お嬢、はいコレ」
「なんですの?」
首を傾げながら、渡された紙袋を開けると明らかに手作りと判るクッキーが。毎度のことながら、彼の作るクッキーはリュディアの知るものより大きい。
「お礼」
「お礼? 毎年、この時期になるとくれますけど、なんなんですの?」
「一ヶ月前、チョコ食べさせてくれたから」
「ただのお茶請けですわよ??」
なぜ一ヶ月も前のお茶請けの礼を今になって渡すのか、はなはだ不思議だ。温室でお茶をするときはお茶請けのお菓子は毎回あるというのに、チョコレイトに限って返礼するというのも、リュディアには理解しがたい。
「でも、毎年二月にはチョコ食べさせてくれるじゃん」
「それは、ジュノの祝日が近くなるとザクが食べたがるから……」
といっても、そうぼやいたのは最初の年だけだ。ジュノの祝日が近付くと彼にしては珍しい要望の籠った呟きを思い出し、リュディアはカトリンに頼んで用意させる。実際、用意すると彼が殊更喜ぶものだから二月の通例となってしまった。
「うん。それが嬉しかったから」
言葉通り嬉しそうに笑うものだから、リュディアは反論の言葉を失くし、受け取るしかなくなる。
「けど、どうしていつも一ヶ月後ですの?」
「それは気持ちの問題」
なんとなく一ヶ月後がいいのだと彼は言う。そんな気分的なものでも繰り返されれば、リュディアも年中行事として認識してしまう。
きっと来年の今頃は、彼からのクッキーを待ち遠しく感じているのだろうと、リュディアは予想がつくのだった。
SNSの小ネタにあげようとしたら、長くなったので。
いつも50溜まったら小ネタ集にあげてるあれです。
(Threadsに以降してからも続けてます)








