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side14.君星

※最終章既読推奨



手を差し出して、(きら)めく金髪の彼が言う。


『君には可能性が秘められているんだ』


「きゃーっ、流石王子! カリスマ感ぱない!!」


画面越しと解っていながら、手を伸ばしたくなるそのスチルに思わずテンションがあがる。周囲に他の攻略対象を従えて、中心にいるメインヒーローのロイ王子。オープニングから掴みはばっちりだ。


「いや、もうカッコいい。すでに推せる。ロイ様、推し確定。どうしよう、先にクリアするか、最後のお楽しみにとっておくか……」


オートでシナリオを進めていたところを、スチルが解除される直前で一旦止め、真剣に悩む。

今プレイし始めたばかりの乙女ゲーム、君だけの小さな星-Dein einziger Sternchen-は魔法が使える世界を舞台にした学園モノだ。入学式から始まり、魔力量が多いことが判明して入学することになったヒロインが右も左も判らない状態で戸惑いながらも、攻略対象とともに苦難を乗り越えていく。

その通称君星の中で、私が一番好きになったのは、ジャケ買いの理由にもなった第一王子のロイ様。金髪と蜂蜜色(はちみついろ)の瞳のスパダリオーラがやばいイケメンだ。いや、うん。乙女ゲームだから攻略対象みんなイケメンなんだけど。私の語彙力の問題。

発売前から知ってはいたけど、あえて声優以外の情報はなるべく入れずにパッケージイラストに一目惚れした直感で買った。実際にゲームをプレイしてキャラを知った方が楽しいと思った。こういうときの直感は割と当たる。

君星のヒロインは唯一魔力に属性がないという特殊事情があり、それぞれ属性の異なる魔力の強い攻略対象たちと行動をともにして自分の属性を変えていく。UIの隅に白い紫陽花(あじさい)があり、それでどの属性になっているか、どのキャラのルートに傾いているか判る仕組みだ。

魔力が入学及第点だったはずのヒロインの親友のフランク、土属性が彼しかいないから彼も本当は魔力量が多いのだろう。一番近くにいた親友が実は……、とはそれはそれでオイシイ。私のドストライクではないけど、わんこ系は可愛いと思う。闇属性の人だけ紹介されなかったけど、まぁ、進んで闇魔法系には行ってほしくはないよね。取説のキャラ紹介からして、担任のハーゲン先生が隠れ攻略キャラだろう。大人枠、大事。それにこういうものは、全属性制覇できるようになっているのがセオリーだ。


「……よしっ、辛いけど、最初にロイ様のバッドエンドルートして、他のキャラしてから最後にロイ様のハッピーエンドの順番で行こう!」


夕歌(ゆうか)、うるせぇよ。一階(した)まで聞こえたぞ」


(ふすま)を足で開け、マグカップを両手に持った男が我が物顔で入ってきた。私、田中夕歌の兄、太一。ここは彼の部屋だから、我が物顔も当然だった。

両親が豆腐屋を営んでいる家はそう広い訳がなく、兄妹(きょうだい)で別の部屋があるだけマシというものだ。けど、スペースと資金の関係上、ディスプレイと据え置きゲームの筐体(きょうたい)は兄妹で共有するしかなかった。

ついでに淹れてやったと、若干恩着せがましくカフェオレを渡される。自分はブラックで飲むから、牛乳が入っているのは私用でしかない。気が利くというより、そうじゃないと私が文句を言うと学習しているのだ。

ありがと、とだけ言って私はそれを受け取った。


「お前、ほんとそーゆーの好きだな」


ディスプレイを一瞥(いちべつ)して、呆れたように太一が呟く。その感想を言ったきり興味がないから、自分のベッドで漫画を読みはじめた。


「いいでしょー、現実にこんなカッコいいヒトいないんだから」


「お前のやってるのみたいな科白(セリフ)を素で言うヤツがいるかよ」


「当たり前でしょ。こーゆーのはイケメンが言うからいいのよっ」


「へーへー」


さいですか、と適当な相槌(あいづち)が打たれる。兄妹の会話なんてこんなものだ。お互いそれぞれのしたいことをして、とりとめもない流せる会話を思い出したようにたまにする。それが部屋を共有しているときの、私たちの当たり前だった。


『今の貴女(あなた)ではロイ様に相応しくありません。相応の結果を見せない限り、わたくしは婚約者の座を譲りませんわ。どうぞ覚えていらして』


「おお……、リュディア嬢、嫌いじゃない」


ロイ様ルートに入るべく、ロイ様の好感度を上げる選択肢を選んでいたところ、彼の婚約者だという公爵令嬢リュディアが現れた。まぁ、王子に婚約者がいない方がおかしいか。彼女はライバル令嬢だろう。

正々堂々と自分を超えてみせろ、と宣言してきて、陰湿な(いじ)めや陰口(かげぐち)をしそうにない。むしろ、それができたら認めてくれると言ってくれているようなものだ。こういうライバルは好きだ。


「どした」


「いや、ライバル令嬢が正面切ってくる系でよき」


「お前の漫画だとこぇーの多いもんな」


「あれは少女漫画だからしょーがないの」


お互いの部屋にある漫画はちゃんと本棚に返すこと前提で、勝手に読んでいいことになっている。だから、私も太一の少年漫画を読むし、太一も気まぐれに少女漫画を読むことがある。太一は少女漫画の恋敵(ライバル)がキツいときに女ってこぇー、とよく呟いていた。

初回プレイということもあり、その日はゲームの中で一学期が終了するところまでで終わった。紫陽花がほとんど淡い黄色になっていたからロイ様ルートまであと少しだろう。



その後、プレイを進めていき、成績もリュディア嬢より上位になって彼女に認められようかという最中(さなか)、ロイ様自身が悩んでいる様子を見せ始める。

何があったのか、と訊ねても何でもないと微笑む様子は、何でもなくはない。かといって、明確に何があるとも言われないから手の出しようがない。物憂げなロイ様もカッコいい、と見惚れている場合ではないとじわじわと感じだす。

そんなタイミングで、兄に会いに来たという妹姫フィリーネが学園を来訪した。


『貴女は……、そう、貴女が……、どうかお兄様を支えてあげてください』


大人しそうで多くを語らないフィリーネ姫は、会ったばかりのヒロインに意味深なことを言って、そう頼んだ。ロイ様似の美少女に頼まれたら仕方がない。いや、頼まれなくても推しは支えたいが。

それ以降、ロイ様に直接会う選択肢とは別に、フィリーネ姫に会う選択肢が時々出るようになった。気になりはしたけど、未来の妹に頼まれたし、とロイ様に会う選択肢を優先して選ぶ。この頃にはバッドエンドを目指していたことを、(なか)ば忘れていた。

ロイ様の悩みの原因を聞き出せないまま、隣国が国境を侵略する可能性を知ったロイ様が指揮を執り、国境防衛戦が発生する。え。学園モノなのに、うそん。


「ってゆーか、コレ苦手なヤツー! なんで太一いないのー!!」


防衛戦がミニゲームになっていて、タクティクスRPGだった。レベル上げすればいける簡単なRPGしかできない私が苦手なゲームだ。太一が好きなタイトルシリーズがこのタイプだった。だから、太一がいればクリアできる。が、今はちょうどバイトに行っていて、いない。

なんで肝心なときにいないんだ、と恨めしく思いながら、頑張ってみたがあえなく敗走。他の部隊が応戦することになった。


『やはり、こんな私には国を守る資格などなかったんだな……』


「ああっ、ロイ様ごめんなさい! 私のせいなのー!!」


絶望レベルで落ち込むロイ様に良心の呵責がすごい。画面の向こうに、下手でごめんなさい、と必死に謝った。

かなり悔しかったけど、スチルコンプのためにバッドエンドを一度は通らないといけないことを思い出して、そのまま進む覚悟を決める。すると、光属性のロイ様ルートに進んでいるはずなのに、UIの隅の紫陽花の一部がじわりと藤色(ふじいろ)に染まり始めた。

嫌な予感しかしない。

そうして、ロイ様が光と闇の二属性持ちだと判明する。自分が闇属性も強いと気付きはじめたから、ロイ様は他人に打ち明けられないままずっと悩んでいたんだ。その(うわさ)(またた)く間に学園に広がり、国中にいつ広まっても奇怪(おか)しくない状態になる。


『初めてお会いしたとき、手を差し伸べてくださったロイ様にわたくしは何もできないのね……、貴女なら彼を救えるのかしら』


「いや、私のせいなんですー! リュディア嬢、せっかく認めてくれたのにマジごめんなさい! あ、同じ光属性のフィリーネ姫なら……っ」


リュディア嬢に後はお前に任せた的なことを言われてしまい、次の選択肢で(すが)る想いでフィリーネ姫に会う選択をする。


『もう私でもお兄様の声が聴こえません……、お兄様の魔力の影響を受ける貴女なら、きっと』


「いや、ダメなんだって。こっちも半分闇属性になっちゃってるんだって!!」


たぶんロイ様ルートの共通会話なんだろうと解っていても、思わず叫んだ。きっと、これまでのフラグを正しく回収できていれば、フィリーネ姫の希望的観測通りヒロインはロイ様を救えたのだろう。けど、今は明らかにバッドエンド直進中だ。

私の予想通り、闇属性持ちであることが国中に知れ渡り、それを理由にロイ様は糾弾(きゅうだん)を受け、王位継承権を剥奪(はくだつ)されてしまった。失意の彼にかける言葉がない、と終わるバッドエンド。

当初の予定通りと解っていても、私は打ちのめされた。


「……お前、何やってんの?」


そこに帰ってきた太一が、不可解そうに床に手を突いてうなだれる私を見下ろした。


「ロイ様を幸せにできなかった……」


「なら、バッドエンド行かなきゃいいじゃん」


「それだと、スチルコンプできないのぉ……」


「あっそ」


言っても無駄だと解った太一の相槌は雑になった。解っている。私でもこのめんどくさい感情に葛藤(かっとう)しているのは矛盾(むじゅん)でしかないって。推しを幸せにはしたいけど、乙女ゲームのプレイヤーとしてはスチルをコンプしないなんて許せないのだ。

推しのロイ様ほどじゃないにしても、これだけのシナリオなら他のキャラもちゃんとしっかり別の展開でバッドエンドが待っている。何それ、辛い。他のキャラも、絶対バッドエンド先にしよう。


「私、絶対ロイ様を幸せにする!!」


他のキャラのハッピーエンドもきっと幸せになれるだろうけど、最後に特別なご褒美を用意しなければ。私は固く決心した。その決意表明に、がんばれー、と漫画を読みながら気のない太一の応援が飛んだのだった。



そうして臨んだ、以降のプレイは、まず側面の話が気になったので異母弟のクラウス王子を次に選んだ。それで、兄弟の確執(かくしつ)を知り、仲良くさせねばと使命感が湧いた。

その後は、色の見た目にギャップがあるレミアスとベルくんルートをしてその相互関係を楽しんだ。フランクルートでは、思いがけずロイ様ルートと関わりがあることが判ったうえ、本当は南国の王子様だったことに驚いた。ミステリアスなニコ姐ルートはお姉さんの呪いが解けたことに感激したから、その後に隠れキャラのハーゲン先生ルートをして落ち込んだ。またお姉さん呪われるなら、順番逆にすればよかった。

そうこう一喜一憂して他のキャラの攻略を終え、とうとう迎えたロイ様のハッピーエンドルート。


『君の星が放つのは小さな光かもしれない。けれど、その光に僕は救われた。君は、僕だけの特別な星だ』


最終スチルの科白にガッツポーズをしたのは言うまでもない。

いやもう、タイトル回収ありがとうございます。


太一は歓喜するそんな妹を見て、こいつ幸せそうだな、と思った。





総合10万pt超えの感謝SSです。

読者様のひとりひとりの応援あってこそです。誠にありがとうございます。


これからも読者様にモブすらを楽しんでいただけるよう、努めてまいります。


改めて、モブすらを見つけてくださり、本当にありがとうございます。


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[良い点] > 未来の妹に頼まれたし 残念...未来の自分なんだよねwwちょい吹いた(^^) [気になる点] > 『初めてお会いしたとき、手を差し伸べてくださったロイ様にわたくしは何もできないのね………
[良い点] いつも楽しく拝読させていただいています。 フィリーネちゃんが君星話を本編で熱く語っていましたが、前世の夕歌ちゃんがこんな感じでプレイしていたのがわかって、更に今後のお話が楽しみになりました…
[一言] 「お前のやってるのみたいな科白セリフを素で言うヤツがいるかよ」 『君の星が放つのは小さな光かもしれない。けれど、その光に僕は救われた。君は、僕だけの特別な星だ』 まったくもってお前だよ、ザ…
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