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side12.声

※五章後のどこか



「あ。治ったかも」


なんとなく喉仏のできた喉元に手を当て、あー、と声を出して確認する。喉の違和感を感じなくなり、スムーズに声が出る。


「よかったっすね」


一緒に作業をしていた弟弟子(でし)のヤンが、そういって喜んでくれた。俺もそれに頷く。


「ああ。これで、お嬢が気にしないで済む」


声変わりで声が出にくくなったのは、これで三度目だろうか。その度にお嬢が心配するから、喉の調子が戻って、俺はほっと胸を撫で下ろした。


「でも、アニキは治るの早いっすね」


「そうか?」


「ほら、自分のときはもうちょっとかかったっすよ」


「そういえば……、そう、かも?」


ヤンとは一歳しか歳が違わないから、変声期も似たり寄ったりだ。一方が喋りづらい期間は、野球のサインみたいにいくつかの合図を作ってやり取りをしていた。それが結構面白かった。けど、親父もその合図を使うようになって、ただでさえ寡黙な親父が更に喋らなくなったから、親父は使用禁止にすることになるようなこともあった。

言われて気付いたが、ヤンの声が出づらかった期間の方が少し長かった気がする。数日ぐらいの差だけど、一体何が違うんだろう。俺の場合、鼻歌歌うクセが抜けなくて口を閉じたまま歌って、ハミング状態になっていた。喉に負担がかかると思っていたけど、むしろよかったんだろうか。


「ザク」


俺が不思議がっていると、お嬢が護衛のポチをつれてやってきた。今日はフローラと休憩時間が合わなかったみたいだ。


「お嬢」


「もう大丈夫ですの?」


すんなり返事したのに、お嬢が心配そうに確認してくるから、俺は安心させるように笑う。


「ああ」


もう一度声を聴いたからか、お嬢は安堵したようだった。小さく吐息を吐くと同時に、表情が和らいだ。

頃合いもよかったので休憩に入り、お嬢をベンチに座らせる。ポチは当たり前のように、お嬢の背後に立っている。今日の作業は、遊歩道付近の花壇の手入れだったから、すぐにお嬢が休める場所があってよかった。

俺とヤンは数メートル離れたベンチに座ろうかと相談していたら、お嬢の視線を感じた。見ると、お嬢はじっと俺たちを見上げている。


「何?」


「また背が伸びていません?」


俺が首を傾げると、お嬢が俺とヤンの頭頂部を見比べながら呟いた。お嬢の意見に呼応するように、ヤンが(てのひら)を上に(かざ)して、水平に俺との間を往復させる。


「もう自分と同じぐらいっすね」


すぐに抜かれそうだとヤンはにかっと笑う。こういうときに明るく返せるのが、ヤンだな、と思う。一つだけとはいえ、歳下の俺に身長が抜かれそうなら、嫌な表情(カオ)になっても奇怪(おか)しくないのに。


「俺だって伸びてるんだからなっ、すぐに抜かしてやる!」


そう、こんな風に。びしぃっ、と指を差してポチが俺に宣戦布告してきた。


「無理じゃないっすか?」


「何ぃ!?」


俺が何か言うより先に、ヤンが他意なく答えた。


「アニキは、親方に似てデカくなると思うっす」


だから、もう自分と背が並んでいるというのがヤンの意見だった。


「だったら、嬉しいな」


「まだ分からないぞ!」


背が高くなるに越したことはないから、デカくなれたらいいな、と俺が表情を緩ませたのに反して、ポチが目くじらを立てた。ポチがたまに俺に向ける変な対抗心は一体何だろう。

ふと、言い合う俺たちを見上げるお嬢と眼が合う。俺の身長が本当に親父ぐらいに伸びたら、座っている状態のお嬢ぐらいの差になったりするんだろうか。


「……お嬢、俺を抜かす予定とかない?」


「は?」


俺の質問に、お嬢は怪訝な表情(カオ)をする。


「ザクは、わたくしをどれだけの大女にするつもりですの」


そして、怒ったように半眼になって、俺を見上げた。


「そういうワケじゃないんだけど……」


ただ見ているだけでも、怪訝になっても、怒っても、見上げる状態だと可愛いだけだと気付いた。俺がデカくなると、お嬢が怒っても恐くなくなる。それは、不味い気がする。それに、ひたすら可愛いと感じてしまって俺の心臓が持つか、少し心配だ。

今までだってお嬢は俺よりちっちゃかったけど、差が開いた分だけ可愛く見える気がする。


「無茶を言わないでくださいな」


お嬢がそっぽを向く。俺が変なことを言ったせいで機嫌を損ねてしまった。習い事の合間を縫って、せっかくお嬢が会いにきてくれているのに、こんな表情(カオ)をさせて勿体ないなと思う。

俺は(かが)んで、悪い、と謝る。

謝罪の言葉に反応して、お嬢の淡い青の瞳がこちらに向く。


「やっぱ無理だな」


「何がですの?」


思い知った事実につい呟くと、お嬢が首を傾げた。なんだか可笑しくて、へらりと笑う。


「だって、お嬢可愛いもん」


屈んでお嬢に見下ろされる状態でも、お嬢は結局可愛い。美少女相手に無駄な足掻(あが)きだったと知る。


「なっ!?」


ぼん、とお嬢の顔が真っ赤になった。

やっぱりどんな表情(カオ)をしていても、お嬢可愛いんだから仕方ない。

きっとまた叱られるんだろうな、と予感しながら、俺は表情が緩むのを感じた。



アニメ化してほしいライトノベル・小説<20年下半期版>5位や、

ラノベニュースオンラインアワード11月刊の総合3位や、

好きラノ2020年下期や読者による文学賞の投票など、


読者様へ感謝することが多かったので、少しでも感謝の気持ちを返したく……


読者様、本当にいつもありがとうございます!!


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○マシュマロ○
玉露 日芽野メノ

蛇足になるかもしれない設定(世界観など)
― 新着の感想 ―
[良い点] お嬢可愛い
[良い点] うあぁ~~~~っ!!尊い!本気で尊い!!……素敵すぎる…… 想いを自覚してもザクはザクですね!お嬢にクリティカルヒット……まぁお嬢は美少女だから称賛されるのはしょうがないですね!慣れてくだ…
[一言] はう、、なんか流れ玉がめっちゃ刺さった、胸が苦しいぃ、キュン死にするのか、、(パタリ)
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