カップ焼きそばで満足したい怠惰なゴリラ
習慣というのは不思議なもので、身に付けようとすればするほど身に付かぬ。その一方で、ふと気付けば体に染み付いてしまっていたりする。善人であろうとする限り真の善人にはなれないのと同じで、早く寝ようとすれば目が冴えてくるのである。日頃の積み重ねが大切なのだ。親に説教されている時のような心持ちになり、私は尚更眠れなくなってしまった。
仰向けのまま、スマホを取ろうと右腕をいたずらに動かした。明かりを点けて起き上がれば早いだろうが、それすら億劫だった。何度も布団を叩きつつようやくスマホを開いてみれば、まさに日付を跨ごうかという時間になっていた。2時間という長い時を無駄にしたことに軽く絶望した。絶望したので、その遅れを取り返さんとスマホをいじることにした。お手本のような悪習である。寝る直前までスマホをいじり、眠れないからとまたスマホをいじる。これで早寝早起きの習慣をつけようなど夢のまた夢なのであるが、染み付いた悪習はなかなか取れないものである。そもそも、早寝早起きを勧めるどこぞの学者先生に私が啓蒙されたのは、まさにこの悪習のおかげなのである。だからこれは悪ではない。必要悪なのだ。
しかし、私にはこれを超える悪習がもうひとつあった。
「···焼きそばかな」
そう、夜食である。夜中に食べるカップ焼きそばは、私の生きる意味の一つと言えるほどに旨い。太ると分かっていながら食べる背徳感と、他の全てが寝静まる中でこっそり食べるというスリルに似た何かがないまぜになった謎の感情が、私の心に深く深く根を張ってしまっているのだ。
カップ焼きそばを食べよう。
そう決意した途端、ついさっき布団でドラミングをしていた怠惰なゴリラとは思えぬほどに、意志の力が全身に充ちていくのを感じた。全身トライングまみれである。私は跳ねるように布団から起き上がり、冷えたジーンズの不快さもものともせず、最寄りのコンビニめがけて部屋を飛び出したのであった。