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駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ  作者: 壬黎ハルキ
第三章 追放令嬢リュドミラ
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第六十五話 メドヴィー王家の真実



 王宮は大混乱であった。

 突如、地下から出現した巨大な魔物。魔力をたらふく蓄えたその力は、王宮が誇る精鋭の騎士や魔導師たちをも、軽く跳ね除けてしまう。加えて魔物自身も激しく狂暴化しており、まるで歯が立たない状態であった。

 魔物は王宮の中庭を徘徊しており、今のところその場で暴れる以外のことは何もしていない。しかし、いつどこにその矛先が向かうかも分からない。

 それがよく分かるだけに、立ち向かう者たちの恐怖は溢れるばかりであった。


「くっ――このままでは、町に出てしまうのも時間の問題か」


 騎士団長が剣を構えながら顔を歪ませる。

 あくまで薬で眠らされていただけで、体のどこにも異常はなかった。おかげでこうして前線で指揮をとりながら戦うことができているが、それと事態が良くなることとは、全くの別問題であった。


「なんとか足止めしろ! これ以上この王宮を壊させるな!」


 騎士団長は、騎士や兵士たちに向かって叫ぶように命令するが――


「無茶言わないでください!」

「そんなこと言ってるヒマがあるんなら、さっさと逃げましょうって!!」

「うわぁーっ! この国はもうお終いだあぁーっ!」


 既に多くが戦意喪失状態であり、もはや勇ましい騎士の姿は幻と化していた。

 武器を捨てて逃げ出す者、恐怖のあまりその場で泣き出す者が続出。無鉄砲な駆け出し冒険者のほうがまだマシだと思えてしまうほどだ。ここは中庭であり、国民の姿が一人もないのが、実に幸いであった。

 しかしながら、魔物に立ち向かう者たちもいる。

 特に魔法が使える者は、遠距離射撃を得意とするだけあって、尚更であった。

 とはいえ、それはそれで全くと言って良いほど効果を成していない。ただ単に勢いに任せて武器を振り回しているだけに過ぎず、もはや勇敢ではなく単なる無謀に過ぎなかった。

 そしてそれは余計に、魔物を怒らせるだけの結果となってしまっており、より狂暴性を増すという結果に繋がる。更にそれを見た騎士たちが、再び無謀に突撃して行って、余計に魔物を怒らせる結果を生み出している。

 まさに負のループが出来上がっていた。これでは勝機などあるハズもない。


「団長!」


 思わず考えに没頭してしまっていた騎士団長は、呼ばれた声で我に返る。


(いかんいかん、今は一刻を争う事態だ。余計なことは考えるな!)


 軽く首を振りかぶり、騎士団長は自分を呼んだ兵士のほうを振り向く。


「どうした? 何かあったのか?」

「国王が……国王様がどこにもおりませんっ!!」

「な、なんだと!?」


 まさかの知らせに、騎士団長は驚きを隠せなかった。王の間で勝利の知らせを待っている――この耳で確かにそう聞いたのだ。


「護衛の兵士たちも全く気づかなかった模様です。もしかしたら国王は、お一人でこの王宮から――」

「バカなことを言うなっ!!」


 不安そうに話す兵士の言葉を、騎士団長は一括して遮った。


(その可能性は確かに私も考えていた。しかしそれを口に出してしまえば、今度こそ間違いなくこの場は瓦解する!)


 騎士団長の頬を冷や汗が伝う。国王が一人で逃げ出した――そんなことは断じてあってはいけないこと。

 そう思いながら、騎士団長は兵士に告げた。


「すぐに探せ。そして王の間に戻るよう、なんとしてでも説得するのだ」

「し、しかし私の言葉に耳を貸すとは……」

「多少の手荒は構わん。責任は全て、団長の私が取る!」

「りょ、了解いたしました!!」


 兵士は慌ててその場を去った。そして騎士団長は、再び剣を構える。


(国王様……一体あなたは、何を考えておられるのですか?)


 その疑問をぶつけるかの如く、騎士団長は魔物に向かって駆け出すのだった。



 ◇ ◇ ◇



「ロディオンめ、余計なことをしてくれおってからに……」


 裏口へと続く長い廊下を歩きながら、国王は文句を垂れていた。


「まぁいい。この騒ぎを起こしたのがアイツだということは、既に周知のこと。アイツが目を覚ましたら、全ての責任を取らせる。それで万事解決だな」


 ニヤリと笑う国王。実の息子に対する厳しさではなく、ただ単に厄介な後始末の全てを押し付ける――そんな歪んだ気持ちが浮き彫りとなっていた。

 やがて長い廊下を抜け、静かな裏庭に出る。

 いつもなら積もる落ち葉を掃除するメイドがいるのだが、今は非常事態となっているため、誰もいない。まさに今の国王にとって、絶好の隠れ場所であった。

 しかし――


「どこが万事解決なんですか? やはりあの王子様の父親ですね」

「だっ、誰だ!?」


 まさか人がいるとは思ってもみなかった。国王は驚きながら周囲を見渡すと、そこに確かに人がいた。


(バ、バカな……さっきまでは確かに居なかったハズだ!)


 いつの間に現れたのか。そこには背筋を伸ばした初老の男性が、穏やかな笑顔を浮かべて立っていた。

 しかし国王は、その笑顔が酷く不気味に見えて仕方がない。まるで獲物を狙う獣のような雰囲気を感じていたのだった。


「こうしてお会いするのは初めてになりますね。アレクサンドロフ家で、数ヶ月前まで執事を務めておりました、ラスカーと申します」

「な、なんだと? アレクサンドロフ家の執事だった男が、何の用だ?」


 動揺を隠し切れないまま、国王は問いかける。

 その時――後方から凄まじい音が響き、黒い影が頭上を覆った。


「な……っ!?」


 ――ずしいいいぃぃーーーんっ!!

 巨大な何かが落ちてきた。それは紛れもなく、表の中庭で暴れているハズの魔物そのものであった。

 そして魔物の視線は、即座に国王のほうにむけられ、ギラリと目を光らせる。


「があああぁぁーーーっ!!」


 魔物が咆哮を上げながら突進する。国王はそれを間一髪で躱すが、魔物は裏口に続く狭い入口に衝突し、その衝撃で王宮へ続く抜け道が崩れ落ちてしまった。

 もはや逃げることもできない。それを悟った国王は、酷く狼狽えながら、魔物と視線を交わす。

 その一方でラスカーは、冷静に今の状況を分析していた。


「ふむ。どうやら国王を狙って、こちらへ飛んでこられたようですねぇ」

「な、なんだと? そんなバカなことがあってたまるかっ!!」

「何故です? そうとも言い切れませんよ」


 酷く困惑する国王とは裏腹に、ラスカーはどこまでも冷静な態度であった。


「その魔物は今の王家――すなわちあなたの御父上が封印なされました。それを魔物自身が覚えており、自分を追い詰めた者に迫るというのは、至って自然な流れではないかと、私は思えますがね」


 ラスカーは淡々と語りながら、ズボンのポケットをまさぐる。そこから何かを取り出したところで、国王の叫びが再び聞こえてきた。


「も、もしそうだというなら、私は無関係だ。封印したのは父上で、私はただ見ているだけだったのだ! 私を狙うのは見当違いにも程がある!」

「……魔物は恐らく、そこまで判断してはいないでしょう」


 そしてラスカーは、取り出した物を魔物の頭上目掛けて思いっきり投げる。

 すると物が反応して光を発射し、瞬く間にその光は魔物を鎖で閉じ込めるように囲んでいった。


「即席の魔力拘束具です。多少の時間稼ぎぐらいにはなると思います」


 ラスカーが国王の元へ歩いていくと、国王は力が抜けたのか、その場に尻餅をついてしまった。

 怯えながら見上げる国王を、ラスカーは冷たい視線で見下ろす。


「あの魔物は、あなた方王家を相当恨んでいます。自分を封印した者の血縁者がここにいると察知し、この手で仕留めるべく飛んできた。まぁ、恐らくそんなところですかね」

「そ、そんな特殊能力が、あの魔物に……いや、そんなことよりもだ!」


 どこか恐れるような視線で、国王はラスカーを睨み出す。


「お前は……知っているのだな? 一体、どこまで知っているというのだ!?」

「恐らく、全てを」


 ラスカーは小さな笑みを浮かべる。国王は何故か、その瞬間に冷たい何かが背筋を通り抜けた気がした。


「今の王家が出来上がったのは、あの封印されていた魔物が原因でした。当時まだ貴族だった先代国王――あなたの御父上が犯した、罪の象徴です」


 違法かつ最高難易度を誇る魔法実験――それに手を出したのだ。他国から召喚魔法で呼び寄せた魔物を、実験材料として。

 当時、王宮の地下にあった魔法訓練用の闘技場を、実験場所として使った。

 王家との繋がりを深く得ていた彼らにとって、そこを使用するのにそれほど苦労することはなかったのだ。

 そして、魔法実験は極秘に開始された。

 しかし違法かつ難易度の高い実験は、アッサリと失敗に終わってしまう。

 魔物は姿形を変えながら暴走。放っておけば闘技場から飛び出し、メドヴィー王国に深い爪痕を残すこととなってしまう。

 彼らはやむなく、その魔物をその場で強引に封印したのだった。

 それから少し経った頃、当時の王家が違法な魔法実験を勝手に行い、国に危険が及ぶところだった、という知らせが飛んできた。


「その知らせを飛ばしたのも、あなたの御父上だった。封印された魔物を隠し通すために、全ての罪を擦り付けたのです」


 目的はただ一つ。封印された魔物が復活しないように守ることだった。

 つまり自分たちが王家となることで、魔物が出てこないようにするための蓋となったのだ。


「まぁ、行き当たりばったりも良いところの乗っ取り劇でした。しかしそれは大成功となってしまった。前の王家――私の親族が不甲斐ないばかりに」


 嘆くラスカーに国王は目を見開く。


「そうだったのか。お前は前の王家の血を引く者か」

「えぇ。そのおかげで、随分と人生を翻弄されてきましたがね」


 ラスカーは自虐的な笑みを浮かべる。

 そもそも当時の国王がもっとしっかりしていれば、まんまと乗っ取られることなんてなかっただろうに、と。

 すぐに人を信じ、平和主義者で『皆が仲良く』を通す性格が、仇となったのだ。


「最初は今の王家に復讐するつもりでした。しかし調べていくうちに、乗っ取られる側もどうかしていたことを知り、なんだか恥ずかしくなってしまいましたよ」


 一概に、今の王家が全て悪いとも言い切れない――そう思ったラスカーは、少しだけ迷いが生じるようになった。

 しかしもう自分の中で、全てをリセットすることもできないでいた。

 だからせめて、前の王家の直系であるリュドミラを、正式な王家とする。そのためにずっと、ラスカーは動いてきたのだった。


「……あのリュドミラが、前の王家の末裔だったと?」

「その様子だと、知らなかったみたいですね。紛れもない事実ですが、もうそれどころではなくなってしまいました」


 ロディオンが起こした婚約破棄。アッサリと国を捨てたリュドミラの行動。それだけでも予想外の連続。しかしラスカーは、それでも諦めなかった。


(リュドミラお嬢様を説得するべく、ミナヅキ様をも巻き込みましたが、それも完全に目論見が外れました。こうなったら今の王家の過去を晒す――それで世の評価をひっくり返してやろうとしたんですがね)


 無論、これは最後の手段であり、最低な行為でもあることは自覚していた。

 自分はただ、先祖である前の王家の無念を晴らしたいだけ。メドヴィー王国そのものはとても愛しており、壊すつもりはなかったのだ。

 それでもラスカーは行おうとしていた。もはや後戻りはできないからと。

 しかし、事態はまたしても、急展開を迎えた。ロディオンが暴走し、魔物の封印を解いてしまったのだ。

 結局その存在は、世に晒されてしまった。これは隠すこともできないだろう。

 これまで自分が悩んできたことが、バカバカしく思えてくる――ラスカーはそう思いながら、小さなため息をついた。


「流石に想定外でしたよ。ロディオン王子の内面は知ってましたが、まさかこんなに早く無謀な行動に出るとは、思ってもみませんでした」

「あぁ、同感だよ。もはや全てをなかったことにするのは、到底不可能だ」


 国王はラスカーの言葉に否定もせず、ただガックリと項垂れた。


「もうお終いだ。父上たちの代から続いた、数十年の努力が水の泡だ。これも全てはあのバカ息子のせいだ。まったく要らんことをしてくれた……」


 ブツブツと呟きながら国王は脱力する。もはや立ち上がる力すらないようだ。

 とても国のトップに立つ者の姿とは言えない。強がろうとも、言い訳の一つすら叫ぼうともしない。

 色々な意味で情けなく、そして実に哀れで痛々しい姿だった。

 そんな国王に対し、ラスカーは空しい気持ちでいっぱいであった。自分はこんなヤツらに、長い年月をかけて復讐しようとしていたのかと。

 するとその時――魔物の拘束にヒビが入った。


「なっ!?」

「どうやら、時間切れのようですね」


 国王は驚き、ラスカーは振り返りながらも戦慄する。魔物は拘束から解放され、再び自由を手に入れた。


「グオオオオオォォォォーーーーーッ!!」


 拘束された怒りからか、更に勢いを増した咆哮に二人は硬直してしまう。もはや魔物は手あたり次第に暴れ始めた。正常な判断もできておらず、このままではどうなってしまうのか、考えただけでも恐ろしい。


「ここまでか。もう覚悟を決めた。いっそ一思いに、私を喰らい尽くしてくれ」


 顔を上げた国王の目に、光はなかった。全てを諦めた男は、弱弱しさも痛々しさも惜しみなくさらけ出している。

 そんな男の傍で、ラスカーも流石に心が折れそうになっていた。


(今の私では、あの魔物を沈めるだけの力はありません……お嬢様、これまで散々ご迷惑をおかけしたこと、深くお詫び申し上げます)


 このまま国王と運命を共にするのも、また自分らしいのかもしれない――そう思いながらラスカーは、覚悟を決めて堂々とする。

 魔物が息を荒くさせながら、国王とラスカーに視線を向ける。

 そして生きているエサだと判断したのか、大きな口を開けて二人に向かって飛び込んできた。

 崩れ落ちた入り口から、凄まじい爆発が起きたのは、まさにその時であった。


「な、何だ?」


 爆発の衝撃で魔物は吹き飛ぶ。そして砂煙の中から――


「国王様、ご無事ですか!?」


 騎士団長と騎士たちが、国王の姿を見つけ、慌てて駆け寄る。


「ふぅ、なんとか吹き飛ばせてよかったわ」

「凄いもんだな。よくもまぁ、二人の魔法が見事に合わさったもんだ」


 続けてアヤメとミナヅキが姿をみせる。そして最後に――


「やっほー。とりあえず無事みたいだね――爺や?」

「お、お嬢様……」


 ウィンクしながら振り向くリュドミラを、ラスカーは膝立ちのまま、呆然とした表情で見つめるのだった。




お読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字につきましては、ページ一番下にある『誤字報告』にお願いします。

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