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駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ  作者: 壬黎ハルキ
第三章 追放令嬢リュドミラ
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第五十八話 メドヴィー王家の秘密



 調合を終えたミナヅキは、再びグリゴリーとの雑談に花を咲かせていた。

 そこでメドヴィー王家について話を聞かせてもらっていたが、そこで思いもよらぬ事実が明かされ、ミナヅキは驚きの表情を見せる。


「えっ? 今の王家と前の王家って、違ってたんですか?」


 こればかりは流石に冗談だろうと思いたかった。しかしグリゴリーの神妙な表情からして、間違いなく本気で言っているのだと判断出来てしまう。

 しかしそれでも、ミナヅキは確認せずにはいられなかった。


「これはまた面白い冗談……では、なさそうですね」

「うむ。ワシも未だに、そうであってほしかったと思っておりますよ」


 貴族ならまだしも、王家そのものが変わるというのは基本的にない。否、あり得ないといっても差し支えない。

 それ相応のとんでもない事件でも起こらない限りは。


「つまりその当時に、王家が変わっちまうほどの何かが起きたと?」

「お察しのとおりですじゃ」


 グリゴリーは深いため息をついた。


「今から先々代の国王の時代に、それは起きました――」


 先々代の国王――それが前の王家だった。

 その王家が召喚魔法の実験に失敗し、大型の魔物を呼び寄せてしまった。その魔物は瞬く間に狂暴化して大暴れ。メドヴィー王都は滅ぼされる一歩手前にまで追い詰められたらしい。

 それを鎮めたのが、とある貴族の魔導師であった。

 狂暴化した魔物を王宮の地下へ誘い込み、強力な封印魔法を施し、見事魔物を封じ込めることに成功した。

 こうしてメドヴィー王都に再び平和が戻った。

 それと同時に、前の王家は地獄を味わう羽目となった。

 大型の魔物が暴れ出した原因――すなわち前の王家全員に責任が追及され、王族としての地位を失った。被害が尋常ではなかったため、そうでもしないと国民は納得しなかったのだ。

 更に事態を収束させた当時の貴族が、新しい王家となった。

 すなわち今の王家の誕生である。

 メドヴィー王国が魔法で売り出すようになったのも、その頃からだったとか。

 召喚魔法の恐ろしさ、そして国を救った魔法の素晴らしさ。そのどちらも大々的にアピールし、やがてメドヴィー王国は魔法王国として繁栄していった。

 それからあっという間に数十年が経過し、今に至るのであった。


「なるほど。そんなことがあったんですね……」


 粗方話を聞いたミナヅキは、話の大きさに圧倒されてしまっていた。


「この国が魔法至上主義になったのも、なんとなく分かった気がしますよ」


 魔法の素晴らしさを強調し続けたことが、いつの間にか魔法こそが全てという考えに歪んでいった。如何せん考え方としては珍しくもないため、普通にあり得そうだとミナヅキは思っていた。


「しかしまぁ、致し方ない部分もあったとは思います。封印した魔物は、消えていなくなったワケではありませんからな」

「あ、そういえば……あくまで封印されているだけだから、いつかそれも解かれる日は来ますよね」

「えぇ。それも相まって、この国では魔法の研究は欠かせないのです。もっともそれを知っているのは、今の王家だけですがな」

「今でもその大型の魔物は、王宮の地下で眠り続けてるってか――ん?」


 ミナヅキは現状の様子を呟いたところで、あることに気づいた。


「そもそも、何でグリゴリーさんはそこまで詳しいんです? もしかして以前、王宮に務めていたことがあるとか?」

「ホッホッホッ、ワシはそんな大層な人間ではございませぬよ」


 グリゴリーは笑いながら首を左右に動かす。


「不思議なモノでしてな。こうして長い人生を過ごしておると、自然と秘密めいた事柄も、次から次へと耳に流れ込んでくるのですじゃ」

「……そーゆーもんですかね?」

「ホホッ、ミナヅキさんも長生きすれば、自ずと分かる日が来ましょうぞ」


 どうにもはぐらかされている気はするのだが、普通にそのとおりな気もする。とりあえず今は、そういうことで納得しておくことにした。


「今の王家がそんな感じってことは、王子であるロディオンも、そのことは知ってるってことですよね?」

「えぇ、恐らくは……あ、そういえばそのロディオン王子についてですが……」


 ミナヅキが出したキーワードにより、グリゴリーは更に思い出す。


「今でこそ優秀で輝いた姿が評判となっておりますが、幼い頃は真逆でしてな」

「真逆っていうと、落ちこぼれかつ地味だったということになりますね?」

「えぇ、まさにそれだったのですよ」


 昔を懐かしむように笑みを浮かべながら頷くグリゴリー。一方のミナヅキは、またしても驚きの表情を浮かべていた。

 あれだけの評判なのだから、昔からそうだったのだろうと思っていたからだ。


「今の王家には、ロディオン様以外の子はおりませんでな。昔はワシも含めて心配しておったモノですじゃ。あんな冴えない王子が将来の国王だなんて、本当に大丈夫なのかとな」

「そこまで言わせるとなると、相当だったんですね」

「えぇ、本当に……国王様も父親として、かなり頭を抱えておられたそうです」

「でしょうね」


 ミナヅキは苦笑しつつ思った。他にも多くの人が心配していただろうが、中には国を乗っ取ろうとする貴族もいたのではないかと。

 基本的には考えないことだろうが、このメドヴィー王国の場合は、大きな前例があるのだ。その前例を何かの機会で知って、もう一度ひっくり返そうとする輩がいたとしても不思議ではない。

 しかしそれも、ロディオンが結果を出したことで潰えたことは予測できるが。


「今でこそ王子の婚約者に、貴族のレギーナ嬢が選ばれましたが……実はその前にもう一人、幼い頃から決まっておられた相手がおったそうでな」

「へぇ、そうなんですか」


 勿論ミナヅキは、そのことをよく知っている。しかしここでは、今初めて知ったフリをした。

 しかしあまりにも反応が淡白だったため、グリゴリーも疑問に思ってしまう。


「……驚かれてないようですな?」

「え? あー、まぁ……その手の問題は前にも聞いたことがあるもんで」

「左様でしたか」


 グリゴリーはひとまず納得してくれたようだった。ミナヅキは心の中で危なかったと安堵する。


「話を戻しますが――その幼い頃からのお相手というのが、魔法学院でずっと主席をキープしておったリュドミラという方でのう。ワシも何度かお目にかかったことがあるのですが、いやぁ一目見てビビッと来てしまいましたわい」


 ワッハッハッと陽気に笑いながら、グリゴリーは続ける。


「あくまでワシ個人の見立てではありますが、リュドミラ嬢のほうが明らかに優秀な方でした。学院の成績だけでなく、人間そのものを含めても、彼女が女王となったほうが将来性が高い! ワシはずっとそう思っておりました」

「……そのリュドミラってのが凄すぎたのか、ロディオンが微妙過ぎたのか、よく分かりませんね」

「単純な話、両方でしたよ」


 やや引きつった表情で言うミナヅキに、グリゴリーはサラッと答える。それ以外にあり得ないと言わんばかりに。


「しかしながら、そのことをよく思わない者も少なくありませんでな。ロディオン様が武者修行の旅に出られたのは、そんなときでした」

「国王から無理やり放り出されたんですかね?」

「さぁ、そこまでは。その説が有力だと見なす人は、多いようですが」


 グリゴリーはカップに新しく熱いお茶を注ぎ、それをミナヅキに渡した。


「で、ロディオンが修行から帰ってきたら、今みたいな感じになっていたと?」

「えぇ。あの時は王都全体がひっくり返るような騒ぎでしたな。私もあの変わりようには驚いてしまいましたわい」


 その時のことを思い出したらしく、グリゴリーは懐かしそうに笑う。そしてミナヅキも熱いお茶を一口すすり、話を繋げていった。


「ロディオンのイケメン完璧王子様ってのは、そこから始まったんですね」

「そうなりますかな。しかしながら、それから少し後ですじゃ。突如そのリュドミラ嬢が、学院を去ったというウワサが流れてきたのは」


 カップを手に取るミナヅキの動きがピタッと止まる。ここでその展開が来るのかと思ったのだ。


「ロクでもないことをして罰せられたと言われておりますが、ワシにはどうにもそれが信じられませぬ。それに――」


 グリゴリーは窓から見える王宮に視線を向けた。


「今でこそ優しく人に振る舞っておられるロディオン王子ですが、果たして裏ではどのようなお顔をなされていることやら」


 表に出ている顔が全てではない。むしろ裏に潜む顔こそが真実である。

 グリゴリーもそれを懸念しているのだ。そしてそれは、ミナヅキも全面的に同意見ではあった。


「まぁ、人間なんて誰しも、そんなもんだとは思いますがね」


 空を仰ぎながら呟くように言うミナヅキ。彼の脳裏には自然と、今しがた別行動をしている知り合いの姿が、鮮明に浮かび上がっていた。



 ◇ ◇ ◇



 それからも色々たっぷりと話をしたミナヅキは、空がオレンジ色に染まる頃、グリゴリーの家を出た。

 お暇する際、自家菜園している薬草と魔力草の種を恵んでもらう。本当は育てて収穫した薬草と魔力草も土産に渡したかったそうなのだが、ミナヅキは荷物になるからと言って断ったのだった。

 この頂いた種で、自分も薬草を育ててみせます――そう約束した際、グリゴリーも元気な笑顔を見せてきた。

 ――今度また会えるよう、もう少し踏ん張って長生きしてみせますぞ!

 そう言いながら手を振る老人の姿は、まるで子供のように思えた。


「さーて、そろそろ中心街に戻らないとな」


 夕暮れの道をミナヅキは歩く。秋らしく冷たい風が吹きつけ、少し肌寒いと感じてフードを被る。それだけでもかなり温かいと感じられた。

 やがて丘を下りて中心街に続く裏路地に入る。所々夕日の差し込む暗い道を歩きながら、ミナヅキは気になっていたことを考え出した。


(グリゴリーさんの話していたことが全部本当だとしたら、今回の件と何か関係があるんじゃないか?)


 リュドミラが嵌められて、彼女の妹が元婚約者だったロディオンが正式に婚約。その直後あたりに、自分が連れ去られる事件が発生。

 この一連の流れが、どうにも一つに繋がっているような気がしてならない。


(王家の秘密――リュドミラを求めている理由が、そこにあるとしたら?)


 あくまで自身の推測に過ぎないが、的外れとも思えない。そんなことを考えながら歩いていると、目の前の分かれ道から、一人の男が姿を見せる。


「やぁ。探索は楽しかったかい?」

「ラトヴィッジ……」


 まるで待ち構えていたかのような登場であったが、もはやミナヅキは驚く素振りすら見せなかった。ラトヴィッジもそこはどうでも良かったらしく、特に気にする様子はない。


「とりあえず、色々と気になる情報は聞けたよ。知り合いもできたし」

「それはなによりだね。とりあえず近くに宿を取ったから、そこで話そう」

「あぁ。今日は歩き回って疲れたわ」


 そしてミナヅキとラトヴィッジは、二人並んで路地裏を歩き出す。ふとラトヴィッジが、実に嬉しそうな笑みをニヤリと浮かべ出した。


「こっちも色々と聞き出したよ。今回の件、粗方の答え合わせもできそうだ♪」

「ほぉ」


 前を向いたまま生返事をするミナヅキ。同時に心の中で思った。


(誰からはともかく、どうやって聞き出したのかについては、とりあえず聞かなくてもいいよな? 知らなくても別に良いと思うし……ちょっと怖いし)


 ――最後の理由が一番の本命であることは、もはや言うまでもないだろう。




お読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字につきましては、ページ一番下にある『誤字報告』にお願いします。

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