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駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ  作者: 壬黎ハルキ
第三章 追放令嬢リュドミラ
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第四十九話 はじめての後輩



「ふーん、新天地を目指して旅をしてる、ねぇ……」


 三人でデッキのテーブル席に座り、リュドミラから粗方の話を聞いた。頬杖をつきながら聞いていたミナヅキは、気になっていたことを尋ねてみる。


「リュドミラは、ロディオン王子に対して、あんま良い印象を抱いてないように思えるんだが?」

「……うん、そうだね。世間のありふれた反応とは、程遠いと思うよ」


 歯切れの悪い口ぶりでリュドミラは答える。


「何せ小さい頃から知っているからね。色々と思うところもあるってもんさ」

「へぇ、そんなもんか」


 ミナヅキも特に深く掘り下げようとはせず、早々に納得した。そして話を切り替えがてら、今のリュドミラの話を振り返ってみる。


「その新天地とやらに、フレッド王都を選んでみたって言ってたな。そんなに物珍しいモノがある国でもないと思うぞ?」

「確かにねぇ。大人しくて過ごしやすいとは思うけど」


 ミナヅキの言葉にアヤメも頷く。するとリュドミラは、二人に対してわずかに笑みを深めた。


「最近、他の大陸でも何かとウワサになってるよ。冒険者たちが活気づいて、かなり力をつけてきている国だってね。二人のことも話されてたよ。特に――」


 リュドミラはアヤメに視線を向ける。


「新人でいきなり大きな務めを果たした、将来有望の魔法剣士についてね。そして調合師さんのこともだよ」

「……その言い方だと、私のほうが大きな話題になってるみたいなんだけど?」


 アヤメの疑問は、実のところもっともではあった。有名になった順で言えば、明らかにミナヅキのほうが先であり、むしろアヤメの話題はまだまだ広がりが浅いとも言えている。

 むしろ、話題の調合師であるミナヅキの妻――そんな肩書きも相まって、アヤメの名が広まっているといっても過言ではなかったりするのだ。

 するとここでミナヅキは、ある可能性に辿り着く。


「魔法中心のコミュニティーなら、そうなっても不思議じゃないか」

「あ、そういうこと?」

「多分な」


 ミナヅキの一言にアヤメも気づいた。

 自分たちにとっての専門分野で活躍している人ならば、よりその情報は大きく飛び交い入ってくる。リュドミラからしても、魔法剣士という立場であれば、同じ魔法剣士であるアヤメの情報のほうが耳に飛び込んでくるというのも、自然なことなのかもしれない。

 それがミナヅキとアヤメがたどり着いた仮説なのだった。


「で、その話題となっているフレッド王都のギルドに、リュドミラも入りたいと思っていると?」

「そんな感じ。なかなか良さげなギルドが見つからなくって、これまでずっと放浪の旅をしてたんだけど、ようやく巡り会えたって感じがしたんだよね。魔法剣士としての地盤を築きたいっていう気持ちは、これでもかなり強いつもりだし」


 どこか遠くを見ているような口ぶりのリュドミラ。やはり彼女なりに、色々と思うところもあるのだろう。ミナヅキはなんとなくそう感じた。


「それから蒸し返すようで悪いんだけど……実はあたし、ミナヅキに対しての評価はちょっと疑ってたんだよね」

「そうなのか?」

「うん。写真で見た時は、正直冴えなくて頼りなさそうだなぁって思ってた」

「……悪かったな」


 リュドミラが言った瞬間、ミナヅキはやや拗ねた表情で顔を背ける。アヤメも笑みを浮かべてはいるが、その空気はどこかピリッとしていた。

 少なくともリュドミラはそう感じており、やや慌てた様子で手のひらを振りながら弁解を試みる。


「あ、もちろん今はそうじゃないよ? あたしの場合、ちょっと昔に男に対して色々とあったもんでさ。特に冴えない男に対しては、どうしても手厳しい評価を下しちゃうんだよね」

「そっか。まぁ、その気持ちは分からなくもないかも」


 アヤメからピリッとした空気が和らぎ、リュドミラは心の中で安堵する。そして更に感想を続けた。


「特に、今朝の港で見たあの姿。アレでかなり見直したよ」


 それを聞いた瞬間、ミナヅキとアヤメは二人揃って目をパチクリとさせた。


「港って……あぁ、スカウトマンの!」

「リュドミラも見てたの?」

「見てたよー、そりゃもう、バッチリとね♪」


 驚く二人にリュドミラはイタズラっぽく笑う。


「それにさっきも、ミナヅキが調合して冒険者の人を助けたんでしょ? なんかその人のリーダーらしき人が、あっちこっちで自慢してたからね」

「……マジか」


 急に恥ずかしさがこみ上げてきて、ミナヅキは思わず顔を伏せてしまう。そんな彼の様子に、アヤメは引きつった笑みを浮かべるのだった。


「まぁ、とにかくそれで、ミナヅキの評価を改めてくれたってことよね?」


 アヤメが強引に話を戻すと、リュドミラもそれに合わせて頷く。


「そーゆーこと。アヤメも活躍していたって聞いたし――先輩たちはホント、強くて有名な冒険者夫婦なんだなぁって思ったよ♪」

「おいおい、褒めても何も出ないぞ?」


 どこか呆れたように笑いながらミナヅキは言う。しかしアヤメが、何故かポカンと呆けた表情をしているのに気づいた。


「……アヤメ、どうかしたか?」

「えっ?」


 ミナヅキが問いかけてみると、アヤメは驚きの反応を示す。そして今度は、視線を右往左往させ始めた。


「あ、いや、その……聞き慣れない単語があったと言いますか……」

「聞き慣れない単語?」


 何故に敬語、という疑問を交えつつ、ミナヅキは思考を巡らせてみる。


(今のリュドミラの言葉に何かあったか? 冒険者夫婦なんて、前々から言われてきているし――あぁ!)


 ミナヅキは気づいた。言われてみれば確かにあったなと。


「お前、先輩って言葉にビックリしたんだな?」


 ビクッとさせるアヤメの反応に、図星かとミナヅキは思った。目の前に座るリュドミラもそれに気づいており、いたずらを思いついた小さな子供のような笑みを浮かべていた。


「そんなに狼狽えなくても大丈夫ですよ、セ・ン・パ・イ♪」

「はうぅっ――!」


 わざとらしい口調で語り掛けるリュドミラに対し、アヤメはこれ見よがしに頬を染めて恥ずかしがる。

 そんな妻の姿にミナヅキは、あからさまに呆れ果てた表情を浮かべていた。


「……そんなに緊張するほどのことか?」

「だ、だって! こっちに来てから先輩って呼ばれるの初めてなんだもん!」

「あー、そうかい」


 投げやりに返しつつ、ミナヅキは改めて知った気がした。アヤメにもこんな一面があったのかと。

 頬杖をついて小さなため息をついたところで、ミナヅキはふと思った。


「あー、ちょうどフレッドに行くんだから、アヤメがリュドミラに、色々と教えてやったらいいんじゃないか?」

「うえぇっ!?」


 まさかのミナヅキの勧めに、アヤメは素っ頓狂な声を上げてしまう。


「ホントに? 是非ともお願いしたいよ!」


 そしてリュドミラもまた、身を乗り出す勢いでミナヅキの言葉に乗っかる。キラキラとした期待を込めた視線に対し、アヤメの出せる答えは、もはや一つしか思い浮かばなかった。


「え、えと、その……わ、私でよろしければ……」

「はい! 改めてよろしくお願いします、アヤメ先輩っ♪」


 ずきゅーんっ――そんな擬音がアヤメの中で聞こえた気がした。同時に、自分の何かが貫かれたような感触も含めて。


「分かったわ! この『先輩』であるアヤメさんに万事お任せなさい!」


 勢いよく立ち上がり、胸を張りながら堂々と言い切るアヤメ。目を閉じて決まったと言わんばかりに笑みを浮かべるその姿は、完全に自分の世界に入り込んでいることが分かる。

 そんな彼女を見上げながら――


「見てのとおり、面白くて良いヤツで、実力も確かだ。そこは俺が保証するよ」

「えぇ。頼りにしてます」


 そんなやり取りが、ミナヅキとリュドミラの間で交わされるのだった。

 アヤメにもしっかりと聞こえるような音量だったのだが、本人は余韻に浸るばかりで気づく素振りも全くなかった。



 ◇ ◇ ◇



 翌朝、何事もなく定期船はフレッド王都に到着。その足でミナヅキとアヤメは、リュドミラを連れてギルドへ向かった。

 受付嬢のニーナにリュドミラを紹介し、無事にギルド登録が完了。晴れて彼女は魔法剣士としての第一歩を踏み出すこととなる。

 ここでミナヅキたちは二手に分かれた。

 ミナヅキはギルドマスターのソウイチに帰還報告をすると言って、そのままニーナに案内される形でギルドの奥へ。アヤメは早速、リュドミラの初クエストの付き添いに向かうのだった。


(同い年だけど、冒険者の経験値で言えば、私のほうが上。先輩として、恥ずかしくない行動をしなくっちゃね!)


 アヤメはこっそりと握り拳を作りつつ、改めて気合いを入れる。

 そしていざ王都の外に出て、リュドミラの初クエストが始まったのだが――


「あうぅ~」

「ア、アヤメさん、そんな気を落とさないで、ね?」


 約一時間が経過した頃、アヤメはすっかり気落ちしていた。

 やることなすこと何もかもが空回り。魔物を討伐しようとすれば、勢いづいて魔法で討伐部位ごと焼き尽くし、採取する薬草の品種を普通に間違えてしまい、新人のリュドミラに指摘されてしまう始末であった。

 むしろアヤメが手を出さないほうが、普通に上手くいくという結果に。

 それが余計にアヤメを落ち込ませる結果となっている。もしミナヅキがこの場にいれば、面倒なことになってるな――という一言をぶつけられているだろう。


「そういえば言ってなかったかもだけど、あたしって魔物討伐や薬草の採取は、これが初めてではないんだよね」

「……そうなの?」


 きょとんとした表情で振り向くアヤメに、リュドミラが頷く。


「あたしは元々、メドヴィー王国にいた時は魔法学院に通ってたんだ。そこでは魔法の実戦科目として、魔物討伐と薬草の採取が必修だったの。これでもそれなりの成績は出し続けていたからね。後輩たちの授業サポートもやったことがあるよ」


 淡々と語るリュドミラに対し、段々とアヤメの表情が強張る。そして手を小刻みに震わせながら、アヤメは恐る恐る言った。


「じゃ、じゃあ、今回受けたクエストなら……」

「ぶっちゃけ問題なく出来るかな。冒険者としてフィールドに出るのは、紛れもなく初めてだったから、それなりに緊張はしてたんだけどね」


 その言葉に、アヤメは完全に硬直した。返す言葉が見つからない、もはや立場すらないも同然ではないか――そんなことを考えていたその時、スライムとウサギ型の魔物が飛び出してくる。


「おっ、早速のお出ましだね。見ててねアヤメさん! あたしが口だけの女じゃないってところを証明するよ!」


 リュドミラが短剣を抜き、意気揚々と魔物に立ち向かう。

 あっという間に魔物を仕留め、難なく討伐部位の剥ぎ取りを済ませてしまう。そしておもむろに周囲を見渡していると――


「お、薬草発見♪」


 茂みの片隅に生えているのをリュドミラは見つけ、それを採取する。小さな手帳サイズの図鑑でチェックしてみると、確かにクエストに必要な薬草であった。


「ここに生えてるってことは……多分この奥にもう少しありそうかなっと」


 そしてリュドミラは茂みの奥へと姿を消し、数分後に戻ってきた。彼女の抱えている腕の中には、薬草の束がしっかりと積まれていた。

 口だけの女ではない――それをリュドミラは見事証明した。

 更に言えば、アヤメがいなくとも問題なくクエストをこなせていたことも、立派に証明されてしまった瞬間でもあった。


「なんか私……余計なことしかしてなかったわね。先輩失格だわ……」


 体育座りをして落ち込むアヤメ。そんな彼女の姿に、リュドミラは何かを思ったらしく、小さな笑みを浮かべながら隣に座った。


「思い出すなぁ。あたしも前に、アヤメさんと全く同じことをしたんだよね」


 それは、魔法学院で初めての後輩と接した時のことだった。

 やはりアヤメと同じく、先輩という肩書きに酔いしれ、必要以上に張り切ってしまった挙句、空回りして失敗してしまった。

 幸いその後すぐに持ち直し、なんとか事なきを得たのだが、今でもリュドミラの中では、恥ずかしくて大切な思い出として保管されている。


「今日のアヤメさんは、別に珍しい姿でもなんでもない。きっと先輩という立場になった人なら、誰もが経験する道だと思う。あたしも前に同じ思いをしたから、そこはよく分かるつもり。だからね――」


 リュドミラはしっかりと目を開き、強い笑顔をアヤメに向けた。


「もっと自信を持って! アヤメさんの強さが本物だってことを、後輩であるあたしに見せて欲しいの。あなたのウワサは前から聞いてて、同じ魔法剣士として、憧れを抱いていたのは確かだから」

「リュドミラ……」


 ここまでハッキリ言われるとは思わなかった。その衝撃に加えて、大いに励まされたのだという気持ちが、沸々と何かを込み上がらせる。

 もう、アヤメの表情に迷いはなかった。


「分かったわ。そこまで言われたら、落ち込んでなんかいられないわね!」

「その意気ですよ、先輩♪」


 リュドミラと二人で笑い合う。太陽に照らされる二つの笑顔は、とても眩しい以外の何物でもなかった。

 部位の剥ぎ取りと採取を終えた二人は、王都へ戻る道を歩き出す。


「ねぇ、もしかしてリュドミラは、魔法学院でかなりの優等生だったのかしら?」


 その途中、アヤメは気になっていることを、質問してみることにした。


「さっきの剥ぎ取りや採取を見る限り、明らかにそこらへんの新人よりも、レベルが高い感じだったわ。魔法学院の生徒全員が、リュドミラと同じようにできるとは到底思えない」


 それだけ言ってアヤメはリュドミラをジッと見つめる。当たっているかしら、という無言の問いかけを込めて。

 リュドミラもそれを察したようではあるが――


「まぁ……それなりに、とだけ答えておこうかな?」


 視線を右往左往させながら、歯切れの悪い口調でそう答えた。あまり都合の良い質問ではなかったらしいとアヤメも察し、これ以上は聞かないでおこうと引き下がることに決める。


「それはそれとして、やっぱりリュドミラの腕は本物だわ。うかうかしていたら、あっという間に追い越されてしまうわね」


 話題を逸らすように変えながらアヤメが言う。もっともこれはこれで、心の底から思っている気持ちでもあった。

 リュドミラの経験値を甘く見てはいけない。それが今回、アヤメなりに感じた結論なのだった。

 しかし――


「もう、いきなり弱気にならないでよ。アヤメさんらしくもないなぁ」


 そんなアヤメの言葉に対し、リュドミラは明るい表情で言った。


「確かにあたしには、魔法学院での経験はあるかもしれない。でも本当の意味での実践経験の差は、明らかにアヤメさんのほうが上。学院での実践は、明らかに用意された訓練でしかなかったからさ」


 青空を見上げながらリュドミラは淡々と語る。その口調からして、本気でそう思って言っているのだとアヤメは感じ取れた。


「それこそアヤメさんを本気で追い越そうとするんなら、短期間でアヤメさん以上の経験を一気に乗り越えない限り不可能。アヤメさんだってサボるつもりは一切ないんでしょうから、尚更厳し過ぎる道のりだと思う」

「……それだけ考えられるのも、一つの実力じゃないかしらね?」


 若干引いた様子を見せるアヤメ。やはり彼女は、学院でもトップクラスの成績だったんじゃないかと、そう思えてならない。

 するとリュドミラは、ニッと笑みを深めつつ振り向いた。


「まぁ、だからと言って、追いつき追い越すつもりでもいるけどね。こう見えて結構しつこいんだよ、あたしってば♪」


 その笑顔はとても無邪気で明るかった。そしてその奥に秘める本気さは、果たしてどれほどのレベルなのだろうか。

 アヤメも穏やかな笑みを浮かべつつ、しっかりと力強く頷いた。


「――えぇ、望むところだわ。絶対に負けないわよ、後輩さん」

「こちらこそ。必ず追い越してみせますよ、先輩!」


 アヤメとリュドミラはガッチリと握手を交わす。そして再び、二人は並んで王都への道を歩き出した。

 とても和気あいあいと語り合う。互いに冒険者生活と魔法学院生活を、まるで昔からの関係の如く楽しそうな表情で話していた。

 もはやそれは、先輩後輩という上下関係などではなかった。


 ――ライバルという名の友。

 二人を表す言葉としては、恐らくこれが一番正しいのかもしれない。




お読みいただきありがとうございます。

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