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駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ  作者: 壬黎ハルキ
第二章 幽霊少女ミリィ
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第四十三話 アクシデント発生!



「こりゃあ、最悪の事態になってきたな」


 山のような黒い影を見上げながら、ミナヅキが呟いた。


「ティーダとゼラの言ってたことが本当だったってのは分かったけど……正直この形で知りたくはなかったぞ」

「同感ね」


 アヤメもため息交じりに頷く。ちなみに心の中に余裕はなく、あくまで少しでも落ち着かせるために、息を整えたと言ったほうが正しい。

 モーゼスや二匹の魔物たちも同じ様子であり、緊迫した表情を浮かべている。

 そんな中、ヴィンフリートは未だ、誇らしげに両手を広げながら、大きな声で高らかに笑い続けていた。


「ハーッハッハッハッ! 最高だ、最高に気分が良いぞ! ハッハッハッ!」


 完全に普段のキャラが崩壊しており、その狂ったような笑い声こそが、普段の彼なのではないかとすら思えてくる。

 モーゼスは震える手をギュッと握り締め、ヴィンフリートに大声を上げる。


「正気ですか!? あんな魔物が解き放たれたら、町もただでは済みませんぞ」

「さぁ、それはどうかな。召喚された魔物は召喚者に従う。キサマとてその程度のことを知らんワケでもあるまい?」


 ヴィンフリートは笑い声をピタリと止めつつ、見下した表情を浮かべてきた。


「そしてその召喚者からすれば、私は雇い主ということになる。多額の金を払っているのだから、それはもう絶対そのものだ。故に私の声は召喚者の声、つまりはそういうことなのだよ」

「――っ!」


 何も言い返せず、モーゼスは唇を噛む。

 つまり雇い主であるヴィンフリートも召喚者が指示すれば攻撃されないし、町を破壊されることもない。ただ単にターゲットを倒すだけに留められる。それでも多少なり町は混乱するだろうが、ヴィンフリートからすれば、小さな許容範囲でしかないのだった。

 少なくともミナヅキの目には、そのように見えていた。


「だからと言って、町の連中をビックリさせて良い理由にはならないだろ」

「可愛い娘を守れるとなれば、それくらいは安いモノだ。きっと町の皆も分かってくれることだろう」

「……そう言ってくると思ったよ」


 ある意味、どこまでも期待を裏切らないヴィンフリートの言葉に、ミナヅキは自然と脱力感を覚える。


(まぁ、そんなことよりも、アレをどうにかしないとだよな)


 ミナヅキは改めて、うごめく山のような黒い影を見上げる。ずしぃん、ずしぃんという音を立てながらその影は、間違いなくミナヅキたちに向けて歩みを進めているのだった。

 あと数分も経たぬうちに、この場は戦場と化すことだろう。


「ガルルゥッ!」

「ピィー!」


 ファイアーウルフとスライムが前に躍り出る。全く臆せず立ち向かう姿が、とても頼もしくて仕方がない。

 ミナヅキは小さく笑いつつ、アイテムボックスから小瓶を取り出す。


「アヤメ、今のうちにコイツを飲んでおけ」

「ん」


 アヤメがそれを受け取り、迷わず中身を飲み干した。スッキリとした甘さと爽快感が体中に広がり、やがて体の奥底から、二つの力が湧き出てくる。


「凄い……魔力と体力が一気に回復した感じ」

「ポーションとエーテルをミックスさせたようなもんだ。回復量はそれぞれ少し少なめだけどな。それよりも――」


 ミナヅキが視線を前方の黒い影に戻した瞬間――


「ブモオオオォォーーーッ!!」


 凄まじい咆哮が上げられ、ファイアーウルフとスライムは驚き戸惑う。そしてミナヅキたちもまた、あまりの声の大きさに身を硬直させてしまった。

 そして次第に、その姿が見えてくる。

 恐竜に似たような頭で二足歩行の魔物。その口は非常に大きく、剥き出しの歯は鋭く堅そうであった。もし噛みつかれでもしたら、そのまま容赦なく命ごとムシャムシャと喰らい尽くすことだろう。


「あれは、まさか……!」


 反応を見せるモーゼスに、ミナヅキが振り向く。


「何か知ってるんですか、モーゼスさん?」

「えぇ。個体の名前は存じ上げておりませんが、この大陸にはいない狂暴性の高い大型の魔物として知られていると、聞いたことがあります。少なくともこのフレッド王国では、まず見かけることはないハズなのですが……」

「それを召喚魔術で呼び出しちまったってことか」

「そういうことになるかと」


 ミナヅキの言葉にモーゼスが相槌を入れる。その瞬間、再び魔物が凄まじい咆哮を空に向かって上げた。


「問題は、あの魔物が召喚によって呼び出されたという点です」


 声による途轍もない衝撃波を耐えしのぎつつ、モーゼスが言う。


「そもそも魔物を召喚する条件としては、その魔物と出会っていることが必須。なおかつ自身の魔力に見合った魔物しか召喚されません」

「つまりあれを呼び出したヤツは、それだけ凄いってことですね?」


 アヤメがわずかな期待を添えて問いかけるが、モーゼスの表情は重々しい。


「……だと、良いのですが」

「例外があると?」


 ミナヅキの問いかけにモーゼスは無言で頷く。


「召喚魔術の失敗により、自身の魔力を遥かに超える魔物が呼び出されてしまうことがあるそうです。その場合、召喚した者の魔力も一瞬にして失われることになるワケですから……」

「ほぼ確実に即死する?」

「えぇ。そして今回それが当てはまる場合、既に召喚した者がこの世にいない可能性が高いということを示しております」

「……普通にマズいだろ、それ」


 ドン引きした表情でツッコミを入れながら、ミナヅキは魔物を見上げる。


「ちなみに、ヴィンフリートさんが魔物を従える可能性は?」

「あり得ません。彼自身が召喚したというならば話は別ですが……私には、最悪の形で予想が当たっているようにしか思えませんね」


 淡々と答えるモーゼスに、質問をしたアヤメはですよねーと言わんばかりに、ガクッと肩を落とす。

 そこに――


「えぇ、そのとおりです。モーゼス様の予想は大正解と言えるでしょう」


 シュタッと、一人の人物がどこからともなく降りてきた。その人物にミナヅキは目を見開く。


「ゼラ!」

「申し訳ございません。阻止するべく見張っていたにもかかわらず、最悪の事態を招いてしまいました」


 ゼラはずっと、召喚魔術を扱う魔導師を追っていた。相手も秘密裏に動いていたため見つけるのに苦労はしたが、ようやく居所を突き止めた。

 しかしそこにいたのは、ヴィンフリートが取引をしていた者とは違う、明らかに未熟な腕前の魔術師であった。

 危なっかしさ全開で召喚魔術を使おうとしており、ゼラは途轍もなく嫌な予感がして止めようとした。しかしその瞬間、突如放たれた閃光弾によって目が数秒ほど潰されてしまい、視界が戻ったときには、もう召喚魔術が実行されていた。

 結果――召喚魔術は、最悪の形で失敗となってしまった。


「あの魔物を召喚した魔導師は、もう既に息絶えておりました。もはやあの魔物を従える術は、ないと見てよろしいでしょう」

「マジかよ……」


 ゼラの言葉に、ミナヅキは苛立ちを込めて呟く。その時、ヴィンフリートがゼラの存在に気づいた。


「おぉゼラよ、ちょうどいいところに現れてくれたな。ソイツらは全員、私の言うことを聞かぬ反逆者どもだ! 今すぐこの場でひっ捕らえろ!」


 胸を張り、自分の立場を噛み締めるかの如く、ヴィンフリートは誇らしげに言い放つ。それに対しゼラは、ただ振り返りながら無言を貫いていた。

 そして再び視線をミナヅキたちのほうへ戻し――


「皆さま、申し訳ございませんが、この場を頼みます。私はこのまま町に戻り、人々を安全な場所へ避難させなければなりません」


 神妙な表情で淡々と言いつつ、丁寧に頭を下げてくるのだった。

 ミナヅキとアヤメ、そしてヴィンフリートが思わず呆然としてしまう中、モーゼスだけはフッと小さく笑い、そして言った。


「お願いいたします。ゼラ殿の言葉ならば、町の方々も迅速に動くでしょう」

「皆さまもお気をつけて」


 ゼラも小さく頷き、そして動き出そうとしたその時だった。


「ゼラ! 何をしているのだ! この私の命令が聞こえなかったのか!?」


 ヴィンフリートが怒りで顔を真っ赤に染めながら叫ぶ。しかしゼラは、どこまでも冷静な様子で――


「申し訳ございませんが、今のヴィンフリート様のご命令には従えません」


 ハッキリとヴィンフリートを見据えながら、そう答えた。


「町の人々の命を最優先で守る――それが私の全うすべき責務です!」


 それだけ告げて、ゼラは町の方角へと飛び出していった。その軽やかな動きが、とてもカッコいいヒーローのようであると、ミナヅキとアヤメは思った。


「ブモオオオォォォーーーーッ!!」


 その時、再び魔物が咆哮を上げる。既に距離は目の前に来ていた。


「おっと、こっちもそれどころじゃなかったな」


 ミナヅキがそう言うと同時に、その場にいた全員も改めて身構える。


「さーてどうする? 結構ヤバい状況だと思うんだけど」

「このままじゃ町も壊滅しかねないし、私たちでどうにかするしかないでしょ」

「だよな」


 一歩ずつ近づいてくる大型の魔物を見上げながら、ミナヅキとアヤメは強気な笑みを浮かべていた。

 そして、目の前まで迫ってきていた大型の魔物は――


「ハッハッハッ、さぁ魔物よ! あの愚か者どもに鉄槌をくだ……ひやぁっ!」


 ――ずしぃん!

 数秒前までヴィンフリートがいた位置に、太い腕が地面に打ち込まれる。あと少し反応と動きが遅ければ、ヴィンフリートは今頃、無残極まりないぺしゃんこ姿となっていただろう。

 慌てて飛び跳ねたヴィンフリートは、そのまま四つん這いになった状態で戸惑いながら見上げる。


「な、何故私を狙う!? お前を呼んだのは私が雇ったヤツだぞっ!」

「だからさっきも言っただろ! アレを呼び出した魔導師は、もうとっくに死んじまってんだよ! いいからアンタもさっさと逃げろ!」


 慌てて逃げながらミナヅキが叫ぶ。しかしヴィンフリートは従わず、仇を見るような目でミナヅキを睨みつける。


「娘だけでなく、召喚した魔導師さえも誑かしたというのか!」

「人の話ちゃんと聞けよ! って、うわっ!」


 見当違いの言葉に苛立ちながらツッコみを入れていたそこに、魔物の腕が迫ってきており、ミナヅキは慌てて避ける。


(こりゃ逃げるだけでもキツいぞ……)


 目立たないように移動しながら、ミナヅキが状況を改めて観察する。

 ファイアーウルフが俊敏に移動しながら火炎を放つも、圧倒的に威力が足りてないせいか、魔物の手で軽く振り払われてしまう。スライムも不屈の闘志を持って体当たりを仕掛けているが、魔物は全く反応していない。そもそも攻撃されていることに気づいているかどうかも怪しいところだ。

 一方、アヤメが隙を見出してマジックブラストを打ち込むと、その攻撃は魔物に少なからず効いているようであった。

 反応するだけでなく、少しよろめいていたのだ。

 しかし胴体に命中するだけでは、些細なダメージにしかならなかったらしく、しかも咄嗟に放ったが故に、元々の威力よりもかなり小さい。

 それはアヤメも即座に感じたのだろう。マジックブラストから短剣による魔法剣の連撃に切り替え、手数での勝負に移行している。

 どうも魔物は魔法に弱いらしく、普通の剣技よりも魔法剣のほうが、明らかに効いている様子ではあった。しかし凄まじく大きな体であるが故に、アヤメ一人の攻撃量では、まだまだ仕留めるには足りない。

 このままでは間違いなく、アヤメのほうが先に体力が尽きてしまうだろう。


(やっぱり、アレを使った一撃必殺に賭けるしかないのか?)


 ミナヅキがそう思った瞬間、アヤメと視線が合う。

 彼女は強い目で頷いた。私も同じことを考えていたと、そう言わんばかりに。

 二人の決意が一つとなろうとした、その瞬間――


「ひっ! な、なんとかしろっ! この私をあのバケモノから守るのだっ!」


 情けない中年男性の声がそれを萎えさせる。ミナヅキとアヤメが揃って顔をしかめながら振り向くと、ヴィンフリートが立っては腰を抜かしを繰り返している姿が飛び込んできた。

 ――この姿を町の連中にも見せてやりたかった。

 戦いに全く関係ない部分で、二人の気持ちが見事一致した。


「おい! 私を無視するな! 私はこの町のギルドマスターなのだぞ!」


 ヴィンフリートは見苦しく叫び続けるが、当然の如くそれに応える者は、この場にはいなかった。もはや味方する者がこの場にいないことを、本人だけが全く理解していないのである。


「ひ、ひいぃ~っ!!」


 再び魔物の振り下ろした腕が、ヴィンフリートへと迫る。もはや腰を抜かして逃げられない状態となっていた。

 そこに――


「マジックブラスト!」


 アヤメの魔法が炸裂。腕に命中したことで攻撃が中断され、魔物の視線がアヤメのほうに向けられる。

 しかしそこをファイアーウルフとスライムの猛攻が仕掛けられ、完全にヴィンフリートから意識は外された。


「まぁ、黒幕だろうと見殺しにはできないからね……」


 魔物が視線を外している隙に、ミナヅキがエーテルを追加で渡した際、アヤメがボソリと呟いた言葉だった。

 そしてアヤメが再び戦いに舞い戻っていく中、肝心の助けた相手からは何の言葉もないことに気づく。ミナヅキがおかしいと思って振り向くと、青ざめた表情で完全に腰を抜かしているヴィンフリートの姿が飛び込んできた。


(もはや文句を言う気力すらもなくなったか)


 思わずミナヅキもため息をついたが、これはこれで好都合とも思った。うるさい声が聞こえなくなるのであれば、それに越したことはないと。


「マジックブラストおぉーーっ!!」


 アヤメの魔法が魔物に命中。さっきよりも威力が増しているように見えた。無理をしている様子もなく、段々と動きが軽やかになっている。


(このまま俺もサポートを続けていれば、勝機が見えてくるかもしれない!)


 ミナヅキは一筋の希望の光が見えたような気がした。しかし――


「グルルルルル――――ブモオオオオォォォーーーーッ!!」


 魔物は更に大きな咆哮を上げる。しかも更に動きが早くなっていた。どうやら怒りが頂点に達し、更に狂暴性を増したらしい。

 凄まじい突進を繰り出し、それはなんとか全員避けたのだが――


「ひゃあぁっ!?」


 ミリィが驚いて、思わず大きな声を上げてしまった。そしてその声に魔物がしっかりと反応し、ミリィに視線を落としている。


(あのデカブツ、ミリィのことが見えてるのか!)


 ミリィが驚いたことで見える状態になってしまっているのか、それともたまたま魔物も見えている対象に入っているのか。とにかく今のミリィが魔物のターゲットになっていることは確かであった。


「ブモオォーッ!」


 太い腕を素早く動かし、凄まじく大きな手がミリィに迫る。あまりの速さにミリィは即座に反応ができていなかった。

 その時――


「ミリィっ!!」


 ヴィンフリートがミリィの前に飛び出し、両手を広げた。

 そして次の瞬間、二人の姿が忽然と消えた。


「ぐわあああぁぁーーーっ!!」


 叫び声が上のほうから聞こえてきた。見上げてみると、握り締められている魔物の手の中に、ヴィンフリートとミリィの姿が。

 そしてそのまま――魔物の大きな口の中に放り込まれてしまうのだった。


「な……!」


 唖然とした表情で、ミナヅキが引きつった声を出す。ミリィが狙われてから、わずか五秒から十秒程度の出来事であった。




お読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字につきましては、ページ一番下にある『誤字報告』にお願いします。

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