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駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ  作者: 壬黎ハルキ
第二章 幽霊少女ミリィ
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第三十話 目を付けられたミナヅキたち



 翌朝――ミナヅキとアヤメは、ミリィに別れを告げ、屋敷を後にした。

 必ず私たちでペンダントをプレゼントする――夜明けの道を歩きながら、改めてアヤメが力強く誓う。その凄まじい意気込みに、ミナヅキは若干引いた様子で苦笑いをしていた。

 その気持ち自体は同意であったため、ミナヅキも頷いてはいたが。

 やがて二人は中心街に着く。数時間かけて歩いてきたが故に、既に人通りはかなり多くなっていた。

 そしてギルドの中もまた、既に冒険者たちの姿で賑わっていた。

 早い者勝ちであるクエスト選びに、パーティ内の準備を兼ねた打ち合わせをする姿は、クルーラのギルドでも同じであった。

 受付嬢に指名依頼の完了報告をしたいと声をかけ、二人はヴィンフリートの執務室に通される。


「やぁ、ミナヅキ君。無事に屋敷の調査を終えてきたようだな」

「とりあえずは。早速、報告してもいいですかね?」

「うむ」


 応接スペースのソファーにアヤメと並んで座り、ミナヅキは正面に座るヴィンフリートに、例の日誌を提示した。

 当然それを初めて見るヴィンフリートは、ミナヅキに尋ねる。


「それは?」

「屋敷の主だった、クリストファーという人が書いた日誌みたいです」

「なんと……そんなモノが残っていたのか!」


 ヴィンフリートは目を見開きながら、日誌を手に取り、中身を確認し出す。


「……確かにこれは彼の字だ。一体どこでこれを?」

「地下の小部屋です。そこに繋がる隠し階段を見つけましてね」

「なるほど。まだ調べるべき場所が残っていたということか。でかしたぞ」

「どうも」


 ヴィンフリートが興奮気味に称賛を送るも、ミナヅキはそれを軽く流し、一番伝えたい内容を思い浮かべた。


「それから、幽霊についてなんですが……」

「あぁ。それは勿論――」


 日誌に目を通しながら、ヴィンフリートが軽く頷く。その次の言葉をまるで期待していないと言わんばかりであったが、ミナヅキは構わず続ける。


「出会いました」

「そうか、出会ったか……なに?」


 ページをめくる手がピタッと止まり、ヴィンフリートは顔を上げる。声のトーンも完全に変わっており、地雷を踏んだようにすら思えてきた。


「え、あの……」


 アヤメが戸惑いながら何かを尋ねようとするが、ヴィンフリートは冷たい視線のまま口を開く。


「どうした? 早く報告の続きを話したまえ」


 完全に興奮が冷めており、今しがた称賛を送ってきた人物とは思えないほどの冷酷さを感じた。

 流石のミナヅキも少し驚きつつ、言われたとおり続きを話す。


「ですから俺たちは、あの屋敷でミリィと名乗る幽霊少女と出会ったんです」


 そこで起こったありのままを、包み隠さず明かした。彼女に最後の誕生日プレゼントを贈る――そんな約束をしたことも含めて。

 しかしながら、ヴィンフリートの表情は厳しいままであった。

 頷きもせず、ただジッと半目同然の表情で、ミナヅキとアヤメを見据える。居心地の悪さを覚えつつも、なんとか二人は話すだけ話したのだった。

 すると――


「キミたちは夢でも見ていたのだろうな。幽霊少女などいるワケがない」


 ヴィンフリートはハッキリとそう言ってきた。やれやれのポーズをしつつ、真っ向から否定する彼の姿に、流石のアヤメも言わずにはいられなかった。


「そんなことありませんっ! 確かにミリィはいました!」

「いたという証拠は何もないだろう? 言うだけならいくらでもできるからな」


 しかしヴィンフリートは、全くといって良いほど動じず――


「ありもしない妄想を並べるのも大概にしたまえ。私もヒマではないのだよ」


 遂には説教をしてくるのだった。アヤメは押し黙り、ミナヅキも言葉を返そうとしなかった。これはもう、何を言っても効果がないと思ったからだ。

 二人が何も言ってこないと判断したヴィンフリートは、小さなため息をつきつつ目を閉じながら口を開いた。


「ひとまずご苦労だった。この日誌は預かる。報酬は出しておくから、受付でそれを受け取ってくれ。そうしたら――」


 ヴィンフリートは間を置き、目を細く開けながら告げた。


「キミたちはさっさと自分たちの町へ帰りたまえ。私の気が変わらんうちにな」



 ◇ ◇ ◇



 活気づいている中心街を、ミナヅキとアヤメは歩いていた。誰が見ても浮かない表情をしており、かといって不機嫌とはまた違う、なんとも表現しがたい様子を見せている。

 ケンカでもしているのかと思いきや、並んでいる二人の距離は近い。そのまま手を繋いだり、腕を組んだりできるくらいだ。

 そしてその見立てどおり、アヤメが歩きながらミナヅキにピトッとくっつく。

 やっぱりケンカしてるワケじゃなかったんだ――と安心する者もいれば、なんだ違うのかよ――とガッカリする者もいる。

 当の本人たちは、全くもって気づくことはなかったが。


「どーいうことかしらね?」


 ミナヅキの腕を指でつんつんと突きながら、アヤメが呟き出した。


「ヴィンフリートさん、ミリィの存在を完全に否定してたわよ?」

「そうだな」


 前を向いたままミナヅキがけだるそうに言う。腕をつんつんと突かれていることに対しては、特に何の反応も示していない。


「明らかにミリィの名前を出した瞬間、顔つきが変わってたな。まるでその部分には触れてほしくない感じだった」

「絶対何かあるわね」

「あぁ」


 十年前の事件に関わりがあるのか、それとも別の何かがあるのか。どちらにせよ裏は深い――それがミナヅキの率直な感想であった。


「報酬もたくさんもらえたわね。一晩軽く調べただけなのに」

「明らかに色付けてもらった感あるよな。いや、むしろ警告とも言えるか……」


 それを聞いたアヤメが、ミナヅキのほうへと見上げる。


「これ以上、私たちに余計なことをするなってこと? 確かに気が変わらないうちにとは言われたけど……」

「考え過ぎであってくれれば、良いんだがねぇ」


 ミナヅキは苦笑しながら小さなため息をつく。


「まぁ、今の時点で考えてても仕方ない。とりあえず言えるのは、このまま大人しく帰るのが、一番安全かつ望ましい選択肢ってことなんだが……」

「私が今一番言いたいのは、約束を破る大人にはなりたくないってことよ」

「――だろうな」


 アヤメの頭にポンと手をのせながら、ミナヅキは笑う。


「じゃあまずは、この町の工房にでも行くか。ペンダント作りを依頼しなきゃならないからな」

「えぇ、急ぎましょう♪」


 明るい声で頷きつつ、アヤメの足取りが軽やかなモノとなる。しかしそこで、何かを思い出すと同時に立ち止まった。


「あ、でもペンダントのレシピって覚えてるの? もうあの日誌は、ヴィンフリートさんに提出しちゃったわよ?」

「大丈夫。それぐらいちゃんとメモってるよ」


 ミナヅキの答えに、アヤメは感心するかのように深く頷いた。


「流石ミナヅキ、抜かりないわね」

「こんなの冒険者の基本だよ。情報集めは職種に限らず、重要な要素だからな」

「……すみませんでした」


 アヤメは素直に謝る。言われてみればそのとおりだと思ったのだ。そういえば王都のギルドでも教わったっけと思い出しつつ。

 いくらミリィとの約束のことばかり考えていたとはいえ、これは流石によろしくないだろう――そう思ったアヤメは、両手で小さくガッツポーズのような仕草を取りつつ、気合いを入れるのだった。


「あ、でもその前に朝メシ食いたいな。宿屋のおばちゃんのところにも、顔出しといたほうが良いかも」


 ミナヅキが思い出したように腹を押さえながら言うと、アヤメが人差し指を立てながら笑顔を向ける。


「だったら、おばさんに頼んで、なんか作ってもらわない?」

「いいな、それ」


 ミナヅキも賛同し、二人は自分たちが泊っている宿屋へと戻っていった。

 腹が減っては戦はできぬ。一日に備えるべく、しっかりと力をつけておかなければならない――そんなことを考えながら。

 宿屋に戻り、おばちゃんこと女将に頼み込んで、遅い朝食を出してもらった。文句の一つも言わず、むしろ明るく豪快に笑いながら受けてもらい、ミナヅキとアヤメは良い人だなと心から思った。

 用意してもらった温かいパンとスープを堪能していると、チリンチリンというベルの音が聞こえる。宿屋に誰かが入ってきたのだ。

 お客さんが来たようだねと、女将が応対するべく表に向かう。

 そして数分後、女将は戻ってくるなり――


「悪いけど、それを食べ終わったら、この宿屋から出ていってもらうよ」


 ミナヅキとアヤメに、冷たい表情でそう言い放つのだった。そのいきなり過ぎる言葉に、二人は揃ってポカンと呆けてしまう。


「あの……俺たち、何か悪いことしましたかね?」


 ミナヅキが戸惑いながら尋ねる。すると女将は、言いにくそうに表情を歪めながらそっぽを向く。


「こっちの都合だよ。とにかく、早く出ていっておくれ!」


 女将は語尾を荒げながら、ミナヅキたちのテーブルに革袋を置き、そのまま食堂を出ていってしまった。

 ミナヅキが恐る恐る革袋の中身を見ると、そこには金銭が入っていた。

 数えてみると、前払いしていた宿賃の残りだと判明する。


「……ワケが分からないわね」


 革袋の金を見つめながら、アヤメが呆然とした表情で呟く。


「とりあえず、さっさと食ってここを出よう。どうにも嫌な予感がする」


 ミナヅキの言葉にアヤメは頷き、二人は残りの食事を平らげ、挨拶がてら一声かけて宿屋を出た。

 女将は見送りにすら出てこなかった。

 豪快で明るい人柄が、まるでウソのようにガラリと変わっていた。あからさまに何かがおかしい。そう思いながら二人は、町のガイドマップを開いて工房の場所を確認し、そこへ向かって歩き出す。

 しかしその道中、周囲の視線が妙に気になって仕方がなかった。


「ね、ねぇ……なんか私たち、見られてない?」

「見られてるな」

「さっきまでこんなことなかったわよね?」

「なかったな」


 どこまでも淡々と答えるミナヅキに、アヤメは狼狽えている自分が恥ずかしくなってきたことも踏まえて、ムスッとした表情を浮かべる。


「ちょっとぉ、なんでアンタはそんなに冷静でいられるのよ?」

「お前がオドオドしてくれてるおかげだよ。それで逆に落ち着けている」

「何よそれ……」


 納得できませんと言わんばかりに口を膨らませるアヤメだったが、それ以上何かを言うこともなかった。

 そうこうしているうちに、お目当ての工房が見えてきた。

 ペンダントを作れる鍛冶師か大工を探す。ここからは自分の領域だと、ミナヅキは意気込んでいた。

 しかし――


「あなた方を工房に入れるワケにはいきません」

「大人しくお引き取り願いましょうか」


 工房入口に立っている二人の兵士が、ミナヅキとアヤメをせき止めた。流石に意味が分からず、ミナヅキは顔をしかめながら兵士に尋ねる。


「何で俺たち入れないんでしょうかね?」


 しかしその問いに、兵士が答えることはなかった。


「もう一度だけ言います。あなた方を通すワケにはいきません」

「我々も手荒なことはしたくないので、どうかここは大人しくお引き取りを」


 表情を一切変えることなく、二人の兵士は淡々と告げる。ミナヅキとアヤメは顔を見合わせ、そのまま踵を返して立ち去った。

 これはもう何を言ってもムダだと、そう判断したのだ。

 いよいよもって、雲行きが怪しくなってきた。そう思いながら歩いていると、前から大柄な冒険者の男が歩いてきた。

 特に何事もなくすれ違おうとしたその時、男は口を開いた。


「悪いことは言わねぇ。さっさとこの町を出ちまいな」


 ボソッと、それでいてハッキリと告げてきた。ミナヅキとアヤメは思わず目を見開きながら立ち止まり、振り返る。

 すると男は前を向いたまま言葉を続けた。


「アンタたちは完全に目を付けられちまってる。だからこれ以上、風向きが悪くならねぇうちに、早く帰ったほうがいい」


 そしてそのまま立ち去っていった。まるで、自分も巻き込まれたくないから逃げると言わんばかりに。

 ミナヅキは改めて周囲を見渡してみる。チラホラと視線を向けてきていた。お世辞にも友好的とは言えない目で。


「とりあえず移動しよう。町中にはいないほうが良さそうだ」

「えぇ……」


 納得はできないが、ミナヅキの言うとおりだと思ったアヤメも、大人しく頷いて彼について歩く。

 二人はそのまま町外れにやってきた。

 流石に建物も人も殆どないこの場所では、注目される心配もない。


「さーて、これからどうするかな?」


 日陰となる大木の下に腰を下ろしたところで、ミナヅキは青空を見上げながらため息をつく。


「誰かが手を回してるのは明らかだ。恐らく犯人はヴィンフリートだろう」

「タイミング的にも、そうとしか考えられないわよね」


 アヤメも頬杖をつきながら頷く。


「ギルドマスターって、そんな凄い権限を持ってる存在だったかしら?」

「町にもよるな。少なくともこの町では、事実上の最高権力者だ」


 ミナヅキの答えに、アヤメは一つの疑問が浮かぶ。


「……町長さんっていなかったっけ?」

「いるよ。完全にお飾りだけど」

「うわぁ……」


 アヤメはゲンナリとした声を出す。よくあるパターンだと思ってはいたが、実際に聞いてみると、なんとも言えないえげつなさを感じてしまう。


「何にしても、この町で俺たちに味方するヤツは、もう殆どいなさそうだな」

「厄介なことになったわね」


 ミナヅキとアヤメは、二人揃って空を仰ぐ。


「まぁ最悪、必要な素材だけ集めて、あとは王都へ帰って作ってもらうっていう手もあるんだけどな」

「そうするしかないのかしらね……かなり手間かかるけど」


 日誌に目を通したミナヅキたちは、ペンダント作成に必要な素材の取れる場所も既に分かっている。それだけでもまだマシなほうだろう。少なくとも手詰まりではないのだから。


「しゃーない。こうなったら素材だけでも……ん?」


 ミナヅキが決断を下そうとしたその時、ゴロゴロと地を転がる重々しい音が聞こえてきた。

 その方角を向いてみると、台車を転がしながら歩いてくる人物がいた。

 ミナヅキはその人物に見覚えがあった。


「アヤメ、あのオッサン……」

「えっ?」


 ミナヅキに促され、アヤメも台車を引っ張る人物を見る。


「あのおじさん、確か昨日の……」

「だよな」


 確かに昨日会った初老の男性だった。相手もミナヅキたちに気づき、笑みを浮かべながら会釈する。

 そして台車を止め、男性は二人の元へ歩いてくる。


「やぁ、これはどうも。またお会いしましたね。その節は本当に助かりました」


 帽子を取りながら、初老の男性はゆっくりとお辞儀をした。


「そういえば、まだちゃんと名乗ってませんでしたね。私はモーゼス。この先にある小屋で、隠居鍛冶師をしております」

「俺は調合師のミナヅキです」

「魔法剣士のアヤメです。ミナヅキの妻です」


 二人の自己紹介――特にアヤメのを聞いたモーゼスは、軽く目を見開いた。


「なんとご夫婦でしたか。仲睦まじい様子でなによりですね」

「いえいえ♪」


 ニッコリと微笑むモーゼスに、アヤメも嬉しそうに笑う。しかしその直後、モーゼスは神妙な表情に切り替えるのだった。


「ところで御二方は……あのヴィンフリートに目を付けられたようですな?」


 それを聞いた瞬間、ミナヅキとアヤメは息を飲んだ。モーゼスでさえもその情報を仕入れているのかと驚いたのだ。

 ミナヅキはなんとか冷静を保ちつつ、頷きながら答える。


「まぁ、そうみたいですね。宿屋も追い出されちまいましたよ」

「左様ですか……もしよろしければ、私のところへ来てくだされ。ささやかながら御二方の力になりますぞ」


 モーゼスはそう言いながら、再びニッコリと微笑む。まさかの申し出に、二人は戸惑いを隠せなかった。


「どうする?」


 顔を近づけながら小声で問いかけるアヤメに、ミナヅキは肩をすくめる。


「どうするもこうするも、状況が状況だ。ここは乗っかってみるしかないだろ」

「……そうね。モーゼスさんからも敵意は感じないし」


 二人は頷き合い、代表してミナヅキが一歩前に出ながら、表情を引き締める。


「モーゼスさん、俺たちに力を貸してくれませんか?」

「えぇ。先日のお礼も兼ねて、喜んで協力させていただきますぞ」


 その言葉を待っていたと言わんばかりに、モーゼスは大きく頷くのだった。




お読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字につきましては、ページ一番下にある『誤字報告』にお願いします。

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