表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ  作者: 壬黎ハルキ
第二章 幽霊少女ミリィ
28/137

第二十八話 幽霊少女ミリィ



「こちらこそ。わたしはミリィ。十年前にこの屋敷で死んだ、五歳の幼女です」


 それを聞いた瞬間、やっぱり幽霊だったかという感想が、ミナヅキとアヤメの中で一致した。

 同時に少し意外でもあった。もっとおどろおどろしい姿かと思いきや、本当に普通の人間が半透明化しているだけなのだ。いきなりその場に出てきたときは確かに驚いたが、今はもう怖いという気持ちは全くない。

 それとは別に、ミナヅキはミリィに対して違和感を覚えていた。


(うーん……確かに見た目は、五歳の子供そのものなんだが……)


 どうにも子供を相手にしているようには感じられなかった。むしろ自分たちよりも同級生に近いレベルで、やや年下という程度。

 そう思ったミナヅキは、一つの考えに辿り着いた。


「なぁミリィ。もしかしてお前、中身は十五歳ぐらいだったりしないか?」

「え? どうしてそう思うの?」


 首を傾げるミリィに、ミナヅキは肩をすくめる。


「なんとなくな。死んだときは五歳でも、それから十年経ってるんだったら、その可能性もあるかと思ってよ」


 単に体が成長していないだけで、ずっと霊体のまま生き続けてきた。ミナヅキはそう解釈してみたのだ。

 見た目は子供、中身は大人――そんなフレーズを思い浮かべながら。


「へぇ、おにーさん凄い冷静だねぇ。なんかビックリ……」


 軽く目を見開くミリィ。どうやら素直に驚いているようであった。


「よくもまぁ、そんな冷静に分析できるわね」


 そしてアヤメは、どこか呆れた表情を見せている。それに対してミナヅキは苦笑を浮かべた。


「本当になんとなくさ。五歳の子供って感じがあんましなかったからな」

「でも、そこまで冷静に言ってきた人は、おにーさんが初めてだよ。他の人たちは驚いて騒いで、そのまま慌てて逃げていくのばっかりだったし」

「……でしょうね」


 ミリィの言葉にアヤメは重々しく同意する。そもそも幽霊を前にして、冷静に分析できる人間なんていない。そんな気持ちを込めながら。


「でも、そっちのおねーさんも、かなり度胸がある人だよね」

「え、何で?」


 ミリィからいきなりそう言われ、アヤメはポカンと呆けてしまう。


「いや、おねーさんもなんだかんだで、最初から堂々と家探してたよね? それにわたしの声を聞いても、全然逃げ出すことなんてなかったし」


 軽く呆れた様子を見せながらミリィは言った。


「今までこの家に来た人は、大抵ずっとビクビクしているか、調子に乗って家探しした挙句、ちょっと脅かしただけですぐ泣き叫んで逃げ出しちゃうか……大体そんな感じだったよ。でも殆どは、何もせずただわたしが姿を見せただけで、ビックリして逃げ出しちゃうっていうパターンだったね」

「あー……」


 アヤメは納得と言わんばかりに頷いた。何もなかったところにいきなり半透明の子が現れれば、そりゃそうなると。


「そんなのがずーっと続いていたところに、おにーさんたちが来たんだ。今回はホントにビックリさせられたよ」


 両手を広げながら笑顔でミリィがそう言うと、アヤメは苦笑いしながら手のひらを左右に振る。


「いや、普通に私たちもビックリしてるから。ねぇ、ミナヅキ?」

「まぁな。こうして幽霊と話せるなんて、流石に思ってもみなかったよ」


 率直な気持ちを述べたところで、ミナヅキはふと思った。


「てゆーかさ、そんなに普通に登場できるんだったら、他の皆に対しても脅かすようなマネとかしなければ良かったんじゃないか?」

「……うん、それはわたしも、ずーっと長いこと思ってきたよ」


 至極真っ当な意見ではあったが、ミリィの表情はとても重々しくなる。


「でも皆して驚くんだもん。最初からこの姿で堂々と出迎えても、半透明だ幽霊だって叫ばれるだけ……こっちだって好きで幽霊やってるんじゃないっての!」


 やや感情的になってミリィは叫ぶ。そりゃあ望んで幽霊になる人はいないだろうなと思いつつ、ミナヅキは尋ねてみることにした。


「何か未練でもあるのか? 十年も幽霊のままってのは相当なもんだろ?」

「そうよね……良かったら話してみてよ。力になれるかもしれないし」


 ミナヅキとアヤメの言葉に、ミリィは目を丸くする。まさかそんなことを聞かれるとは思わなかったと言わんばかりに。

 ミリィは二人を交互に見比べ、そして何を思ったのか、小さなため息をつく。


「まぁ、いっか……あるよ、それはもうわたし的にとびっきりのがね」


 両手を思いっきり広げながらミリィが言う。それを見たアヤメが、思わず可愛いと呟いたのは、ここだけの話である。



 ◇ ◇ ◇



 それは、ミリィが五歳の誕生日を迎える時のことであった。

 誕生日の朝、ミリィの両親が仕事で町を出た。誕生日プレゼントを用意して帰ってくる――父親がそう話していた。

 しかしその夕方、両親が亡くなったことが知らされた。

 運悪く狂暴化した魔物に馬車ごと襲われ、逃げる間もなかったらしい。執事とメイドがそう話しているのを、ミリィは盗み聞きした。

 まだ幼いミリィには黙っておこう――そう話し合っていた矢先に、本人は聞いてしまったのだった。

 ミリィは凄まじいショックを受けた。

 ――おとーさんとおかーさんがしんじゃったなんてウソだ!!

 当然ながら、それを信じることはできなかった。そしてミリィは動き出した。

 ――こうなったらじぶんでたしかめてやる!

 町の外へ行って、両親が元気に仕事をしている姿を確認すればいい。幼い子供ながらにそのようなことを考えたミリィは、屋敷を飛び出すべく、無我夢中で階段を降りていった。

 そこでミリィは躓いてしまい、階段から転げ落ちた。

 運悪く柱に頭を強くぶつけてしまい、大量の血を流した。気づいた執事やメイドが駆けつけた光景が、生前の最後の記憶だった。

 そして気がついたときには、ミリィは幽霊として、この屋敷に立っていた。

 どれくらいの時が経過したのか――既に屋敷は無人と化しており、何がどうなったのかも分からない。

 しかしミリィからしてみれば、そんなことはどうでも良かった。

 祝ってくれるはずだった誕生日はどうなるのか。父親はプレゼントを用意して帰ってくるって約束してくれたのに。

 その気持ちが膨れ上がり、今でもそれが収まることはない。


「……なるほどな」


 ミリィから粗方話を聞いたミナヅキは、腕を組みながらしみじみと頷いた。


「階段の柱にあった血の跡は、ミリィのだったってことか」

「出っ張りの部分で深く傷つけちゃったのね。痛かったでしょう?」


 切ない表情を浮かべるアヤメだったが、当のミリィはしれっとしていた。


「痛かったと思うけど、もう正直覚えてないよ。後からなんとなく知ったけど、メイドや爺やが気づいて来た時には、もう手遅れだったらしいから」

「なるほどなぁ……」


 流石に十年も経てば、覚えてないのも無理はない――そう思いつつ、ミナヅキは頭に浮かんだ疑問を口に出す。


「でも知ったって……どうやって?」

「この家に調査に来た人たちが、雑談してるのを聞いたの。あくまでウワサ話程度だったから、どこまで本当かは分からないけどね」


 窓のほうへ歩きながら、ミリィは語る。


「今でこそこうして普通に会話できてるけど、昔はそうじゃなかったんだ。この家に尋ねてきた人に声をかけても、誰も反応すらしてくれない。たまに反応があったとしても、わたしの姿が見えてないから、幽霊だと思って逃げられちゃう」

「もし俺たちがその時に来ていたとしたら、こうして話せてもいなかったと?」

「うん、そうかもしれない」


 ミナヅキの問いかけにミリィは頷く。確証は何もないが、どうにもそう思えて仕方がなかった。


「ちなみにどうしてかは分からないんだけど、わたしって普通にドアを開けることとかもできるんだよね。それで昔は散々人を驚かせちゃったんだけど……ほら」


 半透明のミリィが、実際に一人で窓を開ける。それを目の当たりにしたミナヅキとアヤメは、揃って目を見開いた。


「凄いな……これ、見えてないヤツらからしたら、勝手に窓が開いてるようにしか見えないんじゃないか?」

「正解。昔はそれで、たくさん驚かせちゃったんだよねぇ、これが」


 てへぺろ、みたく小さな舌を出すミリィ。その仕草を見たミナヅキは思わず脱力してしまい、アヤメは可愛いと思いながら表情を綻ばせる。


「だから今は、基本的に誰かが来てるときは、自分でドアとか開けないようにしてるんだ。かといってジッとしてるのもヒマだから、その人たちの後ろをついて歩くんだけどね」

「ってことは、俺たちの後も?」

「うん、しっかりくっついて歩いてたよ」


 サラリと答えるミリィに、ミナヅキは合点がいった。とある部屋で、アヤメの言葉に対していれられたツッコミは、ずっと傍にいたミリィが放ったのだと。


「いたんなら、声かけてくれても良かったんじゃないか?」

「だって信用できなかったんだもん」

「……だよなぁ」


 これもある程度予想していたことではあった。故にミナヅキは何も言い返せず、素直に認めるしかない。


「そろそろ話を元に戻しましょう。ミリィが幽霊になって十年経つけど、成仏できる兆しはないのかしら?」


 ずっと黙って聞いていたアヤメが、軽く手を挙げながら切り出した。それに対してミリィは首を左右に振る。


「それがぜーんぜん。むしろより根付く勢いにすら思えてくるよ」


 明るく務めるミリィだったが、そのテンションはすぐにガクッと下がった。なんとなくその原因を予想していたミナヅキは、それを口に出してみる。


「やっぱり、誕生日を台無しされたってのが、よっぽど大きかったのか?」

「うん……多分そうだと思う。それさえなんとかなれば、わたしもお空の上で待っているおとーさんに会えるハズなんだよね」

「ミリィのお父さんも、幽霊になっている可能性は?」


 わずかな希望を乗せてアヤメが問いかけるも、ミリィは力なく首を左右に振る。


「多分ないかな。この十年ずっと探してみたけど、いる気配すら全くないし」

「そっか……」


 アヤメも肩を落とすが、すぐに顔を上げ、力強い表情をミナヅキに向ける。


「ねぇ、ミナヅキ。私たちでミリィの誕生日をやり直してあげない?」


 まさかの言葉にミリィは目を見開いた。ミナヅキも似たような反応を示しつつ、戸惑い気味に口を開く。


「別に良いけど、何をどうすりゃいいんだ? でっかいケーキとご馳走作って、賑やかなパーティーでもするのか?」

「それはそれで良さそうだと思うけど、一番効果的なのは、誕生日プレゼントをあげることだと思うのよね」

「親父さんから貰えなかったっていうアレか……」


 確かにそれは良さそうだ――ミナヅキがそう思いながらミリィを見ると、どことなく浮かない感じの笑みを浮かべていた。


「気持ちは嬉しいけど無理だよ。だってどんなプレゼントかも分からないし。それこそお空の上に行って、おとーさんに直接聞かない限りはね」


 だからわたしも成仏することは、永久にできないのかもしれない――ミリィは自虐的にそう呟いた。

 そんなことは、と言いたいところではあるが、実際そのとおりかもしれないという納得感も、二人の中にはあった。


「親父さんは、何か情報を残してたりしてないのかな?」


 藁にもすがる思いで、ミナヅキがそう問いかけてみる。しかしミリィの表情は、依然として曇ったままであった。


「これも後で知ったことなんだけど、わたしとおとーさんたちが死んだ直後、屋敷の調査にたくさんの人が押し寄せてきたらしいんだ。それであっという間に調べ尽くしていったんだって。たくさんの本とかも根こそぎ持ち出してね」

「それで本棚に本が一冊もなかったのか」


 納得しながら言うミナヅキに、ミリィも軽く頷く。


「うん。もっともこの部屋の絵本は、何故か残されたままなんだけどね。まぁ、わたしとしては、全然どうでもいい話だけど」


 肩をすくめるミリィ。その様子からして、本当に心の底からそう思っていることが見て取れる。


「とにかく、おとーさんがどんなプレゼントをくれるのかは、ホントに今でも全く分からないままなんだ。二人の気持ちは嬉しいけど、こればかりは……」

「そっか」


 アヤメは納得しつつ落胆する。手がかりが全くない以上、もはや打つ手がない。そう思っていた時だった。


「いや、諦めるのは早いぞ。まだ調べてないところもあるしな」


 ミナヅキがハッキリとそう言った。その表情はとても強気であり、可能性があるという確信を得ているかのようであった。

 流石にどうしてそんな表情ができるのかが分からず、アヤメは狼狽える。


「調べてないって……もう部屋は全部見たわよ?」

「あぁ、部屋の中はな」


 強調しながらミナヅキは言う。やはりその表情はどこか自身に満ち溢れている気がする。そう思いながらミリィはミナヅキを見上げた。


「……何か気になるところでもあるの?」

「まぁね。ちょっと今から、そこを見に行こうぜ」


 そう言ってミナヅキは部屋を出ようとする。アヤメとミリィは疑問が残るまま顔を見合わせ、そして彼の後に続いた。




お読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字につきましては、ページ一番下にある『誤字報告』にお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ