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駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ  作者: 壬黎ハルキ
第一章 異世界スローライフ開始
24/137

第二十四話 これが二人のスローライフ

今回のお話で、第一章のラストとなります。



 ゴリゴリゴリゴリ――――

 小さな鉢の中で、薬草のすり潰される音が室内に響き渡る。

 ここは、ラステカの町にあるミナヅキの家。そこに備え付けてある調合場だ。

 王都の工房に比べれば決して広くはない部屋。各種素材と調合器具、調合レシピや素材について書かれている資料。それらが更に部屋を狭くさせているが、部屋の主は工房以上に居心地が良さそうであった。


「フンフンフ~ン♪」


 無意識に鼻歌を歌いながら、リズミカルにゴリゴリとすり鉢を動かす。そして中身がペースト状になったところで、用意していた水と混ぜ合わせ、数種類の粉やら液体やらを更に入れる。

 いつものポーションの調合であった。

 工房に比べて他の人の目がない分、のびのびと気ままに作業ができる。ミナヅキはまさに、最高の時間を味わっていたのだった。

 ――コンコン。

 そこに部屋をノックする音が聞こえる。


「失礼、今いいかしら? お茶を持ってきたんだけど、休憩にしない?」


 アヤメがドアを開けて入ってきた。ミナヅキが振り向きながら返事をする。


「お、さんきゅ。待ってろ。ちょっと片付ける」


 ミナヅキが立ち上がり、テーブルの上に乱雑していた資料などを手早く片付けていく。そんな彼の様子に苦笑しながら、アヤメはテーブルにそれを置いた。


「……あ、それ」

「えへへー、気づいた?」


 ミナヅキの軽く驚いた反応に、してやったりと言わんばかりに笑いながら、アヤメがテーブルに置いた一式を見下ろす。


「日本茶セット。ソウイチさんからもらったのよ」

「そうだったのか」


 ミナヅキは軽く呆然としながら、お盆に揃えられているモノを見る。

 二つの湯呑みに急須、そしてほうじ茶と記載された茶筒。たったそれだけで、異世界の調合場が一気に日本らしくなった気がした。


「あれ……ってことは、ソウイチさんの正体も?」

「聞いたわよ。ご本人からしっかりとね」


 急須で熱いほうじ茶を湯呑みに注ぎながら、アヤメは言った。


「まさか王都のギルドマスターが、私たちと同じ日本人だったとはね。聞かされたときは驚いたわよ。アンタからも教えてくれなかったし」


 そのややトゲのある口調に、ミナヅキはようやく、アヤメに話していなかったことを思い出す。


「あー、その、ゴメン。すっかり忘れてた」

「別に良いけどね。アンタの言ったことも分かった気がしたわ。私たち以外にも、地球から来た人がいるってことがね」


 いつもの口調に戻しつつ、アヤメはミナヅキに茶が入った湯呑みを渡す。そして改めて、大分散らかっている調合場を見渡してみた。


「それはそうと、アンタってヒマさえあればここにいるわよね?」

「まぁ、そのためにこの部屋作ったんだしな。そのうち改装とかしてみたいし」


 どこかワクワクした様子で現在の調合室を見渡すミナヅキに、アヤメはやや引きつった表情を浮かべる。


「……今のままでも十分じゃないの?」

「もっとでっかい調合器具とか置いてみたいんだ」

「あぁ、そう」


 もう好きにして、と言わんばかりにアヤメは投げやりな態度を取る。それに気づくことなく、ミナヅキは悩ましげな表情で語る。


「考えてみたら王都の工房も、調合場だけかなり地味だからな。ベアトリスの錬金場所でさえ、あんなでっかい錬金釜置いてるってのに……」


 熱いほうじ茶を一口すすりながら聞いていたアヤメが、出てきた知り合いの名前に反応する。


「ベアトリスさんで思い出したけど、緊急クエストが終わって以来、一気に錬金の依頼が増えたらしいわよ」

「あぁ、俺もそれ聞いたわ。イメチェンの効果って凄いよな」

「本人曰く、お風呂に入って着替えただけらしいけどね」


 実際ベアトリスは、確かにそう言っていた。しかしアヤメは、やはり同じ女性として、どうにも信じられないでいた。

 そう思っている女性冒険者を集めて、ベアトリスとともに大浴場へ皆で入り、実際にどんなモノかを確かめたことがあった。結果はまさにベアトリスが言ったとおりであり、余計に納得がいかないと騒ぎ出したのは、ここだけの話である。


「リゼッタとアヤメで、ベアトリスに似合う髪形を新しく作ったんだっけか?」

「うん。最初は髪の毛整えたりするのをメンドくさがってたけど、仕事が増えてからは保つようにしてるらしいわよ」

「そうなのか。そりゃまた随分と大きな変化だな」

「あくまで渋々ながらっぽいけどね。やっぱり落ち着かないって嘆いてたし」

「ハハッ、アイツらしいな」


 ――もしかしたらここ数日で、一番急激に変わった人物かもしれない。

 ミナヅキは冗談抜きで、そう思っていた。

 実はスタイル抜群の美人だということが明らかになって以来、ベアトリスは男性から壮絶な人気を獲得していた。しかもその急上昇は、留まることを知らない勢いであった。

 ベアトリス本人は、嬉しがるどころか恥ずかしがっていた。しかも落ち着かないという理由で、着飾った姿でモジモジする。

 それが余計に男性陣をメロメロにしてしまっていた。


「こないだ王都へ行った時も、冒険者の男性から口説かれてるのを見たわ。それで助けようとしたんだけど……」

「けど?」

「その前に彼女が爆弾を使ったのよ。それで相手は怖くなって逃げちゃったわ」


 それだけ聞くと過激ではあるが、ミナヅキが疑問に思ったのは、彼女が爆弾を使った部分ではなかった。


「……ベアトリスのキャラ、あくまで変わったのは外見だけであって、別に中身は全くと言って良いほど変わってないハズだよな?」

「えぇ、全く変わってないわね」

「もしかしてソイツは、ベアトリスの存在そのものを知らなかったのか?」

「ううん。イメチェンと同時に、性格も変わったと思ってたみたい」

「何だよそれ……」


 そう簡単に性格が変わってたまるかと、ミナヅキは思わず苦笑してしまう。


「けどまぁ、工房の連中も似たようなもんかなぁ……ちょっと前までは見向きもしてなかったくせに、あれから狙おうとしてるヤツらが増えたのなんのって」

「ホント、男って単純だと思うわ。デュークさんは流石に懲りてるっぽいけど」

「そういやガチで拒絶されたんだっけか」


 あれからデュークは、時間を見つけて正式にベアトリスに謝罪をした。しかし前々から苦手意識があったらしく、関係を築き上げるのは難しいと、本人も潔く判断していた。

 その代わり、彼はよく工房に出入りしていることもあって、ベアトリスと話すための立会人の役割を担うことが増えた。

 ちなみにそれは、あくまで仕事の一環としてやっているとのこと。

 しっかり立会料をもらっており、他のパーティから情報を聞き出せることも多くなったそうで、なかなか良い感じだと本人は嬉しそうであった。


「てゆーか、モテモテなのはアヤメもだろ? 今や完全に、ギルドで期待の新人と呼ばれてるじゃないか」


 ミナヅキがからかい気味に言うと、アヤメが小さなため息をついた。


「まぁ、確かにギルドで声をかけられることは増えたかもねぇ……」


 そうなったキッカケもまた、先日の緊急クエストであった。

 アヤメの華麗な活躍が、冒険者ネットワークで一気に広がっていき、彼女を直接指名するクエストもたくさん出てきたのだ。

 クエストを受ける際の状況によっては、冒険者が臨時の即席パーティを組んで挑むことも多い。その場合にアヤメが真っ先に候補としてあげられるのは、もはや当たり前と化していた。

 冷静に状況を分析しつつ、魔法による遠距離射撃と、短剣や魔法剣による接近戦を使い分けられる。コミュニケーション能力も高いほうで、依頼主との会話も困ることがない。

 更になんと言っても、彼女は美人でスタイルが良い。

 おしとやかなお嬢様に見えて、実はかなりの行動派で強気な表情が目立つ。それが余計に男女問わず、人を惹きつける。

 ほんの一部で悲しむ声があるとすれば、彼女が既婚者という点だろうか。

 それでも構わず狙おうとする男性冒険者の姿もあるのだが、その度にアヤメは軽やかに断りの言葉を入れてきた。中には無理やり迫ろうとする者もいたが、その度に力と魔法を駆使して、容赦なく叩きのめしている。

 そこでまた、強さと凛々しさが強調されることとなり、ますます彼女に対する人気が上昇することとなるのだった。

 もっともアヤメからすれば、全く気にも留めていない事実でもあるのだが。


「まぁ、でもおかげで、ラトヴィッジやジョセフのことは、もう完全に吹き飛んじまった感じだよ。そういう意味では良かったかもな」


 少しだけ声のトーンを落としながら、ミナヅキが湯呑みを差し出す。アヤメがそれを受け取り、ほうじ茶のお代わりを淹れながら問いかける。


「彼らの真相は伏せてあるのよね?」

「あぁ。表向き、不慮の事故で命を落とした、ってことになってる」


 ラトヴィッジの裏には、大きな何かが潜んでいる。流石にそれを公にするワケにはいかなかった。

 故に今回の真相を知る者は、ごく限られた者のみとなっている。

 少なくともソウイチとフィリーネ、ミナヅキとアヤメの四人は該当者だ。

 最初はアヤメにも伏せておくことも考えたが、状況を考えると、話しておいたほうが得策だと判断された。いつかどこかで彼と再会した時のことを考えれば、真相を知っていたほうが後々面倒にならずに済む。

 そう結論付けられ、ミナヅキの口から全てを明かしたのだった。


「念のため言っておくけど……」

「ちゃんと周りには伏せておくわよ。それぐらいわきまえてるから安心なさい」

「なら良かった」


 ミナヅキが小さく笑いながら、新しく淹れられたほうじ茶を受け取る。ここでアヤメが、何かを思い出したような反応を示した。


「そういえば、アンタがデュークさんにあげたエリクサーもどきだけど……」

「んー? あぁ、俺が間違えて渡したアレか」

「もし、同じのをもう一度作れって言われたら作れるのかしら?」

「無理だろうな」


 ほうじ茶を一口飲みながら、ミナヅキは実にアッサリと即答した。


「あのエリクサーもどきは、本当にたまたまできただけだよ。前に上質ポーションと万能薬を混ぜたら、一本だけ作れたんだ。それ以降、同じやり方でいくらやってもできなかった」

「まさに奇跡だったってことね」

「そーゆーことになるかな」


 ミナヅキは残っていたほうじ茶を飲み干した。


「あれの効果も、エリクサーの劣化版そのものだからな。傷や体の異常――それこそ呪いも治すことはできるが、即効性がまるでない。気力や体力が化け物レベルなデュークだったからこそ、なんとか助かったようなもんさ」


 その話を聞いたアヤメは目を丸くする。


「……そんなにあの人、普通じゃないの?」

「むしろ普通じゃないからこそ、高ランクになれたらしいよ」


 サラッと返すミナヅキの物言いに、アヤメは妙な説得力を感じた。

 よくよく考えてみれば、世の中で凄いと言われている人は、大抵普通じゃないような気がする。

 そう思ったアヤメは、ふと自分たちに対して少し考えてみた。


「普通じゃないと言えば、私たちも大概そうよね」

「そうか?」

「そうよ。普通は異世界と地球を隠れて行き来しないし、駆け落ちして異世界に逃げてくることもないんだから」

「……言われてみりゃ、そうだな」


 今度はミナヅキが、アヤメの言葉に妙な説得力を感じる番であった。

 同時に改めて駆け落ちして来たことを思い出す。あまりにもアヤメがこの世界に馴染んでいるから、今の今まですっかり忘れていたのだった。


(こっちに来たばかりの頃は、清々してる感じだったけど……)


 果たして今の気持ちはどうなのだろうか。ふと気になったミナヅキは、神妙な表情でアヤメに尋ねる。


「駆け落ちしたこと、後悔してるか?」

「ううん、してないわ」


 アヤメは迷いなくそう答えた。


「確かに思うところもあったけど、ずっと好きだった人と一緒にいられてるから、後悔なんてしてないわよ」


 ニコッと笑うアヤメに対し、まるで初めて事実を知ったかのように、ミナヅキは表情をポカンとさせる。


「……ずっと好きだったのか?」

「そーよ。まぁ私も、それに気づいたのはこっちに来てからだけどね」


 アヤメの反応もアッサリしたモノだった。ミナヅキならこんな感じだろうと、粗方予想していたためである。


「こないだの緊急クエストは、ホント寂しかったわ。アンタには私が戦ってる姿を見ていてほしかった。これからもずっとね」


 湯呑みを置き、アヤメはミナヅキに甘えるようにしなだれかかる。そんな彼女にミナヅキは、少々戸惑いつつ思ったことを言う。


「お前、俺のこと好き過ぎだろ」

「好き過ぎじゃなかったら、そもそも私の全部をあげてなんかいないわよ」

「……そりゃそーね」


 何も言い返せず、そのままミナヅキも口を閉じる。

 どことなく甘い空気が流れ、それが妙に心地いいと感じていたその時――


「いやぁ、ラブラブで良いことだねぇ~♪」

『うわあぁっ!?』


 突然現れた第三者に、ミナヅキとアヤメは驚いて飛び退く。そこにはこの世界の神様である、見た目は小学生ぐらいの男の子が呑気そうに笑っていた。


「ユ、ユリス……お前いつからそこに?」

「駆け落ちしたこと、後悔してるか――ってあたりからだよ」

「結構ガッツリ聞いてたわね……」


 ケロッとした様子で答えるユリスに、アヤメは引きつった表情を浮かべる。驚きが勝ってしまい、恥じらいの気持ちは吹き飛んでいた。


「それで? なんか俺たちに用事があって現れたのか?」


 ため息交じりにミナヅキが尋ねると、ユリスが首を左右に振る。


「いや、世界回りがてら近くまで来たから、ちょっと立ち寄ってみただけだよ」

「……まるで会社の外回りみたいな言い方ね」

「似たようなモノさ。僕たち神様も、ただ見ているだけじゃないからね」


 ユリスの言葉にアヤメが首を傾げる。


「神様ってユリス一人だけじゃないの?」

「うん。結構いっぱいいるよ。持ち回り交代でキミたちを見守っているのさ」

「今度は警備員みたいな言い方だな」

「ハハッ、あながち的外れとも言い切れないかな」


 ユリスは明るく言いながら、調合場の出口に向かって歩き出す。


「まぁでも、二人がこの世界を楽しんでいるようで、なによりだよ。また近いうちに遊びに来るから、よろしくねー♪」


 告げるだけ告げて、ユリスは調合場を後にする。


「お、おいユリス、ちょっと待てって!」


 ミナヅキが慌てて後を追うように扉を開けるが、もう既にユリスは姿を消してしまっていた。

 呆然としながら廊下を見渡していると――


「おーい、ミナヅキーっ! ミナヅキとアヤメはおるかーっ!?」


 どこぞのよく知るお姫様の声が聞こえてきた。二人は顔を見合わせ、思わず笑みを浮かべてしまう。


「またアイツはアポもなしに……」

「フィリーネらしいと言えばらしいんじゃないかしら?」

「だな。とりあえず騒ぎ出す前に出るか」

「そうね」


 アヤメが飲み終わった湯呑みを乗せたお盆を持ち、ミナヅキが開けたドアを支えて彼女を先に通す。二人はそのまま、調合場を後にするのだった。




いつもお読みいただきありがとうございます。

今回で第一章が終了し、次回からは第二章を開始します。


都合により、一週間ほど更新をお休みします。

次回の更新日は、2月8日(金)の19:00を予定しています。

また、話のストックの都合上、次回からは隔日更新とさせていただきます。

だいたい週三回ぐらいでの更新にしたいと思っています。

これからもよろしくお願いします。


また、誤字脱字の報告もありがとうございます。

誤字・脱字につきましては、ページ一番下にある『誤字報告』にお願いします。

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