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駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ  作者: 壬黎ハルキ
第一章 異世界スローライフ開始
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第二十三話 友よ、深く眠れ



 緊急クエストが行われた夜から数日後――アヤメは診療所にいるヴァネッサの元を訪れていた。

 ベッドの上で起き上がっている彼女の姿に安堵しつつ、アヤメは話しかける。


「こんにちはヴァネッサさん、調子はどうかしら?」

「あら、アヤメさん。来てくれたのね。えぇ、体調は問題ないわ」


 ヴァネッサは自然な形でニコッと笑いながら出迎える。

 その心から嬉しそうな表情は、とても美しく暖かさを感じる。以前のような人を見下していた冷たさとは別人のようであった。

 アヤメもここ数日それを見ていながらも、未だ慣れない様子であり――


「なんかやっぱり戸惑うなぁ。呪いで性格まで変わっちゃった感じがするもの」

「も、もう……そんなイジワル言わないでもらえるかしら。その、私だって色々と反省しているんだから」


 ヴァネッサは顔を真っ赤にしつつ目を逸らす。言葉も段々と小さくなり、それが余計に可愛さを強調している。

 ここが個室で良かった。もし大部屋の病室だったら、毎日何かと大騒ぎになっていただろう。あるいはそれ以上の何かが起こっていた可能性もあり得る。

 そんなことを考えながら、アヤメは優しげな笑みを浮かべた。


「分かってるわよ。ゴメンなさいね、ヴァネッサさん」


 ――緊急クエスト後、ヴァネッサが目を覚ましたのは翌日の夕方であった。

 知らせを受けたアヤメは、ベアトリスとともに見舞いに向かった。そこで別人のように人となりが変わった彼女と対面したのである。

 ヴァネッサは、呪いの剣で暴走していた時のことは、全て覚えていた。

 アヤメと戦ったことも、そしてその少し前に――マーカスを自らの手で殺めてしまったことも。

 加えてこれまでの自分の行いについても、どれだけ幼稚で愚かだったかを自覚できるようになり、後悔と恥ずかしさと申し訳なさが、一気に容赦なく雪崩のように襲い掛かってきてしまっていた。

 有り体に言って、ヴァネッサは錯乱状態に陥っていた。

 それをなんとかアヤメが宥めたのだ。

 まるで母親が幼い我が子をあやすように。優しく包み込むように抱きしめ、そして言葉をかけた。

 ――大丈夫、もう大丈夫だからね。辛かったわね、よく頑張ったわ。

 アヤメからしてみれば、とにかく落ち着かせたい一心で、思いつく限りの言葉をかけただけに過ぎなかったのだが、なんとかそれが良い方向に転がり、ヴァネッサは少し落ち着きを取り戻した。

 それでも対人恐怖症に等しいレベルで人と会うのを怖がるようになってしまい、今でもアヤメと医者以外の人物とは、全く会おうともしていない。

 加えて、呪いの剣そのものの影響も少なからず出ていた。

 体に凄まじい負担をかけてしまっており、あと少し長く暴走していたら、命にかかわっていたかもしれないというのが、医者の見立てであった。

 命に別状こそないが、冒険者としての活動は、年単位で当分厳禁。引退して療養を続けながら、静かに暮らすことを勧められてしまった。

 ヴァネッサはショックを受けた。しかしそれに対して錯乱はしなかった。

 本人曰く、心のどこかで予感はしていたとのこと。

 しばらくは診療所に泊まりながら、様子を見ることが決まった。

 今のヴァネッサは、心身共に疲れ切っている状態だ。時間をかけてゆっくりと考えさせるのが一番であると、結論付けられた。


「ねぇ……呪いの剣は、もう本当に存在しないのよね?」


 ヴァネッサが不安そうに問いかけると、アヤメは首を縦に振った。


「それは間違いないわ。私がこの目でハッキリと見たからね。ガルトさんの推測によれば、力を使い果たしたからそうよ」

「そう……」


 厳密に言えば、長きに渡り封印が劣化したことで、呪いの剣自体も劣化が進んでいたこと。それをヴァネッサが短期間で相当酷使したことにより、限界を超えたのではないかと推測されていた。

 しかしアヤメは、それをヴァネッサに明かすつもりはなかった。

 今更知ったところでどうにもならない。もう存在しない物に対して、余計なことを考える必要はないと思ったからだ。


「良い機会だし、実家に帰ってみようかしら」


 するとヴァネッサは、軽く息を吐いて俯きながら言う。


「家出して、もう何年も帰ってないし……父さんと母さん、元気だといいけど」


 その言葉にアヤメは息を飲んだ。特に『家出』の部分が、途轍もなく重くのしかかる、そんな感じがしたのだ。

 ヴァネッサはそんなアヤメを一瞥し、ほんのわずかに口元を綻ばせ、そして窓の外から見える景色に視線を移しながら語り出す。


「私ね、魔法に力を入れている家柄に生まれたの。両親は高ランクで魔法に長けた冒険者だったから、その期待も大きかった。でも私は……魔法の適性を全く持たずに生まれてきてしまった。肩身が狭いどころじゃなかったわね」


 持っていた適性は剣のみだった。両親はそれを気にせず育ててくれたが、周囲の人々は冷たい目で見てきた。

 両親の期待を裏切る形で生まれてきた愚か者――それを親族や両親の関係者から幾度となく突きつけられ、精神的にも物理的にもいじめられてきた。

 無論、ヴァネッサも反論したし反撃もした。しかしすればするほど、首を絞める結果にしかならなかった。両親も仕事で家にいないことが多く、大変なのも分かっていたため、子供ながらに気を使って泣きつくこともできなかったのだ。

 ――魔法が使えないから力任せとは、なんとも野蛮なことだ。

 ――出来損ないのやり方なんざ、評価する価値もない。

 周囲はそう言って、ヴァネッサの頑張りを真っ向から全否定し続けてきた。

 遂にヴァネッサは我慢の限界を超えて飛び出した。気がついたら知らない大陸へ渡っており、冒険者になっていた。

 実家に帰るつもりも、両親に手紙の一つも送るつもりはなかった。


「最初は両親への恨みだと思い込んでたわ。でも本当は……逃げ出した自分を知らしめるのが嫌だったからよ。自分の気持ちにウソをついていることにすら、全く気づかなかったわ」


 逃げも負けも決して許されない――そう思い込むようになったヴァネッサは、周囲で自分より下の者に対し、強く言うようになった。

 言葉は正論、しかしそこに愛も暖かみもない。

 これでランクが低いままなら、ある意味良かったのかもしれない。まだ物理的に説教できるチャンスもあったからだ。物騒な話ではあるが、これも冒険者同士となれば、それほど珍しくもなかったりするのだ。

 しかしヴァネッサは高ランクを得た。

 つまり、それだけの実力を持っていることが証明されてしまったのだ。

 下からの言葉には聞く耳を持たず。同等からの言葉には、聞いた上で自分に有利な正論を返す。なんとも厄介過ぎる人物像が出来上がったのだった。


「そして気がついたら独りぼっち。今となっては自業自得なのがよく分かるわ」


 ヴァネッサはそれでも平気だという態度を取っていた。実際、頭の中ではそのとおりだと思い込んでいた。

 でも本当は違った。毎日が凄く寂しかったし、凄く辛いと思っていた。

 しかし逃げることもできない負けることもできない。何故ならそれらが、怖くて怖くて仕方がなかったからだ。

 そしてそれが、自分自身の単なるつまらない意地でしかないことに、ここまで気づくことはなかった。


「私もバカよね。強さを求めるあまり、自分を省みることもしなかった。色々な人に散々偉そうなことを言った。きっと天罰が下ったのね」


 笑みこそ浮かべているが、話すヴァネッサの声に力はない。


「きっとアヤメさんは、凄い冒険者になれるわ。前々から私は、それをなんとなく思ってたの。だから嫉妬して、いちゃもんをつけてきた。本当に……本当に申し訳なく思っているわ」


 俯くヴァネッサの表情が、どことなく泣いているようにアヤメは見えた。

 アヤメは自然と、自分の気持ちを打ち明けようと口を開いた。


「私もね。ヴァネッサさんに対して、申し訳ないって思ってるんだ」

「アヤメさん? 何を急に……」


 声のトーンを落としながら切り出すアヤメに、ヴァネッサが目を丸くする。しかしそれに構うことなく、アヤメは続けた。


「もう少し早く、ヴァネッサさんの逃げ場所になってあげればよかったって」

「……っ!」


 ヴァネッサは目を見開いた。純粋にアヤメの言葉に驚いているのだ。


「逃げることが良くないと思うのは、確かに悪いことじゃないよ? でもそれはあくまで、自分に逃げ場所があってこそだと、私は思う」


 それこそが、ヴァネッサに一番してあげるべきことだとアヤメは思っていた。

 単に厳しい言葉や態度だけではダメだった。ほんの些細で良いから、無条件で彼女を受け入れる体制を作るべきだった。

 逃げる――その言葉に対して、ヴァネッサは拗らせていた。

 どんなに辛くても押し殺し、無理やりにでも自分を奮い立たせてきた。その反動が他人への罵倒、見下す態度だったのだとしたら。逃げるという存在そのものを、無意識のうちに忘れ去っていたのだとしたら。


「私も派手に逃げてきたクチだから、偉そうに言う資格なんてないけど……気づいてあげられなかったことは、本当に後悔してる」


 試合に勝って勝負に負けた――そんな言葉がアヤメの脳裏をよぎった。

 緊急クエストが大成功に終わり、アヤメも他の冒険者たちから絶賛された。しかし全く嬉しくなかった。その理由がようやく分かった気がした。


「……ありがとう」


 俯くアヤメに、優しい声が投げかけられた。顔を上げると、ヴァネッサが穏やかで優しい表情を浮かべていた。


「ありがとう、アヤメさん。そう言ってくれたのは、あなたが初めてだわ」


 胸の奥が熱くなる。何かが奥底から込み上げてくる。涙が出そうになるのをグッと堪えながら、アヤメもにこやかに笑った。


(本当に皮肉な話だけど、呪いの剣と闇の力のおかげで、私は自分を見つめ直すことができた。そういう意味では、黒幕に感謝するべきなのかもしれないわね)


 ヴァネッサはそう思いながら、ひっそりと自虐的な笑みを浮かべる。そしてすぐさま、スッキリしたような表情に切り替えた。


「自分に強がるのは、もうオシマイにするわ。実家に帰って、これまでの私の全てを打ち明けるつもりよ」

「そう。でもその前に、ご両親に手紙でも送ってみたらどうかしら? そもそも元気かどうかも分からないんでしょ?」

「あ、そう言えばそうね。じゃあそうしてみるわ」


 なんて書こうかしら――そう呟くヴァネッサは、どこか楽しそうであった。しかし次の瞬間、ヴァネッサはアヤメを見上げた。


「アヤメさんも……いつかご両親と会える日が来ることを願っているわ」

「えっ?」


 突然そう言われたアヤメは、驚いて言葉が思うように出なかった。それに構うことなく、ヴァネッサは言葉を続ける。


「あなたが駆け落ちしてきたというのは知ってるのよ。どんな事情があったのかは聞かないでおくけど、後悔だけはしないで。あなたの悲しむ顔は、絶対に見たくないから」


 ヴァネッサは真剣だった。強めの口調としっかり見上げてくるその目が、逃がさないと言わんばかりに、ガシッと掴んできている気がした。

 理屈を並べた冷たい正論とは全く違う。心からそう思っているが故の暖かみが、確かに感じられた。

 アヤメは表情を引き締め、そして強い笑みを浮かべながら頷いた。


「分かりました。ヴァネッサさんの今の言葉、しかと肝に銘じておきます」

「よろしい。じゃあ約束しましょう」


 ヴァネッサは満足そうに笑いながら、アヤメに小指を差し出す。それが何を意味しているのかは、アヤメにもすぐに分かった。


「えぇ、私たちの約束、ですね」

「ふふっ♪」


 指きりげんまん。小指がしっかりと絡ませる二人の笑顔は、とても明るくて眩しいモノだった。



 ◇ ◇ ◇



 王都の丘にある墓地。そこにミナヅキは花を持ってやってきていた。

 墓石に新しく刻み直された名前――ジョセフの前に立ち、花束を供える。そこにもう一人、ゆっくりと歩いてくる者たちがいた。


「なんじゃミナヅキ、お主も墓参りに来ておったのか」

「フィリーネ……」


 小さな花束を持ったフィリーネが、ベティとともに近づいてきた。


「それではフィリーネ様、私は入り口のほうで待っておりますので」

「うむ、少し話したらすぐに帰る」


 ベティはミナヅキにも小さくお辞儀をし、ゆっくりと去っていった。そして二人で墓の前に立ち、語り出す。


「今回の一件じゃが、やはり王宮の重鎮の一部や貴族が関わっておったよ」


 先に切り出したのはフィリーネであった。


「騒ぎを利用して、妾や父上を失脚させようとしておったのだ。しかし、父上もそこはしっかりと読んでおられてな。逆にまんまと連中を失脚させておったわい」

「冒険者の底力を舐めていた、ってのもあったんじゃないか?」

「うむ、それも大きい」


 フィリーネは頷き、そして右手人差し指を立てながら、更に続ける。


「それからもう一つ……東の平原の丘から、マーカスの遺体が見つかった」

「ラトヴィッジの言ったとおりか」

「うむ。一応ダンとケニーを通してリトルバーン家の当主にも伝えたが、見事なまでに突っぱねられたらしい」


 それを聞いたミナヅキは、ため息をつきながら顔をしかめる。


「哀れだな。感情の面でも切り捨てられちまってたか」

「まぁ、貴族や王族としては、あながち珍しい話でもないがの。ひとまず遺体は、騎士たちに頼んで丁重に処理させた。くたばった流れ者の一人という形で、ヤツの墓も用意はした」

「そりゃまた随分とご親切なことで」

「当然じゃ。我が王国で発見されたともなれば、放っておくわけにもいかん」

「なるほどね」


 ミナヅキが苦笑しながら頷いたところで、一つ気になっていたことを思い出す。


「そういえば、ソウイチさんは大丈夫だったのか? ヴァネッサ絡みで協力者と見なされてたりとかしたんじゃ……」

「それについては問題ない」


 小さな笑みとともに、フィリーネはハッキリとそう言った。


「先日の緊急クエストの成功で、冒険者の存在が大きく再評価された。ソウイチを支える声も、あちこちから多く出てきてくれてな。父上からそれ相応の注意を受けただけで済んだそうじゃ」

「そっか。変にとばっちり喰らわずに済んで、良かったよ」


 ミナヅキが表情を綻ばせる隣で、フィリーネも笑みを浮かべたが、すぐに神妙な表情へと切り替わる。


「先日の緊急クエストで、マーカスの幻影が出たという話は知っておるか?」

「あぁ、俺もアヤメから聞いたよ。実物同然だったんだってな」

「そこが問題じゃ」


 面倒だと言わんばかりに、フィリーネが頭を抱える。


「実物同然の幻影を出せるとなれば、相当な魔法の使い手ということになる。あのラトヴィッジも、魔法と思われる新たな力を得ておったが、それだけではより精密な幻影を作り出すことはできん」

「じゃあ、ラトヴィッジ以外の誰かってことか……ヴァネッサとか?」


 ミナヅキがそう予想するが、フィリーネは首を左右に振る。


「アヤツは呪いの剣に憑りつかれておっただけじゃ。そして呪いの剣にも、幻影を生み出す能力はない」

「だったら誰だ? 他に黒幕的なのは……ラトヴィッジが言ってた先生か」

「正解じゃ」


 ミナヅキの答えにフィリーネがニッと笑う。


「ラトヴィッジとヴァネッサ。表向き黒幕な二人の裏には、その『先生』なる人物が潜んでおった」

「じゃあ、ソイツが今回の真の黒幕ってことか」

「あくまで可能性の域を出ておらんがな。現にラトヴィッジは、自分の口で明かしたワケでもないからの」

「あぁ、そう言われてみれば……」


 ミナヅキは先日の墓地でのやり取りを思い出す。確かにこちらが勝手に予想しただけであり、ラトヴィッジはボカした答えしか言っていなかった。


「どちらにせよ、調べてみる必要はある。父上にも報告し、様子を見つつ対策を立てていくことが決まった」

「へぇ」


 墓を見下ろしながらミナヅキは生返事をする。実際、彼の中では、既に先生なる人物のことは、殆ど興味がなかった。

 考えていたのは、先日この場で姿を消した人物のことだった。


「……ラトヴィッジのヤツ、今どこにいるんだろ?」

「あれから消息は完全に途絶えた。恐らくこのフレッド王国には、もういない可能性が極めて高いな」

「そっか」


 ミナヅキが小さく頷くと、フィリーネは問いかける。


「ラトヴィッジのことを嫌いになったか?」

「さぁな。ただ――」


 ミナヅキは空を仰ぎながら、呟くように言う。


「こないだラトヴィッジが言ったことは、普通に信じられるような気がする」


 小さな声ながらも、確かにハッキリとそう発言した。フィリーネは少し驚いた様子を見せ、そしてフッと小さく笑った。


「そうか。まぁ、それもよかろうて」


 ジョセフの墓をじっと見つめながら、フィリーネは思う。


(ラトヴィッジのヤツは、ミナヅキが計画を最後の最後で邪魔したことを指摘こそすれど、怒りを抱いておる様子はまるでなかった。恨みを抱き、八つ当たりを仕掛けてきたとしても、何らおかしくはない……しかしその類はなかった)


 少なくとも、フィリーネが調べた限りでは皆無であった。それどころか、今回の件にミナヅキを巻き込む動きすらなかった。

 今回、ミナヅキが関わったのは、あくまでソウイチが声をかけたからである。アヤメは自分から緊急クエストに参加したからであった。少なくとも、ラトヴィッジが彼らをターゲットにしたからではない。

 つまり、事と次第によっては、ミナヅキたちが関わることはなかった。

 まるで最初から、彼らを巻き込む気はなかったと言わんばかりに。


(それらもまた、ヤツの本当の気持ちじゃったのかもしれんな。もっともこれは、あくまで妾の個人的な推測に過ぎんがの)


 意味深な笑みをミナヅキに向け、フィリーネは目を閉じて一息つき、そして王宮に視線を向けた。


「そろそろ妾は戻るとしよう。公務を放り出しておくワケにもいかんでな」

「あぁ、俺も帰るよ」


 最後に墓をしっかりと目に焼き付け、ミナヅキはフィリーネとともに歩き出す。

 その時――


「……?」


 ミナヅキは後ろを振り向く。気配を感じたのだが、そこには誰もいない。


「どうしたのじゃ?」

「いや……なんでもない。ただの気のせいだ」


 ミナヅキは気持ちを切り替え、今度こそフィリーネとともに歩き出す。

 ジョセフの墓の前で、一人の青年が笑みを浮かべながら見送っていたことに、二人が気づくことはなかった。


 やがて二人の姿が見えなくなると、青年の周囲を風が舞う。

 ――風が止んだその場所に、青年の姿はなかった。




お読みいただきありがとうございます。

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