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駆け落ち男女の気ままな異世界スローライフ  作者: 壬黎ハルキ
第六章 家族で気ままなスローライフ
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第百十八話 ミナヅキ一家の賑やかな生活(後編)



 その夜――ミナヅキ一家はピザ作りに勤しんでいた。

 厚切りベーコンと新玉ねぎ、そして昼間採れたナスとサツマイモを、ヤヨイとアヤメが切り分けていく。シオンとミナヅキが捏ねた生地に手作りトマトソースを塗りたくり、そこに具材をたっぷりと並べた。

 更にその上から、ブロックチーズをナイフでそげ落とす。細かい切れ端がみるみるピザ生地に降り注いでいった。

 そうして出来上がったピザ生地を、あらかじめ準備しておいた石窯に投入。

 パチパチと音を立てて燃える炎の中で、ピザが少しずつ焼かれていく。それをシオンが椅子に乗って、ジーッと動くことなく眺めていた。


「シオンって、ホントにそーやって見るの好きだよね」


 ヤヨイが呆れた笑みを浮かべる。しかしシオンの反応はない。それだけ夢中になっているということだ。

 誰かが自宅の石窯で料理を作るときは決まってこうなる。正確に言えば、石窯の中で揺れ動く炎に興味を持っているのだ。

 それ以外にも、川などの水の流れをジッと見つめることも多い。

 ラステカの近くにも大きな川沿いの道があり、そこがシオンにとって、お決まりの散歩コースにもなったほどだ。特に何もない川を何分も微動だにせず見続けてしまうため、別の意味で親のほうが疲れる事態に陥った記憶は、アヤメの中でもかなり新しいほうである。


「前々から思ってたんだが――」


 ジッと炎を見つめるシオンの背中を見ながら、ミナヅキが腕を組む。


「あれだけ自然の流れを目で追ってたら、そのうちポンッって炎とか生み出せたりしないんかな?」

「それは……うーん、それはどうかしらねぇ?」


 何を突拍子もないことを、と一瞬思ったアヤメだが、すぐにあり得ない話ではないと思い直した。


「魔力を持っていれば、可能性はあると思うけど……」

「ねぇ、シオンに魔力ってないんだっけ?」

「まだ調べてないんだよなぁ」


 ヤヨイの問いかけに答えつつ、ミナヅキがシオンの後ろから、ピザの様子を確認するべく覗き込む。

 チーズがトロトロになり、程よい焦げ目がついてきていた。


「もう少しかな……そんなに見ていて面白いか、シオン?」


 イタズラっぽく笑いかけるミナヅキに、シオンが無言でコクリと頷く。


「それだけ見ていたら、こうやって両手をかざした瞬間、炎が生まれたりしてな」


 シオンの視線に届くように、ミナヅキが実演してみせる。無論、これは冗談のつもりであった。子供と接したくて面白い話をする――そんな父親としての遊び心が働いたに過ぎない。

 その目論見どおり、シオンはマネをして両手をかざす。視線を石窯の中の炎に向けられたまま。

 するとその時――炎が生み出された。


「うわあぁっ!?」


 ポンッ――突如、両手の前に生み出された小さな炎にシオンは驚き、勢いよく飛び退いてしまう。椅子から転げ落ちそうになるのを、なんとかミナヅキが支えたことでひっくり返らずに済んだ。


「だ、大丈夫か?」

「うん……」


 シオンは戸惑いながら、ミナヅキに支えられつつ椅子から降りる。そして周囲を見上げると、家族全員揃って目を丸くしていることに気づいた。


「今の……間違いなく魔法の類だわ」


 呆然としながらアヤメが呟いた。何かの間違いであってほしい――そんな願いも込められていたが、間違いなく現実であった。

 ミナヅキは苦笑しながら腕を組む。


「どうやら母さんと同じで、シオンには魔法の才能があるようだな」

「ホントっ!?」


 シオンの表情がパアっと明るく輝き出す。


「ぼくもおかーさんみたいに、まほーが使えるの!?」

「あぁ。もしかしたらな」

「やったー♪」


 シオンが両手を大きく突き上げ、バンザイの恰好をしながら喜ぶ。

 子供が生まれたのを機に冒険者を引退したアヤメだが、自分がかつて魔法剣士として活動していたことは、ちゃんと子供たちにも明かしている。

 魔法と聞いて子供たちが憧れないハズがなかった。現にヤヨイも、魔法の適性がないと判明した際にはガッカリしたほどだ。シオンもそれなりに興味を示していることは悟っていたが、この様子を見る限り間違っていなかったようだと、ミナヅキとアヤメは思う。


「とりあえず明日にでも、ギルドへ行って検査してもらうか」


 ミナヅキが呟くと、ヤヨイが羨ましそうな視線で見上げてくる。


「いいなー王都。あたしも行きたいなー」

「アンタは学校があるでしょ」

「へいへい。分かってますよーだ」


 アヤメにピシャッと言われ、口を尖らせるヤヨイ。するとここで、ふと石窯のほうに視線が向いた。


「ところでパパ。ピザって大丈夫なの?」

「え? あ、やべっ!」


 すっかり忘れていた夕飯のメインメニュー。慌てて鉄ヘラを突っ込み、放ったらかしていたピザを取り出す。

 幸い少し焦げが目立つ程度であり、食べるには全く問題なかった。



 ◇ ◇ ◇



 それから数日が経過した。

 王都のギルドで適性検査をしてもらった結果、シオンには魔力が備わっていることが判明。訓練次第で魔法が使える可能性が高いと言い渡された。

 勿論シオンは大喜び。そしてアヤメも気合いを入れていた。お母さんとして、シオンに魔法を教えてあげるのだと。

 何だかんだで、自分の子が同じ分野に恵まれたことが嬉しいのだった。


「それじゃあシオン。今日もやりましょうか」

「はーい」


 ミナヅキとヤヨイが庭で畑仕事をする傍で、アヤメがシオンに魔法について教えている。ここ数日で新たに確立された光景であった。

 最初ヤヨイは、そう簡単にはいかないんじゃないかと思っていた。

 これまでシオンに習い事をさせたことはない。そんな子供がいきなり大人しく教わることができるだろうかと。

 しかしいざアヤメの講義が始まると、シオンは大人しくしていた。

 むしろ興味を示してすらいる。特にアヤメが見本として魔法を使う場面を、目を輝かせて凝視するほどだ。

 シオンも意気揚々と試してみる。しかし上手くいかない。

 当然と言えば当然だ。体内に魔力があるとはいえ、それを自身が具現化して生み出すことなど、簡単にできることではない。魔力に目覚めたばかりの幼子ともなれば尚更だ。

 しかしシオンは諦めることなく続ける。何度もめげずに挑戦していった。

 悔しくて涙を流す場面も見られた。それでも泣き叫ぶことはせず、ただひたすら母の行う形を模倣しようとする。


(シオンのヤツ……あんな真剣な顔するんだ)


 鍬を振るいながらヤヨイは感心していた。普段見てきた弟の表情は、黙々と何かを見ているか、楽しそうに遊んでいる笑顔のどちらかだった。

 たまに何かやらかして叱られ、拗ねたり泣いたりする顔も見てはきているが、それでもあんなに真剣な表情で何かに取り組む姿は、もしかしたらこの五年間で初めて見たかもしれない。

 そんなことをヤヨイが考えていると、ミナヅキが近づいてきた。


「驚いてるな。さしずめ、見たことがない弟の表情にビックリしてるってか?」

「…………」


 ヤヨイは思わず目を丸くする。まさかこうも見抜かれるとは。


「うん。まぁ……そんなとこ」


 否定する言葉も気持ちも消失してしまい、視線を逸らしながらも頷いた。図星をつかれて恥ずかしく思ったのか、それとも素直に認めたくないという小さな意地が働いたのか、それはヤヨイにも分からないことであったが。


「シオンは前々から、あーゆー節が見えていたよ」


 そんな娘の様子に小さな笑みを浮かべつつ、ミナヅキはシオンのほうを見る。


「たまたま外で遊んでるシオンを何回か見たことがあったけど、他の子供たちに混じって走り回ったりしてたことは、殆どなかったかな。それこそ戦いごっこみたいなところは、一度も見たことがなかった」

「言われてみれば……あたしも見たことないかも」


 ヤヨイも思い当たる節があった。むしろ狭いところを潜ってみたり、柵を乗り越えてみるなど――いわゆる探検的な行動が圧倒的に多い。


「服をよく汚してるのもそのせいだって……そういえば言ってたっけ」

「あぁ。前にチラッと聞いたんだよ。ヒーローごっこしてる子供たちを見かけて、遊んできたらどうだってさ。そしたらシオンはこう言ったんだ。戦うのは好きじゃないってハッキリとな」

「そうだったんだ」


 ミナヅキの言葉を聞いて、ヤヨイはようやく納得できた気がした。確かに騒ぎながら剣に見立てた木の棒を振り回すなど、シオンらしくないと。

 しかしそれならそれで気になることもあった。


「でもシオン、魔法に凄く興味持ってるみたいだよ?」

「あぁ。そのようだな」

「戦うのは好きじゃないって言ってたのに?」

「言ってたな」


 父親の答えにヤヨイは首をかしげる。どうにも分からない。戦いは好きじゃないのに魔法が好きとは、一体全体どういうことなのか。

 しかしそんな娘の考えも、ミナヅキからしてみれば想定の範囲内であった。


「別に魔法と戦いはイコールじゃないよ」


 その言葉にヤヨイはきょとんとする。それを一瞥し、ミナヅキは続ける。


「魔法っていうと、まぁ確かに魔物とかに向けてぶっ放すイメージが強いわな。でもそれだけが魔法じゃない。生活に役立つ道具にも使われてるし」

「あっ、そういえば冷蔵庫とかにも使われてるって……」

「そーゆーこった」


 地球で言うところの科学的な部分が、この世界では魔法で補われている。過去に地球から転生ないし召喚されてきた人間によって、新たに発明され、成長させてきた技法の一種であった。


「魔法に限らずなんでもそうさ。モノによっては武器にもなるし道具にもなる。現にこの鍬だって、その一つだとは思わないか?」

「……確かに」


 改めて鍬をマジマジと見ながら、ヤヨイは呆然とする。土を耕す道具としてしか見なしていなかったが、その先端の鋭利な部分は、使い方次第で生き物を簡単に傷つけてしまう。

 使い方を間違えると危険――その認識自体はしてきたが、武器にもなるという考えまでは至らなかった。

 ここに来て恐ろしい使い道を発見してしまった。ヤヨイは背筋を震わせ、表情に緊張を走らせる。


「とにかく、戦いが好きじゃない人間でも、魔法に興味を持つのは何ら不思議じゃないってことだよ。それこそ魔法に関する研究者も、たくさんいるからな」

「なるほどねぇ」


 研究者というと、白衣を着て何かを実験するイメージがヤヨイの中にはある。

 誰にも邪魔されずに、一人で黙々と魔法について調べ、興味のあることを実験して確かめる――何故かその姿が、シオンで容易に想像できてしまった。

 それと同時にヤヨイは、ミナヅキに対して感心したような表情で見上げる。


「シオンのこと、ちゃんと見てるんだ」

「当然だ。全くお前は、父さんのことを何だと思ってたんだ?」

「調合と畑にしか興味がないマイペースなおじさん」

「随分な言い草だな……まぁ、別に良いけどさ。そう見えてしまうことを否定するつもりもないし」


 そう言いながらミナヅキは鍬を置き、如雨露で水を畑に撒いていく。


「そんなことより、こっちも早く進めるぞ。こないだ収穫した後の土も、しっかり綺麗にしなきゃならんからな」

「うん……」


 ヤヨイも戸惑いながら頷きつつ、再び鍬を振るう。水を撒きながら、ほんの少しだけ父親に対して、見直したような気分に駆られるのだった。




お読みいただきありがとうございます。

誤字・脱字につきましては、ページ一番下にある『誤字報告』にお願いします。


アルファポリスで公開中の新作も是非ともご覧ください。

作品名:『勇者になれなかったけど精霊たちのパパになりました』

第12回ファンタジー小説大賞にエントリーしています。

(このため、アルファポリスのみでの公開とさせていただいてます)

なにとぞよろしくお願いします<(_ _)>

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