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PARADISE

作者: 白桜 ぴぴ

あるところに、地平線まで続く草原があった。そこには、無数の蝶が、優


雅にひらひらと舞っていた。白、瑠璃色、だいだい色、縞模様にまだらもよ


う…




 それは、とても暑い夏の日の午後だった。太陽がかんかんと照りつけ、むっ


とするような草いきれの中に、ひとすじのかげろうが立ち上った。かげろう


は、はじめ湯気みたいにゆらゆらと動いていたが、やがて集まり一人の少女


に姿を変えた。




 かげろうから姿を変えた少女は、夢から醒めたような瞳でこの広い原っぱ


を眺めていた。そしてやがて、よろよろと立ち上がり小さな声をあげた。  




 『誰か…誰か、いませんか?』




 しかし少女の問いに答える声は、どこからも聞こえてこない。少女はもう


一度、今度は少し大きな声で叫んだ。




 『誰か、いませんか?』




 やはり、誰も答える者はいない。少女はあきらめずに、草原を歩きながら、


何度も何度も叫んだ。




 『誰か、誰かいませんか? お願いです。いたら返事をしてください。誰


か!』




 それでも、いっこうに答える声は聞こえず、少女はとうとう疲れてその場


にペタンと座り込んでしまった。見上げれば、所せましとばかりに蝶達が舞っ


ている。




 …なんてたくさんの蝶だろう?




 少女はしばらく蝶たちの群舞に見とれていた。それから、そこにごろん


と寝転がると目を閉じて色んな事を考えはじめた。




 …ここは、どこだろう? 私は、どうしてここにいるんだろう? みんな


どこへ行ってしまったんだろう? 私は、一体誰なんだろう? どうして何


も思い出せないんだろう?




 物音一つしない草原で、蝶たちが舞い踊る。太陽が照りつけ、熱気がそこ


に停滞している。やがて、少女はのどの渇きをおぼえた。 




 …水が飲みたい  




 少女は立ち上がると、水を探して歩きはじめた。しかし、草原をどこまで


歩いても、川はおろか体を休める木陰さえない。そして、照りつける太陽は、


容赦なく少女の肌を射した。その焼けるような痛みが、少女にある事を思い


出させた。




 …暑い。体が焼けるみたいに熱い。まるで、あの時みたい。そうだ、前に


もこんな事があった。あの時も、体が焼けるみたいに熱くて、のどが渇いて


仕方なくて、あの時も私は、誰か人がいないか探してた…。でもあの時の熱


さはこんなものじゃなかった…町が燃えていたんだもの、そうよ、あの時は


街が燃えていた。




少女の記憶はより鮮明になっていく。




 …あの時、私は炎の中を歩いていた。誰かを探していたの。生きている誰


かを…。何時間か何日か歩き回って、炎がおさまり、黒い雨がやんで、夜空


に月が戻る頃私はやっと生きてる人に出会った。その人は、腕に真っ黒な赤


ちゃんを抱いて焼けただれた頬を涙で濡らしてた…。




 そこまで思い出すと、少女は宙を舞う蝶たちの姿を見てつぶやいた。




 『昔、誰かが言ってたっけ、蝶は死んだ人の魂だって』




最後に少女が思い出したのは、巨大なキノコ雲に飲まれる自分達の姿だった。




 ひらり…と少女の手に蝶がとまった。彼女はそれを愛おしげに眺めると、


手をのばし空に放った。少女は瞳から涙をつーと零すと、現われた時と同じ


ようにゆらゆらとかげろうに姿を変え、やがてそのまま消えてなくなった。


そのあと、少女のいたあたりから一頭の蝶が舞い上がり、何ごともなかった


ように仲間たちの群舞に加わった。


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