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錦松雪姫の 脱! やまとなでしこ宣言! - 13

 いい。これでいい。

 声優道は勝ち負けに非ず。


 雪姫ちゃん、辿り着きましたよ、信念に。


 負けたっていいんだ、君には未来がある。


 さて、エピローグ…………の前に、まだ一悶着あるようで?



「これはもう審査結果を待つまでもなく」

「明らかよね……」

 おそらく、由綺佳さんや春宵さんだけでなく、会場全体の総意なんだろう。

 緩んだ空気に、もうコンペの緊張感はない。


『二代目ナスビちゃんは――伊勢原雛子さんに決定致しました!』


 MCの宮居さんも、特に焦らすことなくサクッと勝者を発表した。

 ママにはまばゆいスポットライトと、歓声が。

 錦松さんは敗者として王者をそばで見守る。潔く負けを認めて。


「ううむ……」

 これでまた『極上の紐巫女(錦松さん)を、高みへと押し上げる』という、魔術師の本懐が遠のいてしまったのかな……

 覇権ソシャゲのヒロイン役という美味しいポジションには届かせられなかった。


「焦っても仕方ないでしょ?」

「由綺佳さん……」

「あの子、私たちの特訓に耐えただけでも、相当キモが据わってるわ」

「根性は人一倍あるよね」

「あ……?」

 春宵さん? 由綺佳さん?

 美味しいオコボレを戴けそうなカモを発見、って顔ですよ?

 笑いに邪悪さが籠もってますよ?

 本当そういうところだけは異常に目敏めざといんだから!

 ダメですよ!

 錦松雪姫(あの子)は滅多に現れない超逸材の『巫女』候補なんですから!

「コバンザメ行為禁止!」

 そんなの僕が許さ……


「「「「えーっ!?!?」」」」


「……ん?」

 ステージの様子がおかしい?

 改めて袖から覗うと……


『え? 伊勢原さん? 今、なんと?』

 見るからに当惑した宮居さんが優勝者へマイクを向けると、


『今回は、辞退させて頂きますね☆』


 ミスコン風の女王様ガウンと、王冠を被った伊勢原雛子――突然そんなことを言い出した!

『いやいや伊勢原さん? ご冗談ですよね?』


 ――伊勢原雛子は最後までとんでもない人だった。


 慌てる司会者(宮居さん)を軽くなし、

『お医者様NGです♪』

 と母子手帳を掲げてみせた。カメラで抜かれた手元がスクリーンに映し出されて。

『私、人妻なので☆』

「ママ!?」

 その辞退宣言に最も驚いてたのは……隣に立つ娘だった。

『雪ちゃんに妹が出来るの! やったね、雪ちゃん!』

 口あんぐりで固まる娘を愛情深く抱きしめ、大女優は事もなげに言ってのけた。

 数百人の観客たちが見守る前で。


「こりゃ勝てないわ」

 完全敗北。

 僕も由綺佳さんも春宵さんも、そして当の錦松さんも、皆で白旗をげるしかなかった。




「声優は一日にして成らず」

 ママがファンに植え付けた幻影も、ママ自身の長きに渡る活動の成果なのだ。

 一年や二年の想いじゃない、相当の歳月によって紡がれたもの。

 私ごときぺーぺーの新人に太刀打ちできるようなものじゃない。

 つまり、

 つまりそれは……事務所に所属することが「声優になる」ことじゃないってことだ。

 一つ一つ、誰かの心に思いを積み上げていく、

 そしてゆくゆくは、wikipediaの出演作を太字(主演作)で埋めるくらいの役者になれたのなら、

 その時、初めて錦松雪姫(私)は――――「伊勢原雛子の娘」ではない、何者かになれるのかもしれない。

 他の誰でもない「私」が、声優になれるのかもしれない。



「はい、OKです! 頂きました!」

 早速、GHPガン・ハイドレード・パレードプロモ用の収録に挑む錦松さん、もはや最初からナスビちゃんは彼女だったんじゃ? と錯覚するほど馴染んでいる。

 調整室に居並ぶ関係者(製作委員会)も、これなら大丈夫と太鼓判の笑顔。


 そんな収録風景に……普段と違う顔が一人。

「最初から音叉のみを信用しておれば、余計な手間など掛からなかったものを」

 羽織袴はおりはかまの神職姿から、文明開化の紳士みたいな格好に着替えた爺ちゃん、山(神社)を降りてスタジオへ姿を見せた。爺ちゃんも授業参観のつもり?

「音叉こそ正しさを導く神器。ただ御神託に従っておればよい」

 それは我が家(魔術師の家系)が裏で祭事まつりごとを牛耳ってた時代の話でしょ?

 今(現代)じゃあ、しがない音響監督。僕に決定権などありませんよ、お祖父様?


「それはそれとして……今回のMVPは宮居殿、じゃな」

 爺ちゃん、仙人のひげを弄りながらご満悦。

「収まる所に収まったのは、ひとえに宮居殿が椋丞のガチャ狂いを矯正したからじゃ!」

「いえいえ、私どもなど」

「ご謙遜けんそんされるな! 宮居殿!」

 柳に風の宮居さんに、爺ちゃん鼻息荒く。

「他社への根回し、声優の手配、コスプレ衣装や小道具の用意……見事な手際よ、宮居殿」

「恐れ入ります」

「椋丞最大にして唯一の欠陥を一夜にして駆逐……そなたこそコーディネーターのかがみ!」

「滅相もございません」

 爺ちゃん、そんなに気に入ったのか宮居さんのこと?


「ああ、ところで宮居殿……ご結婚の予定は?」

「お答え致しかねます」

「もし宜しければ高橋家の嫁として……いやむしろ! この剣洞陸が伏してお頼み申し上げる!」

「爺ちゃん!」


 いきなり何を言い出すんだクソジジイ!


「何卒! そこを何とか、宮居殿!」

「ナニ考えてんの、爺ちゃん! ここはそういう話をする場所じゃないって!」

 ほら周りの人見て!

 みんなドン引きだよ、こんな仕事の場にプライベートを持ち込んじゃったら……


 ぎゅ。

「へ?」

 前触れもなく、腕を掴まれた。

「錦松さん?」

 プクッと頬を膨らませて、不満をアピールしている……


 それで察した爺ちゃん、

「椋丞……」

 鬼の目で僕を睨む。

「…………分かっておろうな?」

 ええ重々! 勿論ですともお祖父様!

 僕、巫女をたてまつる一族の後継者ですからね! 巫女に手を出すとか言語道断!


「ご、ごめん錦松さん!」

 慌てて腕を払い除けて、咄嗟とっさに飛び退く。


「やはりここは」

「間を採って」

「三方一両損、ということで」

 ガシッ!

 どこから現れた、神出鬼没の眉目秀麗びもくしゅうれい声優ガールズ。

「この藤村由綺佳が!」

「いいえ、この吉井春宵はるよが!」

 左右から僕の腕をホールドする。絶対離さないわよ、くらいのキッツいクラッチで。

「お孫さんの人生を公私ともども厚くサポートして……」


 いかん!

 このままでは僕の自由は完全に封じられる!

(こうなれば!)


「――三十六計、逃げるに如かず!」


「椋丞!」

「椋丞くん!」

「ひゃあ!」

 僕を逃すまいとした三人、爺ちゃん、由綺佳さん、春宵さんは唐突に進路を阻害される!

 そう、僕が彼女たちの服に引っ掛けたミニミニ音叉のせいだ。

 簡易足枷として人の動きをはばむ。

 音叉にはこういう使い方もあるんだ!


「……私はいいんですか?」

「勿論さ!」

 僕は音叉の魔術師だもの、巫女を束縛する音叉など持ち合わせていない。

 自由に羽ばたけ、錦松さん、どこまでだって飛んでいけ。

 君を輝かせるために僕は居るのだから。


以上で、一段落です!

御覧頂いてありがとうございました。


次作なんですが……

これの続きのネタはあるんですが、ちと別のネタを書いてみようかな? と思わんでも。


こっちの続きが見たい方は、感想欄に「続きを書け!」と書いておいて下さいw

Twitterアカウント @Helvetica_Ikj の方へ怒鳴り込んでも結構です。


では、また近いうちに~


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