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錦松雪姫の 脱! やまとなでしこ宣言! - 9


 錦松さんの特訓をうたいがなら、僕の大羞恥大会になってしまった、「由綺佳と春宵のレッツゴーヤング☆大作戦」、

 ほんとにこれ、特訓になってんの?

 誰得?


 ……と、未だ納得のいかない我らが主人公、椋丞くん。

 年上声優さんのペースに巻き込まれて、落ち着く間もない同居ライフ。

 果たして、このままでいいのか?

 自問自答しつつ、物語は確信へと近づいていくのです…………


挿絵(By みてみん)


 まったく……何をさせるんだ、あの二人(由綺佳&春宵)は……

 【涙ぐましい努力のお蔭で、私たちは生き残ってきた】と主張したいのかもしれないけど、

 どう考えても、生存バイアス掛かりすぎのニセ科学信仰に近い気がする……


 そもそも由綺佳さんも春宵さんも、並外れて美しい。

 もう少し若かったら有象無象アイドルグループのセンターだって狙えそうな容姿だよ。

 だからこそ、その容姿に拠って得られるポジションで生き残ってきたんじゃないのか?

 声優業界でも。



 BBQパーティーだって催せそうなベランダで、一人佇んでいた僕に、


「……眠れないんですか?」

 絶妙な快楽琴線を刺激する彼女の声。

「錦松さん」

 眠れないのは僕だけじゃない。

 彼女も、【特訓】で神経がたかぶっているんだろう。

 冴えた目と火照る頬が月明かりに浮かんでる。


「月が綺麗ですね……」

 高層マンションのベランダから見る月――それは空中庭園から眺める異星の趣だった。

 遠く響く街の喧騒けんそうも現実感を失わす。

 そこで響く声は尋常ならざる劇性を帯び――精神をフィクションの彼方へ連れ去っていく。

 やっぱり彼女は巫女、

 錦松雪姫は心惑わす巫女の響きだ。



 そんな劇的な声の持ち主なのに、

 間が持たないと余計な会話に逃げる錦松さんは、本当に役者らしくない。


「月の使者! 月面最終兵器少女 ルナティックカグヤ!」


 沈黙に耐えきれなくなった巫女が変身ポーズでおどけてみせる。

「幼稚園の頃の十八番☆」


 あ、れ?


「ドッカンドッカンウケたんですよ、当時の幼稚園児(同級生)には」

 それは…………古いアニメのキャラクターで……僕らが子供の頃、リアルタイムで見た……


 なんだこの違和感?

 ひどく居心地の悪い感情が記憶の底から湧いてくるような……


「でも所詮はモノマネですけど……出来の悪いイミテーション……」


 僕は……錦松さん僕は……


「【あの時】も、「ぼくは、ほんもののカグヤがすきなんだ」ってソッポ向かれちゃって……」


 ――――僕はソレを知っている!


「思い……出した……」

「えっ?」

「もしかして……もしかして錦松さんって名郡なごおりさん?」

「え? どうして私の本名を監督が?」

「錦松さんが『ユキちゃん』だったの? 僕と同じ幼稚園に通っていた、あの子?」


 今にして気がつくなんて。

 錦松さんが所属するユアーズエンターテイメントは、基本、タレントは芸名。

 本名が明かされることはほとんどない。

 幼稚園で心無い言葉に傷ついていたのは、錦松雪姫とは「違う名前の錦松さん」だったとしても何の不思議もないのだ!


 でも!

 ……それにしたって……

「まさか僕が原因? 錦松さんを苦しめてきたトラウマの根源は僕だった?」

 延々と『巫女』を苦しめてきた悪夢の端緒たんしょは僕なのか?

「…………」

 意外な事実の発覚に錦松さんも言葉がない。

「…………」

 星も見えない都会の空の下、絶句したままの僕ら。


「殴りたい……」

 自分で自分を殴りたい。

 紐の巫女に葛藤を強いていた原因が自分だったとか……

 信じられない。

 僕が最もやってはいけないことを、やってしまってたなんて……

「音叉の魔術師失格だ……」

 僕に高橋家(魔術師の家系)を継ぐ資格などない。最低最悪の魔術師じゃないか!

「錦松さんよりママの方が好きだ、とか」

 失言にしても無神経すぎる!

 時間超越パンチで園児の自分を殴りたい!

「いくら好きな子の気を引くためでも、言って良いことと良くないことがある!」

 タイムスリップして自分の口にチャックしたいよ! スティッキィ・フィンガーズしたい!


「え……?」


 黒歴史に悶えまくる僕を、鳩が豆鉄砲を食ったような目で錦松さん、

「じゃあ監督も私のこと……」

(はっ!)

「いや違うんだよ!」

 園児ならば許される失言でも――今の僕(音叉の魔術師)には許されない!


 古の昔から、魔術師(僕ら)は巫女をたつまつる存在で……錦松さん(君)はまつられる立場だ。

 俗世のちぎりなど、僕らには許されない。

 巫女の処女性は犯さざるべき聖域サンクチュアリ――


「やっぱり僕らは不用意に近づくべきじゃなかった……」





 翌日、朝。


 『さがさないでください』


「……書き置き?」

「家出、ってことじゃない?」

「春宵の演技指導がスパルタすぎたからよ……あーあ」

「えー? 普通でしょ、あれくらい? 灰皿が飛んでこないだけ、マシよ」


「監督…………」


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