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錦松雪姫の 脱! やまとなでしこ宣言! - 5

 主人公・高橋椋丞☆大復活!


 …………いや、半ば無理矢理「卒業」させられただけなんですが、実態は。

 グズグズとヴァーチャルの世界に入り浸っていた、【動機】を強引に消失させただけなんですが。

 それはそれとして、有能OL・宮居志帆の辣腕が為せる技。


 とにもかくにも、“真人間”への復帰を果たした我らが椋丞、

 自らのミステイクで招いてしまった『骨肉の争い』に終止符を打つべく、

 自分が出来ることを精一杯やるのが、音叉の魔術師としての本分でしょうに。


 …………と、理解っていても、ままならないのが人生というものでありまして……


 分かったよ、爺ちゃん。

 僕は魔術師の後継者として、本分を果たす。

 しくじってしまった過去は流せない。自分の尻は自分でぬぐうしかない。

 【秘密のエレベーター】で地上へ戻ってきた僕は、誤ってしまった事態の修正を誓……


 ……う、間もなく【事態】が向こうからやってきた。


「錦松さん????」


 上層階居住者向けのオートロックエントランス。

 その前に、馬鹿デカいキャリーバッグを引いた錦松さんが……唇を噛み締めながら佇んでいた。

「監督……泊めて頂けませんか?」


 軽はずみな気持ちで、願い出た言葉じゃない。

 それは彼女の真剣な表情から読み取れた。

(直接対決する相手(お母さん)と同居なんかしてられない!)

 その覚悟が伝わってくる。


 確かに、この製作委員会ビルはセキュリティ万全。

 重要な決戦を控えた錦松さんには、最適解といえる。


 ――しかし!


 しかしだ!

 僕と錦松さんって、どうしたって誤解を招く組み合わせだよ!

 風紀紊乱的にも、公正審査の意味でも。

 コンペの審査員に名を連ねる男の部屋に、候補者が転がり込むとか!

「どう考えてもマズいでしょ?」

 誰が見たって、あからさまな贔屓と解釈されてしまう。



「「椋丞くん!」」

 あーっ!

(どうしてこの人たちは!)

 話がややこしくなりそうなところへ狙い澄ましたように現れるのか?


「もー! ひどいー!」「ひどーいー!」


 馬鹿デカいキャリーケースを引いた旅装の二人組、藤村由綺佳と吉井春宵が怒鳴り込んできて、

「こんな極上据え膳を放って逃げるとか、なに考えてんの?」

「温泉で火照った女の身体を放り出すなんてアメリカなら訴訟級よ!」

「知りませんよ! アラウンドxx歳の性的欲求とか僕には預かり知らぬことです!」

「というか!」

「なにその女!」

 エントランスから天下の往来まで響きかねない馬鹿デカい声で!

 声優さんの痴話喧嘩、ご近所迷惑にも程がある!




 半ば衆人環視のエントランスゲートを離れ、三人を自室へ招き入れると……


「初めまして、ユアーズエンターテイメントの錦松雪姫きんしょうゆきひめです」

「ああ、どうもご丁寧に。アーキテクトプロ所属の藤村由綺佳ふじむらゆきかです」

「プロスペクト所属、吉井春宵よしいはるよです」


 声優さん特有の名刺交換スタイルでテンションも元通り。

 よく躾けられた、この振る舞い。養成所が厳しいのか、事務所の教育が行き届いているのか。


「あ? あなたもしかして伊勢原雛子さんの娘さん?」

 春宵さんが掲げた携帯の画面には、ヲタク系エンタメニュースの該当ページが。

 さすが宮居さん、仕事が早い。

 既に業界内(声優村)や耳の早いユーザーにも、コンペ(という体裁を採ったイベント)情報が行き渡り始めているみたいだ。



「で? …………どうすんの椋丞くん?」

 詰問口調の由綺佳さんに尋ねられても、

「どうもこうも、ご自身の性欲はご自身で処理して頂くしか……」

「その話じゃなくて」

「行くアテのない女子を追い出すの?」

 錦松さんの境遇には、春宵さんも同情的のようだ。

「いやいや、こういう場合、友達の家とか行くでしょ? 当然、同性の」

 家出するにしても…………男の家ってのは。言わずもがな僕は錦松さんの彼氏でもないですし。

「お友達は…………いません」

「いやぁ……」


 それは嘘でしょ錦松さん?

 言っちゃなんだけど、錦松さんはこの二人(由綺佳&春宵)なんかに比べたら、ずっと常識人のメンタルに近い。いきなり温泉旅行に強制同伴するような、はっちゃけ女子とは一線を画す。

 そんな子が『私は友達がいない』とか不自然でしょ?


「特別クラスの子は仕方ないよ」

 由綺佳さん、錦松さんの気持ちを代弁するように、肩をすくめながら説明した。 

「養成所生の中でも、特に有望な子が集められたクラスのことよ」

「へぇ……」

「特別クラスに入れないような子は、デビューできる見込みが恐ろしく薄くなるの」

「だから風当たりが強いのよ」

「足の引っ張り合いだから」

「そんな殺伐としてるんですか? 養成所って?」

「「「…………」」」

 渋い顔を浮かべた三人、「冗談なら良かったのに」とでも言わんばかりのクソデカ溜息で。


「でも! にしたって僕は審査員(選ぶ方)ですから!」

 母娘公開対決の告知には僕の名前も載っている。

 自宅に一方の候補を留め置くとか、とても許されない行為でしょ?

「椋丞くん……芸能界なんて一般社会以上に不公平がまかり通る世界なのよ?」

「愛人枠の一人や二人、どうってことないわ」

 由綺佳さんと春宵さんは真顔で僕をさとす。


 怖っ!

 これが芸能界なんですか?


「それに……贔屓したところで、どうせ錦松(この子)には勝ち目ないんだし」

「どう足掻いても伊勢原雛子に敵いませんか? 声優プロから見て」

 かつての人気声優とはいえ、最近は半ば引退状態だって聞きましたけど? 伊勢原さんは。

「いや、そういう問題じゃないのよ、椋丞くん」

「どうしてですか?」


「だって伊勢原雛子はモンスターだから」


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