錦松雪姫の 脱! やまとなでしこ宣言! - 4
「罪を犯したら罰を受けなくてはならない」、変な所で義理堅い我らが主人公、高橋椋丞くん。
自ら志願して祖父の寺へ出向いたものの……待っていたのは修験道の荒行ではなく、
「もっとガチャを引け!」という、敏腕OL宮居志帆の【誘惑】だった……
果たして我らが椋丞くん、進められるがまま、ガチャの堕落に身を窶してしまうのか?
ジャンキーとして社会不適合の人生を送る羽目になるのか?
そんな椋丞の前に現れたのは、思いもかけない「本物」のレアカードだった。
宮居の手配した「本物」は彼に何を与えるのか?
スーパーガチャジャンキー声優ストーリー(????)、
彼(椋丞)の末路? を見届けろ!
「お疲れ様でした~」
バスン。
満面の笑みを浮かべた阿国ちゃん、風のように去っていった……
「こ……これが『触媒』の力か?」
携帯を持つ手が震える。その【結果】に悪寒が駆け抜ける。
だって!
だってだって!
たった一回の召喚で「自分」を引き当てたんだよ? 彼女(阿国ちゃん)!
『本物』がやると、ここまで強力な引きを産むの????
噂以上だ!
なんという触媒力! すごいぞ本人!
「いや、というか!」
そもそもおかしいじゃないか!
今更ながら僕は気づいた。この状況に於ける、重要な前提の齟齬に。
【 何 故、 今、 阿 国 ち ゃ ん が 引 け る ん だ ? 】
彼女は期間限定PUのキャラで、恒常召喚では出るはずがない。
おかしいじゃないか? どう考えても、おかしい!
『ラブ・プロトコル・リーンヴェンション』は、限定キャラの出し惜しみにかけては、ソシャゲ界でも一、二を争う悪名高いゲームだ。
首を傾げながら、もう一度、召喚画面を確認してみると……
「あーっ!」
二度見どころの騒ぎじゃない!
なんじゃりゃああああああああああああああああああ!
『ラブ・プロトコル・リーンヴェンション 突発☆お客様大感謝祭! 全キャラ総放出祭り!』
と称して、全ての限定キャラがPUにラインナップされている!
「はああああ????」
ラブ・プロトコル・リーンヴェンション……というより、ソシャゲ界の常識ではありえない!
これはつまり、自分で自分の首を締める自殺行為に等しい。
サービスとしては破格の大盤振る舞いだとしても、
レアアイテムの希少性を安易に損なったら、重課金戦士たちにソッポ向かれて、売上が大幅にダウンしかねない【両刃の剣】!
運営休止前の一稼ぎ、じゃあるまいし……
『ラブ・プロトコル・リーンヴェンション』は、セールスランク上位常連の売れ線ゲームだぞ?
いつ、店じまいしてもおかしくないような泡沫作品とはワケが違う。
そんな捨て身の大出血サービスも目を疑うが、
「まさか……」
こっちの異常さも有り得ない。
僕のアプリのカードリストに燦然と輝く「NEW!!!!」の表示。
出雲という「土地触媒」での召喚に失敗した阿国ちゃんが、ちゃっかり僕の携帯で微笑んでる。
嘘みたいだ……
ラブ・プロトコル・リーンヴェンションのガチャ仕様として、
☆5を引き当てる確率は僅か1%、すり抜けを含めたら、0.7%、限定キャラは総数五十体以上が存在するワケだから……計算するのも嫌になるほどの極小確率。
そんな中から『自分』を引き当てるとか!
「途方もないぞ、声優の触媒力!」
「いちいち驚いてたら身が持たないわよ?」
ゲートキーパー宮居さん、早速、次なる『本物』を投入してくる。
「ボンジョルノ、シニョーリ、ボーダーブレイク!」
「ミケランジェロちゃん!?!?」
驚いている暇もなかった。
人類の美術史に燦然と輝くスーパーアーティスト(※女体化)は、チョチョイのチョイと、たった数度の召喚で『自分』引き当て、
「それじゃ、また指名してね♪ アリーヴェデルチ!」
と去っていった……
その後も、入れ代わり立ち代わり『本物』が現れては、
無機質な部屋に華やかなコスプレの花が咲き、乱数を嘲笑うように『自分』を引き当てていく。
つまり、
つまりここは――『☆5を当てないと出られない部屋』!?
そして……
いつ果てるとも知れぬ「コスプレ声優、わんこそば状態」も……遂に終焉を迎える。
延々と乱入者が雪崩れ込むバトルロイヤルも、スリーカウントでフィニッシュだ。
そう…………揃ってしまったからである。
五十体を超える限定☆5が全て――宮居さんの用意した最強触媒群のお蔭で。
前代未聞の「NEW!!!!」が五十体。
あまりの事態に驚き果て――僕はベットで干乾びた。
「椋丞くん、大丈夫?」
覚束ない足取りで【檻】を退出した僕には、彼女の労い(ねぎら)すら馬耳東風だったが……
「今までお疲れ様……」
その言葉に託された意味。
結果として彼女(宮居さん)の目論見は成功したのだ。
『ラブ・プロトコル・リーンヴェンション』というゲームは終わった――
サービス開始以来、バイト代を注ぎ込み、レアキャラを求め続けたソシャゲは終焉を迎えた。
製作委員会とは何ら関係ない別会社の制作・運営のゲームにも関わらず、
辣腕OL宮居志帆の裏工作【ピックアップスケジュールの大改変】と、声優という天下無双の触媒で、強制的にエンディングを迎えることになったのだ。
僕 の 中 で は !
僕 の 中 で は !
「僕の………僕の『ラブ・プロトコル・リーンヴェンション』は、これでゲームオーバーだ!」
「そうじゃ、椋丞! お主は生まれ変わったのじゃ!」
ソシャゲの軛から解き放たれ、真人間に戻った僕を――爺ちゃんが祝福してくれる。
「は……ははは…………」
なのに何故、
どうして涙が流れてくるんだろう?
喜ぶべきことなのに…………どうして涙が……ハハハ……
「泣くな、椋丞!」
「爺ちゃん……」
「悲嘆に暮れる前に、やるべきことがあるじゃろが?」
「!!」
「古より高橋家(魔術師の家系)は巫女を推戴する役目を担ってきた。それこそ、我が一族に生を受けし者の宿命ぞ!」
幼少から、ずっと爺ちゃんに諭されてきた「魔術師の心構え」。
これが音叉の魔術師としての生きる道。
「椋丞、自分で蒔いた種は自分で落とし前を着けてくるのじゃ!」




