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錦松雪姫の 脱! やまとなでしこ宣言! - 3


 自らが犯した罪とダメ人間っぷりに、反省反省、また反省の椋丞。

 魔術師の家系の者として、要らぬ騒動の発端になってしまったことを悔やんでも悔やみきれない。

 自分が余計なことをしなければ、丸く収まっていた話だったのに!

 錦松さんの順風満帆を、自分が邪魔してどうするのよ????


 でも、主人公がそんなんじゃ、お話なんて進むはずもない。


 がんばれがんばれ宮居志帆。

 この作品の浮沈も、君に掛かってるぞ!



「どこ行くんですか? 宮居さん?」

 拉致同然の勢いで音叉神社から連れ去られた僕は、ハイエース……ではなく、社用のコンパクトカーで山を下りる。

 ドライバーでもないのにガムテープデスマッチの手枷てかせめられ。

(僕は――山を下りてはいけないのに)

 いけしゃあしゃあと日常には戻れない。そんな恥知らずな真似は。

 不信心な魔術師に与えられるべきは【罰】――僕は、罰を受けなければならないのに。



「ここよ」

 見覚えのある町並みを抜け――宮居さんの車は、駐車場へ滑り込んだ。

「製作委員会ビルじゃないですか……」

 渋谷の繁華街から少しだけ離れた、坂の中腹に建つ高層ビル。その地下駐車場。

 製作委員会から(半ば無理矢理)充てがわれた部屋は、この数十階ほど真上だから……「自宅へ帰ってきた」とも言える。

「宮居さん……」

 僕を無理矢理、日常へ引き戻すつもりですか?

 強欲利益追求集団・製作委員会に属する者として、僕の首根っこを力づくで押さえつける気?

 製作委員会のために身を粉にして働けと?

 搾取に身を委ねろ、と?


「椋丞くん――私を信じて」


 うん。

 宮居さんは、そんな人じゃない。

 彼女は僕の味方。僕を尊重してくれる大切な理解者。無条件で背中を預けられる人だ。


 ……とは承知しているものの……


 この製作委員会ビルには幾つかの出入り口が存在する。

・通常のオフィス向けエントランス

・高層居住者用のオートロックゲート

 そして、

・秘密のコードを入力しないと動かない、イリーガルエリア行きエレベーター

 (製作委員会の幹部は「法的に問題なし」と言い張るけれど)


 宮居さんは三番目――最も悪い予感のする入り口へ僕を導いた。


 大型商業施設の搬入搬出用エレベーターよりも無骨な箱が…………【階数表示のないフロア】で動きを止めると……

「……!!」


 ――息を呑む。


 異空間へ導かれたのでは? と錯覚してしまうほどの視覚的違和感!

(なんだここ?)

 ホコリ一つないツルンツルンの壁面床面は、ほとんど鏡に近い。

 つまり、それほどまでに「何もない」「生活感に欠ける」風景なのだ。

 不気味な無機質さに足がすくむ。


「ここよ、椋丞くん」


 廊下、というよりはダクトの中を歩く小人気分で、辿り着いた先。

 録音スタジオ並みに厚い扉を、宮居さんが身体全体を使って開くと……


「えっ?」


 何もない。

 本当になにもない。

 ただベッドだけが据えられた――無菌室の不気味さ漂う部屋だ。

「ここで少々お待ち下さい、椋丞くん」

 バスン。

 ちょっとやそっとの力じゃ蹴破れそうもない質量感。

 そんな音で扉は閉まり、宮居さんは去っていった。

 僕一人を残して。



 テレビもネット端末もなく、ただ微かに流れるクラシックピアノ……

 窓代わりのパネルには風景写真が。花とか鳥とか自然とか、穏やかで風光明媚なスナップをスライドショウする。


 まるで独房だ。


 精神を病んだジャンキーが放り込まれる、「個室」という名のおりじゃないか。

 ここで反省文でも書いてろ、ってこと?

 お経でも写経してろ、ってこと?

 修験道の聖地で荒行に挑むよりも、医師監修のセラピーで真人間になれ、ってこと?

 この完全なるガチャ禁環境で?


「逆よ!」


 ――バァン!

 自省タイムを遮り、突然、扉は開く。

「逆?」


「椋丞くん――あなたにはガチャを引いてもらいます!」


 僕が思いもしなかった言葉を、宮居さんは言い放った。

「は?」

 それじゃ罰にならないよ?

 僕は最低のガチャジャンキーのままだ。

 何の進歩も改善も更生も反省もないまま、またぞろ悪い病気に苛まれるクズに逆戻りでは?

「それでいいのよ」

 確信に満ちた顔で宮居さんは――一人の女性を「檻の部屋」へと招き入れた。


「初めまして――出雲の阿国です♪」

「本物!? 本物の阿国ちゃん????」


 もちろん、歴史上の出雲の阿国を宮居さんがブッキングしたワケじゃない。

 彼女の優秀なる事務処理能力でも、タイムスリップなど荒唐無稽こうとうむけいすぎる。

 宮居さんのブッキング能力は現代でこそ、この業界だからこそ十二分に発揮される。

 つまり、彼女が連れてきたのは業界関係者――有り体に言えば、コスプレした声優さん、

 ゲーム的な意味で【 本物 】だ!

 だって声が同じだもん!


「じゃ、後は若い人にお任せして……」

 バスン!

 重厚な音を残し、防音 / 耐暴力扉は再び閉じられる。

 「檻」には残されたのは僕と「阿国ちゃん」のみ。

 ついこないだ、出雲で逢い損ねた☆5アサシンが実体化し……僕の隣に腰掛けている!

 歩き巫女をモチーフにした神聖さと淫蕩な雰囲気を併せ持つ、独特の衣装。

 場末の遊女の妖しさを振り撒きつつ、シャーマニックな巫女感も備える。

 ――――完璧じゃん!

 さすが【 本物 】!

 フィクションでありながらノンフィクション以上のリアリティを付与する者、

 役者さん、すごい!

 現実と妄想の境目を積極的に破壊してくる演者のすごみ、

 その存在感に僕の認知は歪みっぱなし、精神ディストーション!


 そんな狂った歪みに溺れる僕へ――――阿国ちゃんは言うのです。

「どんな格好が宜しいですか?」

「は?」

 ナニを言ってるんだ阿国ちゃん? 僕がオーダーしなくちゃいけない? ……何を?

 オプションですか?

 えっと、

 もしかして……

 つまりそれはもしかして?

 ここはいわゆる……【セックスしないと出られない部屋】????


「何か使う?」

「ど、道具ですか!?」

 初心者には高すぎる質問に僕が怖気づいてると……


「色々あるらしいよ~、なんでも使っていいってさ」

 おもむろに立ち上がった阿国ちゃん、クローゼットを開けると……そこは【宝物庫】だった。

 見たこともないほど広いウォークインクローゼットに、剣、槍、弓、盾、銃、あらゆる伝説上の武器や、聖なるさかづき、馬や戦車チャリオット…………のレプリカが。

 本物を模したイミテーションとはいえ、「宝物庫」と呼んでも差し支えないラインナップだよ!


「あ、これ……これ私の」

 「宝物庫」から阿国ちゃんが拾い上げた注連縄ウイップ。それこそ彼女の宝具だ。

 さすが本人、よく分かっていらっしゃる。


「さ、やろっか☆」


 と阿国ちゃんは僕に迫る。

 僕のスマホの――『ラブ・プロトコル・リーンヴェンション』の召喚画面を掲げながら。


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